リリィvs

目の前に立つ竜人族、

でもどうしてだろうか?威圧感がジェリアと比べてないような。


「君が竜人族に干渉するに値するかどうか

私が確かめてやろう。」


腕を組んでこちらを品定めするかのように見る青年。

何て言うか…インテリ系っていうか…


そういえばジェリアが僕の対戦相手を見た時に

ため息をついていたのを思い出す。

たしか、「運が悪いわね、あんた。」だったかな。


「さぁ始めようか。

まぁそうだな。君から来たまえ。」


そうだなぁ、来たまえって言われても…

僕も物騒なことしたくないし…


「格納…」


できなかった。


「やはり君は魔法を使うようだ。

ジェリアと例の少年が体術寄りだったからな。

残る君が魔法を使うというのはバランス的に考えれば当然の話。」


ジェリアはこれを分かってて運が悪いって言ったのか。

この竜人族、僕よりも魔法においては秀でている…


「!?」

突如、場外からの音が聞こえなくなった。

見渡せばうっすらと天幕のようなものが見えたような気がする。


「安心したまえ。ただの消音結界だ。

君と話すには少しばかり外野がうるさいのでね。」


「僕と何を話そうっていうんですか…」


一息置いて、青年は口を開いた。


「君に竜人族を変える覚悟はあるのか?」


◇◇◇


「君に竜人族を変える覚悟はあるのか?」


青年は問う。

まるで心を見透かしたように僕を見た。


「我ら竜人族は誇り高いと銘打って排他的に暮らしてきた。

そこで生まれた価値観はそう簡単に変えられるものではない、

もう一度問う、君に覚悟はあるのか?」


「彼女の頼みなんです。

未来を生きる竜人族のためって。だからやらなくちゃいけないんです。」


ジェリアの頼み、

でもそれ以上に未来を見ていた彼女の姿に惹かれた。


自分のためじゃない、ましてや自分を犠牲にするかもしれないような

賭けに出る彼女を少しでも支えたい。

その気持ちに間違いはなかった。…はずだった。


「浅いな、浅すぎる。

友の頼み?未来のため?君の目的はそんなものじゃないだろう?」


髪に隠れた片目、

もちろん僕からは見えない。

それなのになぜこれほどまでに存在感があるのだろう。


「そうだな、言い忘れていた。

私に隠し事は通用しないぞ。」


髪を上げた奥から覗く目は

まるで僕の全てを見透かさんとしているようだった。


(見透かす…まさか。)


ジェリアの言葉が蘇る。

竜を信仰することでその力の一部を得る、だっただろうか。


僕のみ間違いでなければ

青年の目はこの時以前にも見たことがある。


この心の奥底まで無遠慮に覗いてくる感じ。

間違いない…


「私の信仰贈与ギフトはゼルキア様の目だ。」


◇◇◇


「私が納得できる答えを返したまえ。

そうすれば私は負けを認めよう。しかし、それができないのなら…」


雰囲気が変わった。

ジェリアほどではないにしろ、それとはまた別方向に強大な覇気。


「ここで死にたまえ。」


頬を見えない斬撃がかすめる。

一筋の血が頬を伝って静かに流れていく。


「未来のため?違うだろう。

君の心の奥底、そこにはもっと別の理由がある。

違うか?」


青年が問いかける間にも斬撃は飛んでくる。

その全てが体に当たるか当たらないかのもの。

『格納』で回避しようにも

この青年の妨害が入らないとは思えない


(僕の心の奥底…)


「君自身の意志でジェリアを助けようとしているのか?」


天使という存在。

自分がそうありたいと願った『無償の愛』としての役割。


捉われていた。


自分の意志だと思っていたそれを僕は

天使としての役割と混同していたのではないか…


それでも…


「『無償の愛』、それこそが僕の役割だから。望む在り方だから。

でもそれを全部含めて僕なんです。

ジェリアを助けたいと思った気持ちと混ざったそれも全部含めて僕の意志です。」


青年の目を見る。

これが僕の意志、全部自分なんだ。

ジェリアを思う気持ちも、自分の在り方の押し通しも

その全て、ジェリアなら受け入れてくれる。


「君は自分の目を利己的な部分も含めて君だというのか?

それを知ったジェリアはどう思うだろうな?」


「あの子はいつだって我が儘で、これっていったら聞かなくて、

まっすぐで…

でもそれ以上に優しくて強いんです。

僕の我が儘の一回くらい笑って許してくれますよ。」


「しかしそれはジェリアに頼りすぎなのでは?」


頼ったのは僕だけじゃない。


そこの知れない強さを持つジェリアが頼ってくれた。

あの時一瞬だけ見せてくれた彼女の弱さ。


孤高の強さは孤独だ。

でもジェリアが見せた弱さは少なくとも僕に「助ける」という居場所をくれた。


「弱さは誰かの居場所になりえる。

ジェリアが作りたい未来もそこにあるんじゃないでしょうか。」


青年が目を髪で隠す。

背を向けて歩き出した。


指を鳴らすと同時に結界が解除された。

場外からの喧騒が再び戻ってくる。

その中で彼の声がひときわよく聞こえた。


「強さではなく弱さに価値を見出すのは弱者の考えだ。

しかし君はそれによって救える者がいると言うんだな。」


「はい。」


もうその目は僕を見てはいない。

僕の心が覗かれることもない。

でもこの人にとってそんなことはどうでもいいように思えた。


「ならば進むといい。」


その言葉だけがまるで消音結界の中にいた時のように一際大きく聞こえた。

青年が舞台を降りる。


「だ、第五試合勝者、部外者リリィ。」


どうにか納得してもらえたみたいだ。

今になってジェリアが運が悪いといった理由は魔法に関してだけじゃない気がした。


「頑張ります。」


青年が消えていった方に向かって

そう一言だけ呟いた。

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