祝福
あの特訓の日から毎日朝起きると枕元にジェリアが立っている日々。
そんな日が続いた。
「さぁリリィ、特訓行くわよ!!」
朝からお元気なことで…
どうせ断っても連れてくんでしょ。
今日まで何度も試してみたが全て無駄だった。
文字通り力の前には何もかも無意味。
どんな言い訳しても布団を引っぺがされて連れて行かれたことを思い出す。
「分かったから…あとちょっとだけ…」
「寝ボケてんじゃないわよッ!!」
あぁ無常…
寝ぼけ眼をこすりながら周りをよく見ると
自分の周りが何やら光っているような…
なんだよ朝から、騒がしいし眩しいし。
ホントにやめてほしい。
せめてお昼くらいからにしてほしい…
◇◇◇
そりゃ力は貸すとは言ったし、手伝うとも言った。
だけどこれ以上は僕の体がもたない。
連日行われる特訓、
その激しさは日に日に増していった。
特訓が終わるたびに残る疲労は『治癒』だけでは回復せず、
翌日に持ち越した状態で再び特訓という名の蹂躙が始まる。
「はい、今日はここまでにしましょ。
明日が御前試合だもの。
万全の状態にしておかないと。」
ジェリアが体のコリをほぐすようにして伸びをする。
一方で僕にはそれをする元気すら残っていない。
連日の特訓で
なんとかジェリアの速度には慣れ始めた。
でも恐らくジェリアはまだ本気を出していない。
なんというか僕が彼女から感じる圧力はこんなものじゃない。
「あんた、何フヌケた顔してるのよ。
御前試合は明日なのよ。ほら手、出しなさい。手。」
言われ通りに手を出すと彼女の手が重なる。
重なった手を魔法陣が覆い、優しい光が照らした。
同時に全身に残っていた疲労感が一気に抜ける。
体の芯から感じていた重さも節々の痛みもその全てがきれいさっぱり消え去った。
「これって…」
「治癒じゃないわ。
そのさらに一段階上位の魔法、
私が独学で身に付けたのよ。」
まさかジェリアが独学で魔法を身に付けているとは思わなかった。
しかし彼女もギルドに登録する冒険者、
世界を回るほどならそんなことがあってもおかしくはない。
「あんたが教えてくれた治癒がベースになって、
今の私だけの魔法ができてるのよ。
だから…その…感謝してるわ。私が強くなれたのはあんたのおかげ。
だからそうね。
明日、決勝まで上がってこないと許さないわ!!」
僕の体を診察するように確認した後、
背中を強めに叩いて本人は帰っていった。
本人は軽いつもりだったんだろうけど…
なんか別のこと考えてたんだろうなぁ。
ジンジン痛む背中には恐らく彼女の手形が残っていると思われる。
◇◇◇
今日はいつになく目が覚めた。
いつもはジェリアに叩き起こされる日々が続いていたからだろうか。
朝の空気は冷えていて身も心も引き締めさせられる。
「なによ、今日は早起きじゃない。
まさか緊張して寝られなかったワケ?」
「まさか。昨日の快麗でこの通りピンピンしてるよ。」
体を伸ばす。
どこにも違和感がない、どんなことでもできそうな感覚。
今なら…
横を見るとジェリアの手がわずかに震えていた。
これは寒さによるものか、それとも…
「ジェリア、手貸して。」
ジェリアの手を取り、いつか読んだページを思い出す。
「女神の祝福の力の片鱗、我らに与えたまえ。『祝福』」
重なった手から光がもれる。
朝の冷え込んだ空気の中だからだろうか、
ほんの少し手が温まったような気さえする。
「これ何よ?」
「祝福っていう魔法だよ。
ほんの少しの幸せを引き寄せる魔法なんだって。」
返す答えにジェリアはよそを向いてしまう。
僕、何か気に障ることでもやっちゃったかな…
「わ、私は誇り高き竜人族よ。
運気が上がるとか、幸せを引き寄せるなんて信じないわ!!
