再開
「それで今更だけど、なんか覚えてないの?」
「おい、俺に対してなんか遠慮がなくなってないか?」
あったりめぇだよ、この野郎。
あれだけ遠慮なく言われたんだ、こっちも遠慮してらんないよ。
ルロイはしばらく考えた後、
何かを思い出したかのように顔を上げる。
「そういえば食材を買う用のカゴを持って
家を出て行ったな。」
食材を買うと言えば、マーケット通り。
丁度、行く用もあったし
今から行くか。
「じゃあ今から全速力で行こっか。」
こくりと頷くルロイ。
おそらくこの子は知らないはずだから
「都にもこんなところがあるんだな。」
ルロイはマーケット通りに来たことはなかったらしい。
年相応に…若干…?
目を輝かせている…のか?
さっきよりもわずかに機嫌がよさそうな気がする。
僕への当たり方も優しいものになった気がする。
…いや、慣れただけか。
「とりあえず配達しながら聞いて回ろうか。」
「お前、意外と顔が知れてるんだな。」
「意外と」とは何だ、「意外と」とは
僕だって仮にも郵便屋の端くれ。
ここ数か月で随分と知り合いだって増えたんだぞ。
何店舗か届けるもの届けるついでに
ルロイ突き出して聞いてみた。
「この子、お母さんと迷子になっちゃったらしいんだけど
お母さんっぽい人見かけなかった?」
「もしかしてあの人かな」と首をかしげながら
思い出そうとするおっちゃん。
わざとらしいな…
絶対知ってるだろ。
「おっちゃん、これ買うから教えてくれよ。」
目のまえにあったリンゴ2つ差し出す。
おっちゃんがニヤリと笑った。
どうやら正解みたいだ。
「さっきまでその女の人ならここにいたけどよ。
ちょっと前に広場の方に行くって言ってたな。」
「それをこういう取引ナシで教えてもらいたいもんだね。」
「そりゃムリな話よ。
こっちだって商売やってんだからな。」
なーにが商売だよ、ホント。
こんなの治安の悪い酒場と何にも変わんないよ。
まぁ、ぼったくられないだけ全然マシだけど…
「さぁ配達も終わったし、
急いで戻るよ。」
ルロイの手を引いて広場まで走った。
広場を見渡す。
ルロイの母親はすぐに見つかった。
買ったであろう物をカゴに詰め込み、
噴水の辺りでキョロキョロしてたからだ。
その目がルロイをたらえた瞬間、彼女は走り出す。
バッグから落ちた物にも目もくれずに駆けだした。
「バカ、どこに行ってたのよ?」
ルロイを抱きしめ、涙ながらに叫ぶ。
「あ、ごめんなさい。
彼がお母さんを探してたみたいで、僕が一緒に探してました。」
「そうなんですか!?
うちの息子が本当に迷惑をかけました。
本当にありがとうございます。」
いや、勝手に連れまわしちゃったのは僕だし…
ルロイはここにいればもしかしたらすぐに会えたのかもしれない。
余計なお世話だったかな…?
「ごめんなさい。お子さん連れまわして。
お探しになったでしょう?」
「いえいえ、こちらこそ本当にお世話になりました。」
ルロイが口を開く。
それを見て彼の母親は帰ろうとした。
「ちょっと待ってください。」
2人に静止をかける。
彼にはまだ渡していないものがある。
ルロイに手を出させて、さっき買ったリンゴを渡す。
「何のつもりだよ?」
「これ元々、君に渡すつもりだったからさ。」
珍しく、というかここ数時間しか一緒にいなかったが、
それでも見たことないくらい素直に頭を下げる。
「では私たちはこれで」
2人が踵を返す。
僕にはその時の彼の母親の声がひどく冷たいものに感じた。
◇◇◇
薄暗い部屋、
月明かりすら差し込むことを許されないような
黒のカーテンで隔離された部屋。
そこに1人の女と1人の子供がいた。
「さて、なんで私の許可なくこの家から出たのかしら?」
「…」
キッと母親を睨んだその顔に女は不満げな様子を見せた。
「何か言いなさいよ!!」
「…」
無言を貫くルロイ
ピシャリと音がすると同時に
彼の体が倒れる。
服の隙間からわずかに覗いたその腕、
そこには痛ましいほどの痣の数々。
月は雲に隠れ、
ついにその光も消えてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます