騎士の力②

壁を破って表れたのは、先ほどよりも少し小さな人口巨人。


「これもあの子たちをベースに作ったものか?」


「さすが八頭流の剣士

噂かと思ってたわ。まさか本当に霊気が見えてるなんてね。」


楽しそうにほほ笑むシェミル。

手を突き出すと同時に人工巨人が襲いかかってきた。


さっきまでとは数が比較にならない。

押し潰されでもすれば、

さすがに死んでしまいかねない


その巨躯がぶつかると思われたコンマ数秒前。


弾かれた。


まるで見えない壁にぶつかったかのように。

目を凝らしてもそこには何もない。


何度も何度もあらゆる方向から

触れようとする人工巨人。

それでも触れることは叶わず、

その分だけ体に傷が増えていく。


「どうして自分から責めないのかしら?

子どもの前では気が引けちゃった?」


それにも一切答えることなく、

ひたすらにまっすぐ前を見続ける。


その瞳の先。

シェミルの額には汗が浮かび、わずかではあるものの手も震え始めている。


「魔物の使役とはすばらしい技術だ。

ただ…お前も相当無理してるんじゃないか?」


その一言にさらにシェミルは焦りを隠せなくなる。

その手を握り前に突き出し、口からは血が筋となって流れている。


「人間には力が必要なの、

他の種族の追随を許さない強大な力が。」


髪を振り乱し口からあふれる鮮血もものともせず、

叫び巨人を使役し続けるシェリア。


その猛攻を何ともせず、

ただ立っているだけでしのいでいるルーナ様。


天井が軋み始め、壁は再び唸る。


「お前の理想は理解した。

だが子どもたちの命を弄んだ罪は償ってもらう。」


剣を引き抜き、空を切る。


その衝撃波が階層全体を駆け抜け揺らした。

意識が浮上すると人工巨人が地に伏している。


「何が起こったんですか…」


「なに、師匠の真似事をしただけさ。

殺してはいない、気を失っているだけだ。」


ルーナ様が剣を収める。

巨人が動かなくなると同時にシェミルも解放されたかのように倒れこんだ。


その元へルーナ様は歩みを進める。

止めようとした僕を手で制し、進み続ける。


「なぜお前は彼に、亜人にこだわるんだ。」


シェミルの目に光が宿る。

彼女はルーナ様の胸ぐらをつかんだ。


「亜人の能力を、霊気を研究し、

再び人類が地上を支配するため。

そのためなら私は何だって、どんな犠牲だって…」


まるで残った命を燃やしきるかのように

シェミルは畳みかけると、意識を失った。


「カルマ、いるんだろう?

この女を地上まで運んでやれ。」


「あはは…やっぱり姫にはバレてたかな…」


誰もいないと思ってた暗闇の中から、

カルマさんが現れる。


「いつから見ていたんだ?」


わずかに空気が震える。

その顔は見えないものの、どうなっているかは想像に難くない。


「そう怒らないでよ。

そろそろ決着がつくと思って来ただけだよ。」


ルーナ様から放たれていた禍々しい気配が消えた。

振り向いた彼女の顔は

先ほどとは異なり、冷酷さは消えていた。


「さぁ行こうか、少女。

君が救うべき者はすぐ近くにいるはずだ。」


「それではカルマ、後は頼んだぞ」とだけ言い残し、

再び僕を小脇に抱え床を剣で粉砕する。


崩れた床、まさかこの下にもう1階存在してるとは思わなかった。


落ちていく中、目に映ったのは

これまでのどの巨人よりも巨大な巨人。


そしてそれが倒れた上で立っているルロイだった。


着地。

様子をうかがうもルロイの顔は陰になって見えない。


「お前らも…」


空間全体に響き渡るような低い声。

天井、床、柱までもがかすかに音を立てて震え始める。


「お前らも俺から奪うつもりか…」


こちらに向けられたその目、

以前とは違うどす黒い目だった。


「お前らも俺から自由を奪うつもりか?」


「私たちは君を救いに来たんだ。

さぁ行こう、もう君は虐げられなくてもいい。」


ルロイに向かって手を差し伸べるルーナ様。


でもそれはかなわなかった。


目の前で爆発が起きたかのような音がする。

顔を上げるとルロイに膝がルーナ様の直前で止められていた。


「これまでそうやって甘い言葉を投げてきた奴は

もれなく俺を利用してきた。

決めたんだよ、強さで従えさせてやるって…」


「そうか、なら仕方ない。

それなら私もやりたいようにやらせてもらおう。」


止められていたルロイが弾き飛ばされる。


「少女、彼は正気を失っている。

それに関しては私が責任をもって対処しよう。

君は伝えたいことをその間にしっかりと考えておくといい。」


再びルロイを見つめる。

剣を引き抜いた


「そこまでして暴れたいというのなら、

私が少しだけ遊び相手になってやろう。

さぁどこからでも来たまえ、少年。」


言い終わる前にルーナ様の姿が消えた。

同時にルロイもいなくなる。


この空間の至る所で鳴り響く轟音は

2人が戦っている証なのだろう。


僕の目では追うことすらできないそれに僕は意識を奪われてしまっていた。


「おいおい、これは演武じゃないんだぞ。

何を見とれているんだ?」


突如目の前に現れたルーナ様によって

意識が現実に戻される。


その剣はルロイの拳を止めていた。


「この少女は私の客人でね。

手を出してもらっては困るんだよ。」


言い終わる前に剣を振ってルロイを弾き飛ばす。

飛ばされた小柄な体が柱を突き破り、壁にめり込む。


「もうすぐタイムリミットだ。

彼も正気に戻るはずだよ。」


剣を鞘に収め、仁王立ち。


その見つめる先で壁に埋まった状態から、

壁を破壊して脱出するルロイ。


「ルロイになんてひどいことを…」


「大丈夫だよ、すぐに分かるさ。」


ルロイはおぼつかない足取りで2・3歩歩いた後、

地面に倒れ込んだ。

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