vsジェリア

修復された舞台の上で僕の目の前に立つのはジェリア。

正直やりたくない。

昔の喧嘩がまるでお遊びだったかのように思えてしまう。


ジェリアは言った。

「全力で来い」と。


それは少なくとも僕が全力を出していないことは見切ったうえでそう言っている。

つまりここで全力でやらないと

彼女に本気で殺されかねない。


(覚悟を決めろよ…)


「あら、いい顔になったじゃないリリィ。

あんたが私と別れてからどれくらい強くなったか見せてもらう。

全力で来なさい。」


開始の合図も待つことなく彼女の指先が

紅く光り始める。

放たれた光線はまっすぐに僕の胸に向かって飛んできた。


「格納!!」


しのぎ切れるかは分からない。

正直弾くことができれば上々。


「まぁあんたはそうするわよねッ!!」


突如。体が横に弾き飛ばされる。

体が舞台に打ち付けられ何度も跳ねて止まった。


その間にも放たれ続ける光線を躱し続ける。


「なに逃げ腰になってんのよ。

あんたってホントに昔から変わんない。

正直がっかりしてんのよ。」


ジェリアの背後に魔法陣が現れ、

その瞬間ジェリアの動きが見えなくなった。


(無詠唱…!?)


その発動に目を取られた隙に

再び体が弾かれ飛んで、結界に衝突する。


「グハッ」


一瞬息ができなくなった。

背中含めありとあらゆる場所を強打している。


「治癒」


「そんな暇あるのかしら!?」


背後から聞こえた声と共に

気付けば空中にはね上げられていた。

ルロイが場外で何か叫んでいるのが見える。

まるで消音結界が張られているかのようにその声だけが聞こえない。


(なに、言ってるの?)


その様子がさらに慌ただしくなる。

だからちゃんと声出して…


「避けろリリィ!!」


「!?」


たしかこんなこと、さっきも見たような…

気付いた時には視界が紅の光に包まれていた。


◇◇◇


「避けろリリィ!!」


ルロイが叫んだ時にはもう遅かった。

彼は巨人族と人間の混血であり、

巨人族由来の体の強さをもって生まれてきた。


だからこそジェリアの紅玉炎を受けても無事だったのである。

しかし今まさに同じ状況に立たされている彼女ではそうはいかない。


有翼族はその速さに全てを振り切った種族であり、

その分攻撃力はおろか、防御力なんてものは皆無に近い。

速さこそが全て、

その速さをもってすればもはや防ぐ防がない以前の問題である。


ルロイでも分かるそれをジェリアが知らないはずがなかった。


(あのクソ女、散々痛めつけて動けなくしてから

まともに回避も出来ねぇ空に打ち上げたってのか…)


ジェリアは本気だ、あわよくば殺すほどの気概で挑んでいる。

ルロイは薄々感じていた。


助けに入ろうとも考えたが

ジェリアに言われた「手、出すんじゃないわよ」が彼を引き留める。


(死ぬんじゃなぇぞリリィ…)


目の前で繰り広げられている

決闘を通り越した蹂躙に彼は唇をかんだ。


◇◇◇


「避けろリリィ!!」


ルロイが叫んだであろうその言葉に

ふわふわとしていた意識が一気に引き戻された。


(避けなさい!!)


体がふっと横に引かれる。

聞こえた声からいて女神様が助けてくれたんだろう。


「ありがとうございます。」


(そんなこと言ってる場合じゃないわ。

次、来るわよ。)


