初めての魔法

これからどうしようか?

ひとまずは王都に向かおうか。


今日の分な配達もまだ残ってるだろうし、

そんなことでおかみさんに迷惑かけられない。


天使って言っても

呼び出されることくらいしか仕事ないと思うし…


待てよ…

そういえば元いた郵便屋で働く気満々だけど

雇ってもらえるかな…


(あなたの有用性を示すためのその本、天使の力でしょ?

さっさと本読んで練習しなさい!!)


そこまで言うなら…

適当にパラパラとページをめくる。


表紙に「天術目録」なんてお堅い題名が書かれたこの本には

色々な魔法が載っていた。


死ぬ前は魔法とは縁のない生活だった。


ちょっとやってみてもいいかな…

適当にページを開けてみる。


「えぇっと、なになに?

手を前に出して、詠唱は『召喚サモン』?」


片手に本を、片手を前に出して言ってしまった。


その瞬間、辺り一面を花が埋め尽くす。


びっくりしたぁぁぁ、

まさかこんなことになるとは。


咲いたのは白いユリの花、

でもただのユリじゃない。


有名な話だ。

大天使ガブリエルの象徴、ユリの花。


それを人々は尊敬しこう呼んだ。

祝福のユリ、ブレスリリィと。


というのは有名な話。

天使様にそんなに詳しくない僕でも知ってるくらいの話だ。


それしても

…これ、いつ使うのさ。


(そのユリには邪悪を討ち払う効果があるのよ。

すごいでしょすごいでしょ?)


若干幼児退行している女神様が気になる。


(好きな子の花束送る時に使えるじゃない。

まぁ今のあなたは性別転換してるわけだけど。)


なおさらいつ使えって言うのさ。


そんなことも考えながら

周りを見渡すと、随分向こうの方までお花畑状態。


まだ制御ができてないみたいだ。

天使の力って恐ろしいな…


◇◇◇


これ、元に戻さないと…


ページをパラパラめくると

あった、あった。

召喚と反対の魔法、


恐らくこれで元に戻るのだろう…

元に戻るはずだ、そう思うことにする。


「えぇっと、『消却エリミネーション』」


一瞬にして、花畑が光の粒子になって消えた。


すごいな、この本。

やっぱり本物なんだ。


…でもよく考えたら、王都めっちゃ遠いんだった。


とてもじゃないけど

ここから歩いていける距離じゃない。


ならばどうするか?


◇◇◇


「ひゃっほーい!!」


天使の体って便利だ。

現在、高度何メートルだ?


そんなのどうでもいい、

空飛べるなんてサイコー!!


おっと、そろそろ王都が見えて来た。

普通なら馬車で何時間もかかる距離をものの数分で移動できた。


天使の翼ってすごいね。


そういえば、翼が出した時に

女神様が何やら慌ててたけど…何があったんだろ?


王都近くの丘に着地する。


翼は服の中にしまわれた。


翼は思ったより小さくなるんだな。

便利な体ですこと。


それにしても魔法を連発か、それとも飛んだからか

とんでもなく疲れた、眠い…


これがマインドダウンってやつか…


◇◇◇


僕は自分の与える影響についてもっと考えるべきだった。


王都付近の丘に降り立った眠気に負け、

一休みと寝てしまった僕は

今、怖―い顔した男の人たちに取り囲まれている。


「まさかこんなところに有翼族ハーピィがいるなんてな。

へへへ、こりゃラッキーだ。

今回はぼろ儲けだな。」


聞いたことがある。


王都付近での人攫い。


王都のもの好きに売り飛ばすために

亜人までも奴隷にして売りさばく連中がいるとかいないとか…


マインドダウンでまともに動けない僕は

あれよあれよという間に

縄で縛られ、馬車の荷台に放り込まれた。


この世界には色々な種族がいる。


僕が飛んでるのを見たんだろう。


まさかそれを天使とは思わず、

有翼族ハーピィと勘違いしたんだろう。


薄暗い場所の中、

そこには色々な種族がいた。


獣人、それに竜人族ドラゴノイドまで。


放り込まれた場所を押しても引いても開かない。

なんなら若干、手が弾かれる。


結界か?


「おい、おとなしくしてろよ。」


外から声がする。


今ここで逆らうのは得策じゃないな…


ガタガタ揺れる荷台。

横にいた獣人の女の子が小さく悲鳴を上げた。


見ると包帯でぐるぐる巻きになった部分に血がにじんでいる。

さっきの衝撃でぶつけたか…


そういえば、役に立つ魔法ってなんか載ってないのかな。


傷をいやす魔法、回復魔法か何かないのか?


少しずつ赤が滲み始める。

早く見つけろ、早く…


「あった!!」


獣人の女の子に近付く。

近づいた分だけ彼女は離れる。


よほど何か他人にトラウマがあるのか?


「心配しないで、僕は君を傷つけたりはしないから。」


傷口に手をかざす。

どうか間に合ってくれ。


「『治癒ヒール』」


傷口の周りを白い魔法陣が覆う。

そこから漏れ出す柔らかな光に当てられ、出血は止まっていった。


なんとか間に合った、よかった…


安心したら眠くなってきた。

ごめん、もう限界…


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