鍵と少女

あの後、名前も知らない勇者(その人の勇姿を称えて僕はそう呼ぶことにした)が

お医者様を読んでくれたおかげで、なんとか事なきを得た。


お医者様曰く、かなり危ない状態だったようで

僕が咄嗟にかけた『治癒ヒール』が微力ながら効いていたようだ。

それが最後の砦となり、命を守っていたそうな。


第一発見者が僕ということで

お医者様からかなり長い時間話を聞かれた。

もとい尋問されたといった方がその時のお医者様の熱意は伝わるのではないか。


病名不明、しかし既存の病気と似ているとのことで

じっちゃんは数日の入院を余儀なくされたとのことだ。


僕もおかみさんに連絡して

今日の文の仕事はナシにしてもらえた。


というよりむしろ、

おかみさんから「お得意様の看病でもしてな!!」とのことで

仕事始めて早々に一日休暇を言い渡された。


まぁ昔からおかみさんは少し強引な所があるから

慣れといえば慣れなんだけども…


じっちゃんの容体は今のところは安定してる。

お医者様も定期的に検診に来てくれるそうだ。


(さて、じっちゃんの付き添い生活はいつまで続くのかなぁ…)


◇◇◇


と感傷に浸っていた僕がバカみたいじゃないか。


じっちゃんは持ち前の元気であっという間に回復してしまった。

もちろんお医者様もこれは想定外だったみたいで

あんぐり開けた口がふさがっていなかった。


うん…知ってた。

そして心の中ではこうなることも想像がついてた。


「お嬢ちゃん、迷惑かけたのぉ。

こんな老いぼれの面倒見てもらって。」


「いえ、大丈夫ですよ。

あの日はおかみさんにお休みもいただけましたから。」

(とは言いながらも、この人面倒見れるほど寝てなかったんだよなぁ)


あの日から定期的にここに来ては

お医者様と一緒にじっちゃんの様子を確認している。


最近はベッドの上で寝ていながらも

以前のように話すことが増えてきた。


そしてとある日のこと。


「これをお嬢ちゃんに預けても構わんかのぉ?

あの子と一緒にいてやってほしいんじゃ。」


そう言って一つの鍵を僕は手渡される。

まさかこれがあんなことを引き起こすなんて思いもしなかった。



じっちゃんが僕に持たせた鍵はじっちゃんの家の鍵らしい。

ただあの人のことだ、

ただ単に玄関の鍵を僕に預けたとは考えられない。

それに最後に言っていた「あの子」とは…


「だからってどこの鍵なんだよなぁ…」


今日はじっちゃんのお見舞いはナシ。

子尾細菌で貯まっていた仕事をそろそろ消化していかないと

あとでおかみさんから雷落とされるからね。


紐をつけて首にかけている鍵は

かなり古そうなもので、

骨董屋で見てもらったけど正体は不明とのこと。


「じっちゃん、最後まで行ってくれたら良かったのになぁ」


ぶつくさ文句を垂れても始まらない。

今、頭の中でおかみさんが「仕事だよ!!」と喝を入れてきた。


うん、気にするのは仕事終わってからにしよう。


◇◇◇


あの後、何軒か配達先を回って

今日の文のお仕事は終わり。


そして僕は今、じっちゃんの家の前に立っています。


なんかこういうのって探検みたいでワクワクする。

それでは隊員番号一番、リリィ参ります。


勢いづいて門をくぐったものの、

どうやってドア開けようか…


こうやって扉の前でうろうろしてたら、怪しまれて騎士団行きだろうし。

そんな事になって、あのルーナ様から

「なんだ、君はやはり怪しさ満載の亜人だったのか…」なんて

ため息交じりに言われたら軽く絶望する。


試しにもらった鍵を使ってみるも

そもそも鍵穴にはまらない。


じゃあ鍵を逆さまにして差し込めばいいんじゃないの?

っていうのはバカの発想だと思ってたんだけど…


じっちゃんゴメン、決してじっちゃんのこと言ったわけじゃないんだよ。

上下逆さまにした鍵は見事に鍵穴に刺さった。


カチンと硬い音がして扉が開く。

さて、探検を始めようか…とは言ったものの探検には目的がないとつまらない。


そういえばじっちゃん何か言ってたはず。

たしか…

「あの子と一緒にいてやってほしい」だったっけ?


あの子って誰だろ。

そしてこの鍵は何のためにあるんだろう。

じっちゃんの言い方からして玄関の鍵じゃなさそうだな。


実は知ってるようで知らないじっちゃんの家の探検がスタートした。



とは言ってみたものの、ここはごく普通の一軒家。

そこまで広いわけでもない。


それこそ地下室でもない限りは。


家の中を何度歩き回っても

それらしいものを見つけることはできなかった。


「どこなんだよ…」


そろそろ疲れが出てくる。

ちょっとは教えてくれてもいいのにさ、言葉足らずって言うかなんて言うか…

そんな愚痴を頭の中で言いながらも

何の気なしにイスに腰掛ける。


その時、天井から何かが外れるような音が聞こえたかと思いきや

座っているイスが動き出した。


イスがバックして向かう先は壁に空いた大きな穴、

僕は抵抗する間もなく、暗闇の中へ連れ去られたのだった。


◇◇◇


ようやくイスが止まったかと思いきや

目の前には大きな扉がそびえたっている。


そういえじっちゃんは昔からカラクリ好きだったんだっけ?

あの鍵のこともあってようやく思い出せた。


そして目の前の扉、

おそらくこれがじっちゃんが渡したコレを使う大本命なんだろう。


(どうか刺さりますように…)


そう願いながら恐る恐る鍵穴に差し込む。

さっき玄関を開けるのとは反転させた鍵はきれいに刺さった。

回すとカチッと硬い音がした後、扉が左右に分かれるようにして開く。


扉の先は薄暗く不気味な場所だった。


しかし目が慣れてくる、そこかしこに色々なものがあることに気付く。


大きなポッドのような物、

天井に張り巡らされた大小のパイプ、

床を這うようにして接続されたケーブル。


その全てがいかにも研究所という雰囲気を醸し出している。


じっちゃんが研究者であるということは聞いたことはあったが

何を研究しているのかは

実のところ僕にも終ぞ分からなかった。


そして僕にこの部屋の鍵を託したということは

僕にその秘密を教えてくれたということだ。


「それでも…じっちゃんは何の研究をしていたんだろう…」


色々な機器からわずかに漏れ出る明かりが

地下の研究施設を薄暗く照らしている。


じっちゃんは、「あの子と一緒にいてやってほしい」と言っていた。

そしてこの鍵を僕に渡したんだ。

つまりは、ここに「あの子」がいる可能性が高い。


(じっちゃん、まさか誘拐なんてしてないよね…)


◇◇◇


結論から言おう。

「その子」はいた。


ただ、いた場所が問題だったんだ。

その場所はポッドの中。


ポッドの中は紫色の液体で満たされている。

その中をたくさんのケーブルに繋がれて「その子」は眠っていた。


紫の髪は液体の中をさらさらと流れ、

華奢なカラダは力が加わればすぐにでも壊れてしまいそうな、

そんな儚い印象を与えるような子だった。


まずは誘拐ではなかったことに一安心。

だがしかし疑問は残る。


この子は一体、誰なんだ…

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