第2話 魔法少女(6次請け)
「こちら加賀美。配置についた。これから任務を遂行する。」
「こちらワドギマ。了解した。最悪記憶消去魔法があるとはいえ、くれぐれも魔獣と魔法少女の件は対象達以外にはバレないように立ち回ってくれよ。」
「了解」
魔法少女の存在は世間からは隠蔽されている。理由は知らない。というか私以外の魔法少女も見たことないし魔法少女を補佐する存在、使い魔もワドギマ以外見たことない。全てが謎の業界だ。
「さてと、やりますか」
私はそう言って気分を入れ替える。
時刻は夜、場所は市街地。そしてそこには魔法少女こと私と死にかけの魔獣がいる。
魔獣は四肢が削がれていて完全に動けない状態だ。それをやったのは私だ。かなり苦労した。
私は
「それっ!」
侵入すると「パリーン」というガラスの割れる音がする。
「え?誰?」
家にいる住人、小学生くらいの小さい男の子がその音と音を発生させた私に反応する。
私はその問いかけを無視して
「おのれ魔獣め!」
「おかあさん!おかあさん」
小さい男の子は母親を呼ぶ為に大声を出す
無駄だ。彼の母親はワドギマが対応中だ。
「GRRRRR!」
魔獣がタイミングよくうなり声を上げる。恐ろしい声が辺りに響く。小さい男の子は突然の声に恐慌状態に陥る。
「信じてくれないかもしれないが、私は魔法少女だ。今は魔獣と戦っている。さあ早く逃げてくれ」
「魔獣?」
「ああそうだ。人間に敵対的な存在だ。このままじゃ君は襲われる。逃げろ!」
「でも、僕。歩けないんだ」
知っている。目の前の彼が足に重大な障害を持っていることも。そしてそれが魔、つまり悪性の力によるものだということも。全てワドギマから教えてもらった。
「…そうか。それなら君を巻き込んでしまう。…ならば君が魔法少女になるんだ。そうすれば君もあるけるようになるはずだ」
魔法少女の体と人間の体は別物だ。だから足に障害を持っていようが変身すれば歩けるようになれる。
「え?俺は男だよ」
「問題ない。さあこの杖を持って変身と言って」
私はそう言って彼に魔法少女に成れるアイテム、魔法の杖を渡す。
ワドギマ曰く男でも魔法少女化には問題ないらしい。少女でもない
「へ、変身」
彼は困惑しつつ変身と言う。そうすると彼の全身が光に包まれる。そして青髪の魔法少女になった。赤髪の私とは色が違う。
「あ、足が動く!」
「魔法少女の体は生身の体とは違うからね」
「…ありがとう。俺、恩返しがしたい。戦うよ」
少年はそう言ってきた。…これは予想外だ。
本来なら逃げさせる予定だったがこの程度なら想定の範疇だ。
「わかった。君の庭に魔獣がいる。共に倒そう」
私はそう言って、彼と共に魔獣がいる庭に出る。
そこには魔獣がいた。私がある程度、傷つけたので既に死にかけだ。
「どうやって攻撃するんですか…えっと」
「加賀美。どうぞよろしく」
「俺の名前は達也。こっちこそよろしく」
「攻撃方法についてだけど今、君が持っている魔法少女の武器、魔法の杖がある。その魔法の杖を魔獣に向けて構えてくれ。そして『魔法の小弾』が出ろと念じて。そしたら魔法の小弾が出てくる」
「オーケー!魔法の小弾!」
そう言うと達也くんから魔法の光弾が出てくる。そしてそれが魔獣に命中する。魔獣は死にかけだったのでこれが致命傷になりそのまま死んだ。
「やるね」
「どんなもんだい!」
達也くんが自慢げに此方を見てくる。
そうしたら達也くんの家から一人の女の人とワドギマが出てきた。
ワドギマはこの間に達也の母親に事情を説明していた。
「達也、達也なのね」
「はいそうです。そこにいる青髪の魔法少女が貴方の息子、達也くんです」
「あ、おかあさん!」
達也くんが魔法少女状態のまま母親に抱き着く。
そんな家族団らんを横目にワドギマは語る。
「達也くんのおかあさん。改めまして自己紹介を、我らは魔法少女加賀美とその使い魔ワドギマと申します。魔法少女とは魔獣という危険な存在から地球を守る為に戦う存在です」
「ええ、はい。そこの魔獣?の死骸と息子が魔法少女になったことでそこまでは分かりました」
達也母は魔獣の死骸を指さしてそう言う。まあ普通の一般人がいきなり魔法少女とか魔獣とか言われたらビックリするよな。私も最初は半信半疑だった。
「単刀直入に言いましょう。私達としては達也くんには魔法少女になってもらいたい」
魔法少女を増やすこと。それが今回の任務の本質だ。それがどうして収入が2倍になるのかは知らない。
「俺は構わないよ。女の子になるのは嫌だけど、自由に歩けるなんて最高!」
達也は嬉しそうにジャンプしている。彼には重度の歩行障害があった。だからこそ自由に動けることに嬉しそうにしている。
「魔法少女ですか。説明によると魔獣と戦うらしいじゃないですか。危険なのではないですか?」
「ええ、危険です」
「じゃあ断ります」
「そんなぁ、俺ってば初めて歩けるようになったのに。おかあさん。俺、魔獣と戦ってもいいから自由に歩きたいよ」
「達也は黙ってなさい」
