ジェリアvs ルロイ
青年との試合を終え、戻った僕にジェリアが飛びついてきた。
「あの野郎に何かされなかった?
結界が張られてて何も聞こえなかったんだけど…」
「う、うん大丈夫…」
ジェリアに聞かれなくてよかったと思う。
何か余計な詮索orあの青年の身も安全を考えた時に
何も話さない方が吉と見た。
「ホントでしょうね…」と僕の顔をギロリと覗き込み、
じとぉ~とでも言いそうな雰囲気で見回す。
「じとぉ~」
言うのかよッ!!
◇◇◇
次の試合、最も恐れていたことが起きた。
「へぇ、次あんたなのね。
せいぜい頑張んなさい、まぁ無駄だろうけど。」
「知ってるか?それって負ける前兆なんだぜ
まぁいつかのリベンジだと思ってボコボコにしてやるよ。」
二人の間の邪悪な雰囲気に周囲の竜人族もドン引きしている。
その真ん中で何も気にせず
にらみ合う二人。
「ほら二人とも、そろそろ呼ばれるよ…」
誰も声をかけようとしない。
審判役の竜人族すらも声をかけることを厭うような様子を見せた。
(そんな助けを求めるような目線を向けないで…)
僕だって今のこの二人の間には入りたくない。
猪戸の危険さえ感じる。
でも僕しか入れないし、そうしないと御前試合も進まない。
「ほら二人とも…」
さっきのじゃ聞こえてなかったか…
ホントにこの二人は…
「リリィ、私が勝つに決まってるわよね!?」
「ンなワケねぇだろう。俺が勝つに決まってるよな!?」
あぁ命の危機…
一刻も早くこの場から立ち去りたい。
◇◇◇
「第五試合、開始…」
開始の合図さえもいつになく覇気がないような。
心中お察しします…
「結果なんて最初から分かってるんだから
始めからこの勝負、降りたらどうなのよ?」
「そっくりそのままお前に返してやるよ。
今日こそお前の牙、抜いてやるよ。」
舞台に上がっても一切雰囲気が変わらない二人。
御前試合は名ばかり、
個人的な因縁による喧嘩が今にも始まりそうだけど…どうするのさ。
(結界張りなさい。あの二人が本気でやり合ったら
ここら一面塵になるわよ。)
ですよねぇ…
でも結界なんてどうやって。
(私が力貸したげるから、あなたはいつも通りにしてなさい。)
よく分からないがひとまず何もしなくていいとのことで
…って腕が勝手に!?
さっきまでなかった違和感。
まるで自分の体が自分のものじゃないかのような感覚がした。
「守護結界」
口がそう唱えた途端、体が解放される。
さっきの違和感もきれいさっぱり消え去った。
「これでいいんですか?」
(なによ!?疑ってるの?
私が直々に施したんだから大丈夫に決まってるじゃない!!
ほら、前見てみなさい。前。)
言われたとおりにすると
ジェリアとルロイが組みあっているのが見えた。
撒きあがる土煙からその場がいかなるものかは容易に想像がついたが
こちらにはその衝撃波の一切が伝わってきてないない。
(ね、言った通りでしょ?
大丈夫よ。私、こう見えて最強格なのよ。)
そうですかそうですか…
この話、聞けば長くなりそうだったため途中で女神様との会話を切った。
「あ、ちょ、最後まで」の所は聞こえたが
それ以降、彼女が何うぃおうとしていたかは想像に難くない。
「クソガキ、あんたちょっとはやるじゃない。」
「お前こそ、前よりちょっとはマシになったんじゃねぇか?」
ルロイの挑発によりジェリアの額に浮かぶ青筋、
ジェリアの端正な顔が怒りに染まる。
組み合った手をいなし、ルロイを空へ投げ飛ばすやいなや
ジェリアは天に向かって手を掲げた。
(まさか…)
「あんた、生意気にもほどがあるのよ。『
彼女の手から放たれた深紅の光線が
空中で身動きの取れないルロイに迫る。
「消ky…」
ルロイが死ぬ。
直感的そう感じた、だから消却で消せないにしても少しでも弱まれば上々。
しかし発動しない。
その時気付く。
ジェリアの掌で光る魔法陣、それは僕に向けられていた。
こうなることが分かっていてジェリアは…
「邪魔すんじゃないわよ!!
