空へ

ジェリアが言うには陸路は危険すぎるとのこと。


竜の住処の近くまで行こうものなら、

部外者として捕まってどうされるか想像もつかないそうだ。


ではどうするか?


◇◇◇


僕にとっては二度目の空、

風を切る感覚がきもちいい。


「どう?空の旅は。

リリィはともかくあんたは空なんか飛んだことないでしょ?」


ジェリアが王都に来る際に乗っていた飛竜。

その背中に僕とルロイは乗せられていた。


陸路がダメなら空路で行けばいいじゃない。


いかにもジェリアらしい考えだ。

ただ問題が1つ。


「ジェリア。速すぎるってぇぇぇぇぇぇ。」


空を切るのは構わない。

だとしてもそれにだって限度はある。


少なくともその限度は、

ジェリアに声が届かなくなるくらいじゃない。


ルロイに関しては始めこそ目を輝かせていたものの、

ジェリアが「さぁ行くわよ」と言ってから

半ば失神しているかのように動けないでいる。


もちろんジェリアからすればこれが通常なんだろうけども…


突入した雲を突っ切ると、

影が雲に映る。

ようやくジェリアは速度を落とした。


「さすがのあんたでもここまでスリリングな飛行はできないでしょ?」


えぇ、おっしゃる通りでございます。

ホントにスリリングな体験でございました。


それでも…


「ここにはルロイも乗ってるんだから

もうちょっと加減してあげなよ。」


「私に突っかかってきたクソガキにする容赦なんかないわよ。」


相変わらずのプライドでございまして…

そんなところも昔と全く変わらない。


「…分かったわよ、ちょっとだけだけよ。」


言うやいなや、ジェリアは飛竜を操作し

飛んだ状態で空中に止めさせた。


「そのクソガキ起こしてあげなさい。

せっかくの空の旅よ、見逃すなんてするもんじゃないわ。」


そしてこんな素直じゃない所も変わってない。


僕の視線に気づいたのか、

ジェリアは腕を組んだまま向こうを向いてしまった。


(しまった、表情に出てたか…)


ルロイのほっぺたを何度か叩くとルロイが目を開ける。


「おはよう、ジェリアが景色も楽しめってさ。」


「どのくらいの高さかもわからん上空での目覚めとは

これ以上最悪な目覚めはないな。」


そう言いながらも大人しく周りを見渡すルロイ。

その目に映ったのは何だったのだろうか。


見渡す限り続く雲、何にもさえぎられていない青い空


僕には彼に何が見えていたのかは分からない。

それでも分かったのは。


「世界はこんなに広いんだな。」


それがルロイの心からの言葉だったことだけ。


◇◇◇


ルロイを気遣ってかそうでないのか、

ジェリアは速度を極端に上げることはなくなった。


曰く「そのクソガキに一生分の空を味わせてやるわよ」だそうだ。


僕にはそれが照れ隠しであるかのように思えて仕方ない。



「そろそろ見えてくるわよ。」


それが、これまでずっと見てきた景色とのお別れの合図だった。


急降下、雲に突入。

それでも速度は若干緩め。ルロイを気遣ってのことだろう。


雲を抜けた先に見えたのは、

視界いっぱいの山。


ただそれは王都の近くで見るようなものではなかった。


「ところ変わればここまで変わるもんなんだね。」


「そもそも竜人領は竜と共にあるもの。

おのずとこんな退屈な所にもなるわ。」


視界いっぱいに広がった山は火を噴き、

時には溶岩が山肌を流れている。


さすが竜を祀る民、竜人族。ドラゴノイド

こんなところに住むなんてタフだなぁ。


「さっさと竜の住処に鱗を返して帰るわよ。」


「ジェリアは里帰りじゃないの?

顔、出していかなくていいの?」


その時だった。

ジェリアの顔に似合わぬ陰りが見えたのは。


これまで一度も見たことないような

全てをあきらめたかのような陰り。


「私は大丈夫よ。何度も顔出してるし。

それに今日はあんたたちの護衛でしょ?

仕事に私情は持ち込みたくないのよね。」


思わず吸い込まれそうになった時、

ジェリアが取り繕うように言った。


さっきまでの陰りが嘘だったかのように。


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