一難去ってまた一難。

避けさせまいと次々に放たれる光線が迫ってくる


ジェリアに対抗する手段が一つだけある。

でもそれはうまくいくかは分からない。


だから


思い出せ、あの時のジェリアの発動させた巨大な魔法陣を。


魔法とはそれすなわち創造である

自身の望む理想を創造という手段を用いて現実で展開する。

それこそが魔法の原形である。


天術目録の背表紙に書いてあった

賢者ロステリウスの言葉。


創造すること。

できるできない関係なく、それを引っ張りだす少しの創造力。

それが魔法には必要だそうな。


ジェリアは強い。

それこそ僕なんかが横に立っているのがおこがましい程に。

でも彼女は僕が横に立てるように、


ジェリアの魔法を打ち消す魔法。

一度は失敗したけどそんなのは昔の話。


今こそ彼女の期待に答えられるように…

いつか彼女の横に胸を張って立っている自分を創造しろ。

僕の望む理想を今ここで現実に。


消滅ゾルテジア!!」


空を魔法陣が覆う。

あの時の比じゃない大きさのそれは詠唱の通り魔法を展開した。


目の前にまで迫っていた光線が霧散する。

さっきまでは目でも追えなかったジェリアの動きがわずかに遅くなる。

それでも十分だ。


背中で翼が広がったのが分かる。

まるで女神様が「やっちゃいなさい」と言っているのかのように。

…いや、あの女神様なら言いかねないか。


「まぁあんたもやられてばっかなわけないわよね。

面白くなってきたじゃない」


ようやくジェリアが姿を現した。

消滅ゾルテジア』で魔法の効果が消えたんだろう。

よくもさっきはボカスカと…


ジェリアが再び魔法を発動しようと手を伸ばす。


が、しかし魔法はおろか魔法陣さえ出現することはなかった。


「なっ!?」


全てがうまくいくと思っていたんだろう、

あたふたするジェリアを見ると愉快な気持ちになる。


一度だってうまくいったことがなかったが

今回はおおむね成功と言って良いだろう。


消却エリミネーション』からさらに効果が底上げされた魔法『消滅ゾルテジア


効果がその時限りのみならず

一定の期間持続することから使う力は『消却エリミネーション』の比ではない。

正直、今も持続させるだけで手一杯だ。

今にも気を失いそうでもある。


でもここでジェリアと対等に戦えなければ

弱い僕は元より、弱さにだって意味があると信じてくれた

あの青年の期待さえも裏切ってしまう。

それは僕が彼女の横に立つ未来さえも遠のいていくことを意味する。


だからこそ


「ジェリア、あんなので終わりじゃないでしょ?」


「あんたも言うようになったじゃない。

泣いて謝っても遅いんだからね」


これでこそ僕とジェリアだ。


◇◇◇


召喚サモン


空中に咲き乱れるユリの花、

その花びらの一枚一枚が地面へとまるで矢のように降り注ぐ。


「あんた、こんな魔法私に教えなかったじゃない。」


その声と共に弾かれた花びらの一枚が地面を切り裂く。

降り注ぐ白の雨をジェリアは魔法を使うこともなく

ただその身に宿した力のみで弾き、砕き、叩き潰す。


(まぁそうなるよね。)


ジェリアと別れて数年、

郵便屋に戻ったとはいえ魔法の練習を怠ったことはなかった。


それはただ単に仕事に役立つと言われていたのもあるけど、

本当は…

ジェリアに魔法で負けていたような気がしていたから。


ジェリアと違って僕には基礎的な身体能力はない。

だからこそ魔法なら優位に立てると思ってたのに

それすらも打ち砕いてくる彼女を僕はどう思ってたんだろう。


その答えはまだ分からない。


(だからこそ今ここで僕の全てを見せる。

君が全力を出してくれるから。)


「いい顔になったじゃない。」


ジェリアが指を構える。

その指先には炎がうずまき、今までにないほど明るい光を放ち始める。


それを見て理解した。

ジェリアはこれで決めようとしていることに。


ならば僕も…


すっと伸ばした指の先に舞い散る花びらがうずまき始め、

渦巻く力の本流がより速くより激しくなる。


紅玉炎スカーレット・レイド

天啓白花凛リリィ・ブレスト


赤と白がぶつかり合い、衝撃波で地面にヒビが入る。


竜人族たちが必死に結界を張ろうとするものの

その努力虚しく跡形もなく結界が崩壊していった。


さすがはジェリアだ。

あれだけ連発した後にまだこれほどのものを隠していたとは。


でもそんなジェリアだから、

僕は勝ちたいと思ってしまったんだ。


「だぁぁぁぁぁ!!」


(自分の力を全部使って、

魔力も霊気も全部引きずり出して今ここで撃ちだせ!!)


気を失いかけたその時、

感覚が研ぎ澄まされた一瞬の間。

その瞬間にわずかに、ほんのわずかに自分の中の何かに触れた…気がした。


舞い散る花びらが白い光を放ち、

さらに速く強く風が吹く。


まるで一点に吸い込まれたかのように周囲の音が聞こえなくなる。

目の前に広がった無音の世界。


その静寂を破ったのは白く輝く光。


圧倒的な反動を指先に感じたが最後。

白の光が赤の光を消し飛ばした。


◇◇◇


気付けばそこは舞台の上。

舞台の原形はおろか地面ごと深くまで抉られたそこに僕は倒れていた。

ジェリアの膝の上で。


「で、どうなったの?」


「あんたが先に気を失ったから私の勝ち。

でも私はこんなの認めない。

いつか私があんたより強いってこと教えてあげるわ。」


周りに竜人族たちがいるのを見るに

それほど長い時間寝てなかったようだ。


「そこの者たち、立たれよ。」


その声にジェリアが立ち上がる。

僕も彼女の肩を借りてなんとか立ち上がった。


そこにいたのは竜人族の長。

近くで見るとやはり凄まじいオーラをその身にまとっているのがよく分かる。


「なによ?私が勝ったからってイカサマだって言うんじゃないでしょうね?」


「結果は結果じゃ。認めてやろう。

そなたが時代の竜人族の長となるのj…」


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