これは真剣勝負なの、それにね…」
意味深に言葉を切った彼女は光線が放たれ
爆風が吹き荒れる空を見上げて笑っている。
「あのクソガキはこんなのじゃくたばらないわ。」
信じがたくもジェリアはそう言い放った。
ジェリアの光線が空中のルロイに直撃してから数分。
未だに爆炎は収まっていない。
その炎の中から何かが飛び出し地上に迫ってきた。
「
ジェリアが叫ぶと同時に魔法陣へ拳が叩き込まれる。
本来であれば格納はいかなるものでも取り込める。
例外はその格納魔法自体が格納を拒否するようなモノ。
例えば
「目覚ましに丁度良かったんじゃないかしら?」
「あぁ。よーく目が覚めたわ。
これで心置きなくお前をぶっ飛ばせる。」
巨人族の力を使う少年のパンチとか。
僕自身も初めて見た。
魔法が拒むほどの強さ、その強さにより結界が軋んでいる。
「あんたはいつだって力任せだから
単純で分かりやすいのよッ!!」
ジェリアが掲げた魔法陣が消え、
支えを失ったっルロイの体を再びジェリアが投げようとした時だった。
「同じことされりゃ、二回目は引っかからねぇわな。」
いなした手を逆手に今度はルロイが
ジェリアを投げ飛ばす。
もはや投げ飛ばすという表現すら怪しいそれによって
ジェリアは舞台に半身埋められていた。
何処かで見たことのあるような光景。
まぁただの偶然だろう…
「お前、昔騎士団長にこうやって埋められたみたいじゃねぇか。
騎士団長から聞いたぜ。
どうだ?久々に埋められた気分は…
って言っても聞こえてないか…」
(偶然じゃなかったぁ―ッ!!)
マズい、これは非常にマズい。
ジェリアの前で出してはいけない話TOP3に入る話題。
それが例の「埋められた事件」なのだ。
いくらまだ小さかったとはいえ、
隠したと思って挑んだ相手に何食わぬ顔して埋められたんだから。
あの後ジェリアはかなりへこんでいた。
それこそ喋り方まで変わってしまうほどに。
(ルロイ、それは地雷だよ。
その話、しちゃダメ。ストップストップ。)
身振り手振りで伝えようとするも彼はさらに勘違いしたようで・
「おい、リリィもお前が埋まってるの見て笑ってるぞ。
よかったじゃねぇか、ちょっとは場を盛り上げれて。」
何を勘違いしたのか
話を僕にまで飛び火させてきた。
こんなのジェリアに聞かれでもしたら…
いつも通りなら理由も聞いてくれそうだけど
如何せん今は恐らく不機嫌の絶頂。
埋まったジェリアの前で悠々と話し続けるルロイ。
しかしその足元に埋まっていたはずのジェリアはもういなかった。
「へぇ…そう、リリィが…
あの子にもお仕置きが必要ね…
でもあんたの方を先にやらなくちゃ…いけないわよねぇ。」
気付けばルロイの首に背後か巻かれた腕。
ルロイの耳元で囁いたその声は妖艶で
静かに、でも確かな響きを持って僕の耳にも届いていた。
「なにっ!?」
ルロイ気付くも遅く、ジェリアにやったように埋められた。
抜け出そうともがくもそう簡単には抜け出せない。
「まぁせいぜい私を怒らせたこと後悔しなさい。」
ジェリアの指先が紅く光る。
舞台が深紅の光に包まれた。
◇◇◇
土煙が晴れた頃、
舞台は跡形もなく消し飛び
(恐らく)舞台があったであろう場所でルロイが伸びていた。
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