竜への崇拝

ジェリアが飛竜を呼び、王都に帰れると思っていたのだが…

現実はそこまで甘くはなかった。


というのも、

王都に帰ろうと彼女が飛竜を飛ばしている時

ジェリアが何かに気付いたようで。


それはすぐに僕も気づくことになる。


竜人族領から出られない…


結界のようなものが張ってあり、

推しても引いてもどうにもならない。

ジェリア曰く、

今は拝竜祭という祭りの時期に突入したとのことで。


外部に出ることは叶わないそうな…


ジェリアは大きなため息一つ着くと、

飛竜の方向を変える。


「今からどうするの?出られないんでしょ?」


ジェリアはつくづく嫌そうな顔をした後、

一言だけ言った。


「しょうがないわ、これだけはホントはやりたくなかったんだけど…。」


それはそれは本当に嫌そうな顔だった。


飛竜が高度を落としていく。

少しずつ集落が見えてきた。


王都とは違い、舗装されておらず

地肌がむき出しの道のわきに並ぶようにして家が立ち並ぶ。

その家も石やレンガを組んだようなもので作られているようだ。


「王都とはずいぶん違うんだね。」


「私だって初めて王都を見た時はびっくりしたもの。

種族が違うのよ、仕方がないわ。」


そう言いながらも飛竜の硬度を下げていき

ついにはとある石造りの家の横に着地させた。


「今から何見ても引いたりしないでよね…」


促されるまま飛竜の背から降り、

ジェリアに続いて家の中へ。


薄暗い家の中、

そこには僕たち3人以外にあと2人誰かがいるのが見えた。


目を凝らせば

ジェリアと同じ角、同じ尻尾、金色をした目が暗がりの中でキラリと光る。


それは闇の中、それは飛びかかってきた。


(マズい…)


今の僕は酔ったルロイを背負っている。

つまり両手が使えない。


(死ぬ…)


間に合わない。

目をつむった。


◇◇◇


「ジェリアちゃ—-ん!!」


建物の中に叫び声に近い声が響いた後、明かりが点いた。


そこにいたのは、

ジェリアとジェリアに抱き着く竜人族。


ジェリアよりも一回り大きい竜人族の女性は

ジェリアに抱き着いて頬をスリスリしている。


が、問題はそこじゃなかった。


「やめてよママ、あの子たちがびっくりしてるじゃない。」


(おそらく)ジェリアママであろう竜人族が

「あの子たち」に反応してこちらに目を向ける。


「あの人付き合いの悪いジェリアちゃんにお友達?

そうなの?本当なの?

もしかしてジェリアちゃんの言ってた例の子かしら?

私、気になるわ。」


さっきまでのジェリアへのベタベタは何処へやら。

この度は僕の方に飛んできて手を取り、頬を撫で、まくし立て始める。


ようやくジェリアの言ってたことが分かった気がする。

ジェリアもジェリアとてこちらを向いて目線で訴えている。


「諦めろ」と。


◇◇◇


目の前にはジェリアママに頭を撫でまわされてるジェリア。

そしてさっき、ジェリアママの暴走を止めてくれた(おそらく)ジェリアパパ。


「君がジェリアの言っていた友達かな?」


と言われましても…

ジェリアが僕のことを友達と思っているかは不明だし、

聞くところによればジェリアは世界中を回る冒険者らしく

どこにでも友達くらいいるんじゃないの?


「いや、どうなんでしょう…

僕は昔、ジェリアと交流があったくらいなので。」


「じゃあ君で間違いないね。

君のことはよく娘から聞いているさ。」


この人から出た「娘」から

この人=ジェリアパパが確定した。

見かけの年齢ほとんどジェリアと変わらないように見える。

ジェリアよりわずかに身長が高く見えるだけだ。


「君がジェリアに魔法や言葉を教えたんだろう?」


「そうですね、たしかに僕はジェリアに魔法を教えましたが。

もしかしてそれでジェリアに何か悪影響が!?」


竜人族には竜人族の決まりがあるのかもしれない。

もし僕が無意識のうちにそれを犯してしまい、

ジェリアが迷惑を被っていたというのなら…


僕は歓迎されていない…?


