竜人族領大騒動編
厄介事は突然に
それはルロイが丁度仕事に慣れてきた頃、
1人で配達を始めた頃の話だった。
いつも通りの朝、のはずだったのに
何やら下が騒がしい。
寝ぼけ眼をこすりながら階段下った先の応接室をのぞいてみると
何やらおかみさんと2人組が話し合っている様子。
どうやら白熱しているようで、
やれ「そんなの無理」だの「郵便屋の仕事」だの聞こえてくる。
「おはようございます、朝からどうしたんですか?」
椅子に腰かけた2人組が弾かれたようにこちらを向く。
片方の人は見たことないんだけど,
もう片方の女の人は見たことある。
「リルダさん、どうしてここに?」
途端におかみさんの目が光り、
逃げる間もなく捕まって座らされる。
奇妙な構図の出来上がり、
この中で事情が分かっていないのはどうやら僕だけらしい。
「それで、何の話なんですか?」
「それがねぇ、厄介事を持ち込まれてるんだよ…」
僕はおかみさんと付き合いが長い。
だからこそ分かる。
「これホントにイヤな時のやつだ」と。
その証拠にいつもはすぐそこにいる親父さんも
その姿を忽然と消していた。
(親父さん、後ほどご愁傷さまです…)
「お金なら払います。」
「だから、いくら金詰まれたって危ないモンは危ないんだよ。」
言い合いが続く。
このままじゃ一生続きそうだった。
「すみません、どういった依頼なんですか?」
一旦、話を元に戻してその間に頭を冷やしていただこう。
するとどうやら言いにくいのか、
ギルドから来たであろう男は口をもごもごとさせる。
「いやぁそれがですね。
私たちギルドの所属する冒険者がどうやら
持って帰ってはいけないものを持って帰ってしまった様で…
あなた方には是非ともそれを元の場所に届けていただきたく…」
「で、その持って帰ってはいけなかったものとは?」
「竜の鱗です。」
…なんてものを持て帰ってきたんだ。
竜の鱗と言えば、この世界の中でも類を見ないほどの素材。
それ故に流通様が少ないんだが…
希少なのはそれだけが理由じゃない。
竜を祀る民、その信仰により自身も竜の力の一部を得た亜人。
そう竜人族だ。
彼らは竜の鱗を主からの賜物として信仰すると言われている。
そんなものを知らずとも持って帰ってしまったら…
「現在、ギルドに所属する冒険者が都外にて
正体不明の何かに襲撃されるという事件が多発しています。
なので早く返しに行きたいのはやまやまなのですが…」
「返しに行こうにもいく人間がいない。
だから私たちに行かせようって魂胆だね?」
「おっしゃる通りでございます。」
何も言えないギルドの男。
冒険者たちも噂を知らないはずもないだろうに、
どうせ売って金に換えようとしたんだろうな。
うつむく男を尻目に
おかみさんの目が再び僕を捕らえた。
なんだろう、いやな予感しかしない。
だっておかみさんの目、ものすごくイキイキしてるんだもん。
まぁ大体は察してるけど…
先に口火を切ったのはおかみさんだった。
曰く「騎士団を護衛に付けてくれるのなら構わない」と。
しかしそれは通らない。
ギルドの権限で騎士団を動かすことはできないとのこと。
すると次は
「ギルドで一番の手練れ」を所望なさる。
それならということで
ギルドも首を縦に振り、お金の話に移っていった。
その間、僕は階段の上に上がらされ
結局聞かずじまいで終わってしまった。
行くのは僕だってのに…
話が終わったころに再び呼び戻され、
今回の依頼の件についてギルドの2人から頭を下げられる。
曰く「よろしく頼む」とのこと。
話に挙がっていた手練れの冒険者は
そのうちにまた来るだろうとのことで。
どうやらその冒険者、
今は王都におらず世界中を飛び回っているんだとか。
心配になってきた。
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