ルロイvs
「あのクソガキ、大丈夫なの?」
御前試合初戦、竜人族が出るのは当たり前として
その相手として呼ばれたのはルロイだった。
まさか初戦だなんて考えてもいなかった。
寝ぼけ眼、目半開きのルロイをなんとか起こそうとしたものの
完全には起きていない微妙な状態で送り出してしまった。
本人は「大丈夫だ…俺はつよ…」と
舟をこぎながら舞台に上がっていく。
ジェリアの心配はごもっとも。
ルロイだから大丈夫と言ってあげたいが今の状態を見るにそうもいかない。
「第一試合、始め!!」
掛け声とともに舞台にヒビが入り、
ルロイの前に竜人族の青年の姿が現れた。
「この異物が。竜の力を思い知れ!!」
そのままモロに攻撃を受けたルロイは跳ね飛んで舞台に倒れ込む。
思わず立ち上がりそうになった僕を
ジェリアが押しとどめた。
「決着がつくまで介入はできない。
それが御前試合の決まりなの。」
そういうジェリアも手を固く握り、
歯を噛みしめている。
今にも砕けそうなほどに噛みしめられた歯に込められた感情が
ルロイに対する物か、それともあの青年に対する物かは分からない。
「僕はが力を示して、ジェリアに求婚するんだ!!」
瞬間、時が止まった。
青年がルロイに攻撃を続けるのも置いておいて時が止まった。
今、あの青年はジェリアに求婚するって言った!?
しかもルロイを痛めつけながら。
脳が情報を処理しきれない、脳が理解を拒んでいる。
横のジェリアも放心状態。
ただその目は語っていた。
「え、なに、おふざけも大概にしてほしいわ」と。
青年の独白は続く。
「僕たち竜人族にとって必要な物、それは強さだ。
強ければ自分の望みの全てが叶う。それが我ら竜人族の鉄の掟さ。
だからゴメンね少年。君には踏み台になってもらう。」
ルロイの頭をつかんだ青年は高揚した様子で
ルロイを地面に叩きつける。
叩きつけられた頭を中心として舞台には大きな亀裂が入った。
ルロイはピクリとも動かない。
これがジェリアの言っていた弱肉強食。
彼女が忌み嫌う理由が少しわかったかもしれない。
「さぁジェリア、僕と…」
場外にいるジェリアを目ざとく見つけて
愛の言葉をささやこうとした青年の後ろでのそりと立ち上がる影。
「ダメなことしたら、
まずは『ごめんなさい』だよなぁ」
およそその背丈からは想像もできないほど
地獄から這い上がってきたような声でつぶやいたソレは
青年の頭をつかみ、舞台へ叩きつけた。
誰も想像のつかない展開に場外は静まり返る。
僕もあそこまでやられたルロイが反撃に出るとは思わなかった。
ジェリアも口を手で覆い
「嘘…でしょ。」ともらす。
誰も予想できなかった奇襲に一番驚いたであろう青年は
地面に伏した状態から尻尾を振り回し、
ルロイを弾き飛ばした。
「よくもよくもよくもよくも
ジェリアの前で恥をかかせてくれてなぁ!!」
額に青筋を浮かべ、握った拳には爪が食い込んで皮膚を割いている。
そんな青年を目の前にしてもルロイは冷静だった。
二人の間に沈黙が流れる。
先にそれを破ったのはルロイだった。
「お前は大きな勘違いを二つしている。」
「そんなわけないだろう!!」
まるで相手を挑発するかのように
「ふん」と鼻を鳴らしたルロイはこう続けた。
「まず一つ、その女は強さを至上の価値として見てはいねぇ。
そして二つ、その女の目にはリリィしか映ってねぇよ。」
「「なっ!?」」
僕とジェリア、同時に同じ言葉が飛び出す。
ルロイ、何言ってるの!?
たしかに一つ目は間違っていない。ジェリアの口から確かに聞いた。
じゃあ二つ目は?
ウソだ、根も葉もないウソに決まってる。
「ねぇジェリア、あれって…」
途中で聞くのをやめた。
なんでかって?
それは…ジェリアがものすごい真っ赤になってたから。
「おい、クソ女?ホントのことだよな?
おーい、聞こえてないか?もうちょっとでかい声で言った方がいいか?
ホントのことだよなぁ!?」
「うっさい!!黙ってなさい!!」
数秒前までトリップしていたジェリアさんが戻ってきた。
爆弾投下しまくったルロイのおかげで…
「ジェリアが…そんな、そんなわけない!!」
ここにも被害者が一人。
それを見てルロイもニヤニヤしてる。
あれ絶対、あとでジェリアに怒られるやつだよ…
僕、助けないからね…
◇◇◇
「よくも僕の心を弄んでくれたな!!
喰らえ、竜眼束!!」
一瞬にしてルロイの体が動かなくなる。
が、心配したのも束の間ルロイが呆れたように言った
「これ、いつまでやってればいいんだ」と共に
全身に力をこめ、束縛を解いてしまった。
そこからは青年が技を出すとともに
ルロイが弾き飛ばし、叩き潰しを繰り返し
最後にはルロイのワンパンで青年は場外に飛んでいった。
「し、勝者、部外者ルロイ。」
◇◇◇
首をひねりながら舞台から降りてきたルロイに
お疲れ様と声をかけようとしたんだが、さっきまでいたはずの場所に彼はいない。
僕の横を高速で通り過ぎた何かに攫われていった。
いや、何かじゃないな。
だって連れ去られたルロイの声が天幕の裏から聞こえるんだもん。
そして連れ去った張本人、ジェリアも。
「あんた、何言ってくれてんの?
私の評判下がっちゃうじゃない!!」
「なんだ?お前ずっとリリィのこと目で追ってるじゃねぇかよ。
違うのか?何で否定しないんだ?」
ルロイ…それ気付いてないかもだけど煽っちゃってるんだよ。
もちろん煽り耐性のないジェリアがそれに耐えらえるわけもなく
「このクソガキぃ、分かったわ。
そんなに私を分からされたいなら今から前の続きよ。」と凄む。
ましてや血の気の多いルロイが止まるはずもなく
「俺もさっきのは不完全燃焼だったんだ。
丁度いい、俺に挑んだこと後悔させてやる」とノリノリで。
第二試合開始の合図が聞こえたが
それよりも向こうの方から聞こえる嵐のような音が気になってしまう。
(もうホントにやめて…)
この場にいるのが恥ずかしくなった。
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