「ですが、弱い魔獣ならば話は別です。達也くんには弱い魔獣を対応して頂きたい。それならば危険でもありませんよね?これは交換条件です。達也くんが魔獣討伐する代わりに私達は達也くんが歩けるようにしましょう」
い
ワドギマ曰く達也くんの足の障害は強大すぎる魔によるものらしい。つまり魔を発散、魔法少女になって魔力を使えば強大な魔も消えて自由に歩けるようになるとのこと。
達也母はワドギマの発言でかなり揺れている。息子を得体の知れない業務に就かせて障害を治すか、今まで通り息子に重篤な障害を持たせたまま過ごさせるか。まさに究極の選択だろう。彼女は悩みに悩んだ結果、ある1つの結論を出した。
「わかりました。安全なら許します」
「ええ、それは約束します。いざとなれば魔法少女加賀美がフォローいたしますのでご安心を」
そうして交渉が終わった。
今はワドギマと私で帰路についている。
私は一番の疑問をワドギマに伝える。
「で、どうしてこの任務で収入が2倍につながるだよ?」
コイツは1日前に確かに言った。収入が2倍になると。
どこら辺が収入が2倍になるのか疑問でしかない。
「達也くんに無賃で働かせている。その収入は誰のものになると思う?」
「…私ですか」
「そうさ!やったね!他人にタダ働きさせて収入アップ。君が5次請けの魔法少女なら達也くんは6次請けの魔法少女さ!」
「…私に罪悪感を植えつけさせて縛り付ける気ですか」
今の私の給料形態は私が倒した魔獣の討伐報酬と達也が倒した魔獣の討伐報酬の合算になっている。つまり小さい男の子の頑張りを横取りしてる形になっている。
「いやいや、そうじゃないよ。ただ僕は君の収入が上がるように努力しただけさ」
ワドギマはそう言ってカラカラと笑う。…コイツ。
「そんなに嫌なら、辞めるかい?」
「いえ辞めません」
だが…だが…今更、再就職するのは面倒だ。
そうして私はソレを受け入れた。
それから1週間が経った。今の私は相も変わらず人気のない山奥で魔獣を討伐する。
「セイッ!」
私は光弾を連射しまくり1000円分の魔獣を倒す。これで日給1万円は確定だ。1か月前はほぼ相討ちだったが今では余力を持って倒せることが出来る。
一息ついているとワドギマがやってきた。
「やあ、加賀美くん。達也くんは今日、5000円分の魔獣達を倒したよ。これで5000円は君のものだね」
1万+5000=1万5000円。この生活が続くと仮定して、これが365日(完全週休5日)にすると
1万5000円×365日×5/7=391万円。
年収は391万円だ。しかも私の腕が上がると効率化できて更に金が稼げる。このままいけば日本国民の年収の中央値をも超えるかもしれない。20代の稼ぎにしてはかなりいい数字だろう。
「じゃあ、魔獣の死骸は回収するね」
ワドギマが来た理由は魔獣の死骸の回収の為だ。なぜ死骸を回収するのかと聞いたら「魔獣の討伐証明とか」とのことだ。
そうして彼が魔獣の死骸を回収しようとする。だがそれは出来なかった。急にワドギマに向けて光弾が放たれた。光弾を放てるということは魔法少女だ。だがこれをやったのは私じゃない。
「そこの魔獣の死骸を置いて行ってもらおうか」
「なんだお前」
いきなり私達以外の声が山奥に響く。私は声に返答する。声の主はやはり魔法少女だった。見た目は金髪に緑の目に褐色の肌、達也の青髪とは違う。
「泥棒に名乗る名はないね。私達の金づるを奪う人間のクズが!」
泥棒?どう見てもアイツの方が泥棒みたいな言動してるが。
とりあえず…コイツが敵であることは分かる。
私はとりあえず戦闘の構えをする。
「加賀美、ここは引くべきだ。奴らは戦い慣れている」
ワドギマが緊迫した様子で助言してくる。これは、なにか知ってるな。
とはいえだ。1000円をドブに捨てる気はない。1000円だぞ。1000円。100円や10円とは訳が違う。意味の分からない理由で失う金ではないはずだ。
私は助言を無視して敵の魔法少女に向けて光弾を放った。
「お?やる気かい?徹底的にやってやるよ」
そう言うと敵は光弾を簡単に回避する。逆に光弾を放ってきた。…これは避けられない。私は魔法の杖の機能の1つ、『魔法の防殻』というエネルギーシールドっぽいもので光弾を防いだ。
「あ?新人の割には動けるねぇ。だけどな。これは防げるか」
彼女はそう言うと魔法の杖を構える。杖は徐々に光が大きくなり力が溜まっているように見える。なにか大きな攻撃がくる。私はそう思って魔法の盾にかける魔力を大きくする。
「くらいなアタシの『魔法の大弾』!」
彼女はそう吐き捨てると彼女の杖から明らかに大きな光弾が放たれた。魔法の盾は光弾を防ぎきれず崩壊する。そして私の下半身に大きな光弾が直撃する。
「ああくそ!」
ワドギマがそう言うとどこかへと逃げていく。…コイツ。いやそれより今は自分のことだ。そう思っていると私の目線が下に下に落ちていく。光弾が命中して転んだ?いや違う!
私の下半身が無くなっていた。
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