ルロイ
それは郵便の配達をしていた日のことだった。
「印、ありがとうございます。
それではまた!!」
すっかり顔も知れ渡った中央地区で配達をしていたときのこと。
広場の噴水のところで
1人で座ってる子供を見つけた。
僕より年は少し下、
まだあどけなさの残る顔でうつむいていた。
こういう時は騎士団に連れてくのがいいんだろうけど
つい先日、僕の様子を見に来たルーナ様。
その顔はせっかくの凛々しさが霞んでしまうほど疲れ切っていた。
聞けば最近、王都外での仕事が多いそうな。
お疲れ様です。
「少ししたら起こしてくれ」なんて言って
一瞬でテーブルに突っ伏してしまった。
騎士団の方も忙しいだろうし…
今連れてったら露骨に嫌な顔されそう。
それになによりこの子が心配だった。
「えっと、どうしたのかな?
お父さんかお母さんはいる?」
面倒くさそうに顔を上げる。
男の子だった。
「今は1人だ。」
ぶっきらぼうに言い捨てる。
また顔を伏せた。
「そっか…1人で大丈夫?
よかったら一緒に探そうか?」
「ふざけんな、よく分からん奴には付いてくなって言われてる。
見境なく声をかけるな、このあばずれが。」
あ、あばずれ…
なんて言葉使うんだこの少年。
年齢は僕の外側とそんなに変わらんのに…
いかんいかん
ここで怒っては年の功を重ねた意味がなくなる。
それにこの諦めたような表情、
あの時のルイと一緒だった。そんなの余計に無視できない。
彼の横に座る。
座った途端、若干距離をとられたのはショックだったが。
「僕の友達が昔、君と同じような顔をしてたんだ。
君も本心じゃ誰かに助けてほしかったんじゃないの?
そんな顔するのはまだ早いんじゃないかな?」
彼はルイと同じじゃない。
もちろん抱えてる問題だって違うんだろう。
でも同じような顔をしてる。
総じてそれは悲しさを噛み殺したような顔。
僕はその対処法を知ってる。
彼の手を取る。
「さぁ、行くよ。
ほら、さっさと歩いた歩いた。」
◇◇◇
男の子の手を引いて街中を歩く。
「君、名前は?」
「なんだ?やっぱり見境ないのか?」
「そんなわけないでしょ。
まだ僕がそんな風に見えるわけ?」
繰り返し名前を聞くも答えてくれない。
ちょっとやりすぎたかな?
しつこかったかな…
「ルロイだ。」
ほうほう、ルロイ君か。
名前さえ分かればこっちの物。
今からギルドまで行って迷子の申請をすればいい。
ルロイと名乗った少年がこちらを睨みつけている。
「お前、名前は?」
この年下、敬語も使わなければ、挙句の果てには呼び捨て…
とことん僕に心を許す気がないらしい。
頬がヒクつく。
「リ、リリィだよ。」
「あっそ」
こんのクソガキぃぃぃ、
バレないように顔を背けて歯噛みする。
バレたら余計に舐められそうだから。
おっと冷静に冷静に。
今ここで怒っても何にもならない。
丁度ギルドに届けるものがあったはず…
どこにいったっけ?
えっとたしか
おかみさんから預かる→持ち運びに悩む→『
そうだった、思い出した。
『
あったあった、
今日はギルド宛てにやたらと大きな荷物があったから
『
重さも何も感じないからすっかり忘れてた。
郵便を始めてから気付いたことがある。
天術目録の魔法は案外役に立つということだ。
そういえば初めて女神様に会った時も
「役に立つ」なんて言ってたなぁ。
(ホントにありがとうございます。)
「そうよ、もっと敬いなさい」
ん?なんか声が聞こえてきた気が…
気のせいか。
◇◇◇
とりあえずギルドに着いた。
ここで申請すれば一応、張り紙くらいはしてくれる。
それが力になるかは分からないが
無いよりは幾分マシだろう。
「お届け物に来ました!!」
郵便を再開して数か月、
すっかりギルドの職員の人とも顔なじみになった。
「あら、今日も郵便?働き者ね。」
僕の声に反応したのは
ギルドの看板受付、リルダさん。
この人目当てにギルドに顔出す冒険者も少なくないんだとか。
僕とは仕事柄会う機会が多いからか
すぐに仲良くなれた。
「今日のお届け物なんですけど、すごく大きくて…
何処かに置くことってできますか?」
僕も中身が何かは分からないが
とにかくおかみさんから渡されたのは
これまで見たことないくらいの規格外のモノ。
事前にルーナ様から僕が魔法を使えることを聞いてたようで
僕に回してくれたようだ。
…確かにこれはおかみさんや親父さんでは厳しそうだと思う。
腰ヤッてもらっても困るしね。
リルダさんは奥の扉を開けてくれた。
その先の倉庫に置いといてくれということなのだろう。
倉庫の中で『
魔法陣の中から荷物を引っ張り出そうとするも…
荷物が大きすぎるためか
出てくるのに時間がかかる。
まぁでも後は放っておけばそのうち出てくるでしょ。
とはいえ、女神様からされている忠告も忘れない。
曰く、天術目録の魔法は強力であるため
『
何か異常が起きた時にすぐに止められるようにしておけとのこと。
それにしても遅っい…
いつぞやの孤児院の時もそうだけど
こんなにラグがあるんだなぁ。
その時、ふと横を見ると
ルロイが立ち上がった。
(あ、この子ここまでついて来てたんだ。)
ルロイは僕には目もくれず、まっすぐ魔法陣に向かって歩いていく。
「ちょっとそれに触ら…」
「うるさい、引っ張り出すだけだ。」
魔法陣に躊躇なく手を突っ込むやいなや
荷物を引っ張り出した。
いや、ちょっと待って。
子供に引っ張り出せるような大きさじゃなかったんだけど…
それでもお構いなしと言いたげに
涼しい顔して荷物を出してしまった。
「これでいいんだろ?」
「あ、うん、そうだね。」
なんか釈然としない。
仕事奪われた気分だ…
無事、倉庫に荷物を搬入できたので
リルダさんに印をもらいに行く。
「はい印ね。
また今度、一緒にご飯でも行きましょ。」
「えぇ、ぜひとも。」
ついでに迷子の申請もしておく。
ルロイを前に突き出した。
リルダさんはかがんでその顔を覗き込む。
「僕、お名前言えるかな?」
「ルロイ。」
「そう、ルロイ君ね。
分かりました、張り紙はしておくね。」
受付台から羽ペンを抜き取り
さらさらと書類に必要事項を書き込んで掲示板に張り付けた。
その速さ、まさに風の如し。
これで多分、親御さんがギルドによっても大丈夫なはず。
「さ、行こっか」
「どこへ?」
「もちろん次の配達先だよ。」
今は男手が欲しい。
他にもいくつか大荷物があるんだよなぁ。
それに街を巡りながら探した方がいいだろう。
この町は僕の庭みたいなもんだからね、
探してそうなとこは大体わかる。
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