「いや、まぁ何と言うか…

こちらの落ち度でもあるんだけどね…、その…」 


何やらジェリアパパには言いにくいことがあるようで、

口ごもってしまう。


「そんな事なら私が説明してあげるわよ。

だって私のことだもの、リリィにも知る権利くらいあるはずだわ。」


ようやく母親の呪縛から解き放たれたのか、

ジェリアが話に割り込んでくる。

そのまま僕はジェリアに外まで引っ張られる。


「どうしたの?いきなり外に出て。

何か聞かれちゃいやなことでもあるの?」


ジェリアは首を横に振る。

そしてぽつりぽつりと話し始めた。


「私は小さい頃、奴隷商に攫われた。そこでリリィ、あんたに出会ったのよ。

で、こっちに帰ってこれたのがその数年後。

その頃には他の竜人族の子たちは『竜への崇拝』を終えてたの。」


「竜への崇拝?」


「そう、私たちは『竜への崇拝』を経て

真に竜から力を借りれるらしいわ。

私はそれをやってないからよく分からないんだけどね。」


ということはジェリアは竜人族ではあるものの

真に竜の恩恵を受けているわけじゃない…


「だからジェリアとセルキア様は折り合いが良くないの?」


ジェリアは静かに頷いた。


「もちろん嫌がらせも受けた。

でも思ったのよ、私が竜人族の中で一番強くなって

領主の座をつかみ取る。

見下してきた奴らを見返してやるの、楽しみじゃない?」


ジェリアはいつも通りの凛とした笑みを浮かべる。

夜空に向かって手を伸ばし、星をつかむ。


そうじゃないか

少しでも不安に思った僕がバカみたいだった。


ジェリアはそんな事じゃ負けない、めげもしない。

それはあの数年間、一緒にいた僕がよく知っていることだ。


それでも…


「後悔はしてないの?」


「後悔なんてするはずないわ。

私はあんたやルイと出会った時間は無駄じゃなかったと思ってる。

あの時間が失ってでも覇王竜(アイツ)の力が欲しいとは思わないわ。」


はっきりと言い切ったその目は、

いつになく凛としていた。


「さ、夜は冷えるわ。中に入りましょ。」


◇◇◇


家の中では既にルロイが夢の中へ。

ジェリアの両親が物珍しそうにルロイの顔を覗き込んでいる。


「この子は何族かしら?

なんだか不思議な感じがするのよね。」


相も変わらず覗き込んだままのジェリアママがぽつりと漏らした。


「私に聞かれたって分かんないわよ。

リリィ、あんた何か知らないの?」


「そんなの分かんないよ」と口に出かけた矢先、

ルーナ様の言っていたことを思い出した。

たしかあの時、あの人はこう言っていなかったか。


「巨人族と人間のハーフ」と。


言って良いのか悪いのか…

本人もずっと隠してきたみたいだしなぁ。

あんなことがあった後だ、言わない方がいいのかもしれない。


「い、いやぁ、僕も知らないなぁ///」


ジェリアが厳しい顔で僕を覗き込む。

いやいや、僕の演技は完璧だったはずなんだけど…


「あんた、何か隠してない?

まさかこの私に嘘つくんじゃないでしょうね?」


「い、いやぁ、そんなわけないじゃないですか…

ね、ジェリアさん、せっかくのきれいな顔が怖くなってますよ…」


ピキッと彼女の顔に青筋が浮かんだ。


(マズい…これは怒ってるやつだ…)

「あのぉ、ジェリアさん、僕何かお気に障ることでも…

もしかして怒ってる?」


「あんたが私に嘘つくからでしょうが!!」


ジェリアが最も嫌いなこと、

それは嘘をつかれること。


そこにいかなる理由があろうとも彼女はそれを嫌う。

僕は板挟みになった結果、見事に地雷を踏みぬいたのだった。


何が何でも秘密を吐かせようと

ジェリアは僕を追いかけまわす。


嘘をついたことがオプションになって

さらにキツイお仕置きが待っていることは間違いない。

となると、どうするべきか…


逃げるのみだ。

その間ジェリアママの「仲良しなのね」が聞こえた気がしたが

そんなの詳しく聞いてる暇なんてない。


なにせ後ろからは鬼のような形相で

ジェリアが僕を捕まえようと追いかけてくるんだから。


◇◇◇


その後、僕は捕まったものの

なんとか秘密は守り通してごまかせた。


ジェリアはまだに僕を疑ってるみたいだけど…

うん、気のせいだ気のせいに違いない。


ジェリア家でご飯もいただき、

後は寝るだけとなったのだが問題発生。

僕は何処で寝ればいいの?


ジェリアママは

「ジェリアちゃんと一緒に寝ればいいじゃない」とも言ってるが

それはちょっとできないお願いですね。

心臓が持ちません、天使って心臓あるのかな…?


僕の返した答え、「否」によって

ジェリアの機嫌がさらに悪くなりそうだったのは、また別のお話。


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