で、でも…その…ありがと。ちょっとは緊張もほぐれたわ」
やっぱり緊張してたんだ。
そういえば昔からジェリアは緊張すると手が震えてたっけ。
「御前試合、必ず決勝まで来なさい。
そして私と本気で戦いなさいよ。」
ジェリアは本気だ。
僕も答えなくちゃいけない。
◇◇◇
あの後、直前まで寝ているルロイを叩き起こしたりして
御前試合開幕のギリギリになって滑り込んだ。
当たり前だが周りは竜人族だらけ。
僕たちを品定めするような目で見てはヒソヒソと話している。
「しゃきっとしなさい。
あんたのことは私だって認めてるんだから。
胸張っときなさい。」
この状況でその言葉はありがたすぎる。
思わずこぼれそうになった涙を何とかこらえた。
そして僕たちが見られている原因はもう一つある。
「おいリリィ、なんだ…朝から…叩き起こして…」
僕が今、背中に背負っているルロイだ。
思えば僕とジェリアが特訓しているときはおろか、
昼も夜も姿を見ていなかった気がするがどこに行ってたんだろう?
まさか…
「ルロイ、ずっと寝てたんじゃないよね?」
まさか。これでもこの子は郵便屋で働いてる。
普段は朝も早いんだから、
まさかここ数日ずっと寝てたなんてありえないはず。
ありえないはずだったんだけど。
「なんだ?寝てたに決まってるだろ。
いつも早いんだ。こんな機会逃すわけには…」
「あんたバカぁ!?
そんな調子で御前試合勝てるわけないじゃない。
どうしてくれんのよ…
あんたくらいでも戦力にはなるのに…」
「まぁまぁ落ち着こうよ。
ルロイならさ、大丈夫だって。
どうにかできるよこの子なら。」
御前試合の直前だってのに何たる緊張感のなさ。
余計に注目の的になってしまったいる。
後で聞くところによれば御前試合の直前、
やけに騒々しい三人組がいたとかいなかったとか…
…誰のことやら。
あの特訓の日から毎日朝起きると枕元にジェリアが立っている日々。
そんな日が続いた。
「さぁリリィ、特訓行くわよ!!」
朝からお元気なことで…
どうせ断っても連れてくんでしょ。
今日まで何度も試してみたが全て無駄だった。
文字通り力の前には何もかも無意味。
どんな言い訳しても布団を引っぺがされて連れて行かれたことを思い出す。
「分かったから…あとちょっとだけ…」
「寝ボケてんじゃないわよッ!!」
あぁ無常…
寝ぼけ眼をこすりながら周りをよく見ると
自分の周りが何やら光っているような…
なんだよ朝から、騒がしいし眩しいし。
ホントにやめてほしい。
せめてお昼くらいからにしてほしい…
◇◇◇
そりゃ力は貸すとは言ったし、手伝うとも言った。
だけどこれ以上は僕の体がもたない。
連日行われる特訓、
その激しさは日に日に増していった。
特訓が終わるたびに残る疲労は『治癒』だけでは回復せず、
翌日に持ち越した状態で再び特訓という名の蹂躙が始まる。
「はい、今日はここまでにしましょ。
明日が御前試合だもの。
万全の状態にしておかないと。」
ジェリアが体のコリをほぐすようにして伸びをする。
一方で僕にはそれをする元気すら残っていない。
連日の特訓で
なんとかジェリアの速度には慣れ始めた。
でも恐らくジェリアはまだ本気を出していない。
なんというか僕が彼女から感じる圧力はこんなものじゃない。
「あんた、何フヌケた顔してるのよ。
御前試合は明日なのよ。ほら手、出しなさい。手。」
言われ通りに手を出すと彼女の手が重なる。
重なった手を魔法陣が覆い、優しい光が照らした。
同時に全身に残っていた疲労感が一気に抜ける。
体の芯から感じていた重さも節々の痛みもその全てがきれいさっぱり消え去った。
「これって…」
「治癒じゃないわ。
そのさらに一段階上位の魔法、快麗よ。
私が独学で身に付けたのよ。」
まさかジェリアが独学で魔法を身に付けているとは思わなかった。
しかし彼女もギルドに登録する冒険者、
世界を回るほどならそんなことがあってもおかしくはない。
「あんたが教えてくれた治癒がベースになって、
今の私だけの魔法ができてるのよ。
だから…その…感謝してるわ。私が強くなれたのはあんたのおかげ。
だからそうね。
明日、決勝まで上がってこないと許さないわ!!」
僕の体を診察するように確認した後、
背中を強めに叩いて本人は帰っていった。
本人は軽いつもりだったんだろうけど…
なんか別のこと考えてたんだろうなぁ。
ジンジン痛む背中には恐らく彼女の手形が残っていると思われる。
◇◇◇
今日はいつになく目が覚めた。
いつもはジェリアに叩き起こされる日々が続いていたからだろうか。
朝の空気は冷えていて身も心も引き締めさせられる。
「なによ、今日は早起きじゃない。
まさか緊張して寝られなかったワケ?」
「まさか。昨日の快麗でこの通りピンピンしてるよ。」
体を伸ばす。
どこにも違和感がない、どんなことでもできそうな感覚。
今なら…
横を見るとジェリアの手がわずかに震えていた。
これは寒さによるものか、それとも…
「ジェリア、手貸して。」
ジェリアの手を取り、いつか読んだページを思い出す。
「女神の祝福の力の片鱗、我らに与えたまえ。『祝福』」
重なった手から光がもれる。
朝の冷え込んだ空気の中だからだろうか、
ほんの少し手が温まったような気さえする。
「これ何よ?」
「祝福っていう魔法だよ。
ほんの少しの幸せを引き寄せる魔法なんだって。」
返す答えにジェリアはよそを向いてしまう。
僕、何か気に障ることでもやっちゃったかな…
「わ、私は誇り高き竜人族よ。
運気が上がるとか、幸せを引き寄せるなんて信じないわ!!
で、でも…その…ありがと。ちょっとは緊張もほぐれたわ」
やっぱり緊張してたんだ。
そういえば昔からジェリアは緊張すると手が震えてたっけ。
「御前試合、必ず決勝まで来なさい。
そして私と本気で戦いなさいよ。」
ジェリアは本気だ。
僕も答えなくちゃいけない。
◇◇◇
あの後、直前まで寝ているルロイを叩き起こしたりして
御前試合開幕のギリギリになって滑り込んだ。
当たり前だが周りは竜人族だらけ。
僕たちを品定めするような目で見てはヒソヒソと話している。
「しゃきっとしなさい。
あんたのことは私だって認めてるんだから。
胸張っときなさい。」
この状況でその言葉はありがたすぎる。
思わずこぼれそうになった涙を何とかこらえた。
そして僕たちが見られている原因はもう一つある。
「おいリリィ、なんだ…朝から…叩き起こして…」
僕が今、背中に背負っているルロイだ。
思えば僕とジェリアが特訓しているときはおろか、
昼も夜も姿を見ていなかった気がするがどこに行ってたんだろう?
まさか…
「ルロイ、ずっと寝てたんじゃないよね?」
まさか。これでもこの子は郵便屋で働いてる。
普段は朝も早いんだから、
まさかここ数日ずっと寝てたなんてありえないはず。
ありえないはずだったんだけど。
「なんだ?寝てたに決まってるだろ。
いつも早いんだ。こんな機会逃すわけには…」
「あんたバカぁ!?
そんな調子で御前試合勝てるわけないじゃない。
どうしてくれんのよ…
あんたくらいでも戦力にはなるのに…」
「まぁまぁ落ち着こうよ。
ルロイならさ、大丈夫だって。
どうにかできるよこの子なら。」
御前試合の直前だってのに何たる緊張感のなさ。
余計に注目の的になってしまったいる。
後で聞くところによれば御前試合の直前、
やけに騒々しい三人組がいたとかいなかったとか…
…誰のことやら。
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