魔法少女(下請け)
かみなりごとし
第1話 退職
「辞めます」
「え?」
「だから魔法少女辞めます」
私は仕事を辞める。退職する。本当に。
「いやいや、待ってくれ加賀美くん。仕事初日で急に辞めるとか言われても困るよ」
「わかりました。じゃああと何日で辞めれますか?」
「いやぁ、そのぉ、具体的な日時はというとねぇ。というか短期離職はいけないよ。ほら、日本では入社してから3年以上待ってから退職する風潮とか、あるんだろ?だからさ、その、ね?」
「いや意味不明な老害ルール押し付けないでくださいよ。もう意思は変わりません」
私は『魔法少女』だ。名前は加賀美倫、24歳学生(♀)です。…少女じゃない年なのに魔法「少女」をやってるのは触れないで欲しい。
必死に退職を引き留めてるワドギマと名乗る
「けど君はボーダーフリーの大学を2留で卒業、トドメに4年の秋から就活を始めたせいで就活はボロボロ。そんでもって僕に拾われる形で魔法少女になったわけじゃん。再就職が上手くいくとは思わないなぁ」
「それでも魔法少女よりはマシですよ。これからは心を入れ替えて真面目に働きますよ」
「マジメにねぇ。2留したり就活に大失敗したりしても心を入れ替えなかったのに?人生の当事者意識っていうのが薄いんだよね。ここまで来たら、死にかけても変わらないよ」
「死にかけてるんですよ!その初!仕事で!」
魔法少女の仕事は現代日本に現れる危険生物、『魔獣』を倒すこと。
私は魔法少女として魔物と戦った。それは死闘だった。なんとか倒せたが今は戦場になっている山奥でダルマになって転がっている。
四肢を捥がれ殺されかけた。ほぼ相討ちである。これが死にかけてないのなら何が死にかけるになるのだろうか。
「あはは、大げさなぁ。ただ四肢が欠損しただけじゃないか。サッカー選手じゃないんだから過剰反応しても有利にはならないよ」
「大げさって!欠損はヤバいですよ。一生このままですよ。辞めるには十分でしょう!そうだ!よく考えればこの状態では働けませんよ。ほら!もう退職させてくださいよ。そうだ!僕はこれから身体障がい者年金がもう働く必要ないんですよ」
「あ、まだ精神の方は貰ってなかったんだ」
「ふざけんなよテメェ!」
「大丈夫、大丈夫、使い魔ワギドマが加賀美の端末に命令します。変身解除っと」
私の話し相手になっている
少女の四肢じゃない。女の四肢だ。私の元の体に戻っている。
「傷ついたのは魔法少女の体だけ、生身の人間の体とは別なのさ。だから四肢の欠損くらいならなんてことはない。そんで魔法少女の体は後で僕が修復できるよ。まあ修復には1日かかるけど」
「いやそれでも納得しませんけどね。普通に死にかけましたし。…それで報酬はどれくらいですか?それもってもうやめます」
元の体は無傷だったとはいえ、あそこまでの死闘だったんだ。それなりのものは期待したい。その金を元手にして一刻も早く再就職をする。
「1000円だよ」
「それだけ?」
ここまでの衝撃は留年が決定した時以来だ。
「君が倒した魔獣はそこまで強くないし、まあこんなもんさ」
ふざけんな。1000円って。安すぎだろ。
「辞めます」
「え?」
「だから魔法少女辞めます」
私は仕事を辞める。退職する。本当に。
「いやいや、待ってくれ加賀美くん。さっきと同じ流れだよ」
「1日1回の死闘で働いたとして、それが365日続いても365×1000で年収36万5000円じゃないですか。これじゃあバイトの方が儲かりますよ。報酬が余りにも低すぎますよ」
ワドギマは「修復には1日かかるけど」と抜かした以上は1日に連続して戦うことは難しいのだろう。しかも土日休み(完全週休2日)も考慮したら365日×5/7×1000円で年収26万ぽっち。いくらなんでもなんでも終わってる。
「君がスキルアップすれば、あの程度の魔獣は余裕だし、もっと連戦して稼げる想定だし…それにウチは下請けだし」
「下請け?」
「…長くなるけど聞いてくれ。まず依頼主が魔獣を駆除したいと思った。依頼主は魔獣を倒してくれる会社、つまりは元請けの魔獣駆除業者に依頼料を払う。さっきの魔獣のランクだと円換算で1匹10万円程度だね。その元請けはこういう低級な仕事は他社に回したいと考えた。そこで1次請けの魔獣駆除業者に5万で依頼をする。残りの5万は中抜きだ。
1次請けも同じことを考えた。元請けと同じように中抜きしてから2次請けに仕事を回す。2次請けは3次請けに、3次請けは4次請けに、4次請けは5次請けに同じことを考えて、仕事を回し、そのたびに報酬は中抜きされる。
そうして5次請けの僕らに仕事が1万円で仕事が回ってくるわけだ。」
多重下請けか。そんで中抜きしまくってると。まるで原発の除染作業みたいだな。
というかこういうの必要な仕事を過酷な労働条件にしたりするのはなんでなんだろうな。絶対にしてはいけないだろ。
「9割も中抜きされてんですか」
「そうだね。理由はよくわかっただろう。だからだね「じゃあ5千円を私にくださいよ。1万あるんでしょう。折半しましょう。それなら副業感覚で考えたら割と悪くないですから」
1000円から5倍、つまり26万×5=130万。まあ平均年収からすればカスだが。魔獣討伐自体は1時間未満で済むことや私自身のスキルアップで給料(効率)が上がる想定とか色々考えたら悪くはないだろう。それにいざとなれば辞めればいい。
「鬼かよ!いいかい、ウチは零細企業だ。魔法少女の変身用具代が破損した時の保険代、変身用具の維持費、僕の魔力代、その他雑費も考えたら限界なんだ。むしろ千円、10%もくれてることに感謝してくれ」
「いや元の依頼料のたった1%じゃないですか」
「それはそうね」
「とにかく給料を増やしてください。命を懸けるには余りにも安すぎます。発展途上国の労働環境の方がまだマシですよ。いい加減に辞めさせてくださいよ。5倍は言い過ぎましたけど2倍はないと許されませんよ」
「待ってくれ。加賀美くんを採用しただけで我が社は結構負担が大きいんだ。このままだと潰れてしまう。人助けだと思って辞めないで。ほら魔法少女って正義の味方じゃん」
「いや人助けもなにもアンタ、人じゃないじゃないですか。それに正義の味方を辞めるという話をしてんですよ」
「…本当に待ってくれ僕的にも君は才能があると思うんだけどなぁ?それを腐らすのは惜しいんだ。地球を魔獣から守るためだと思ってさ」
「いまさら世辞でどうにかなると思ってんるんですか?」
「いや才能があるのは本当だよ。魔法少女、名前に魔とついてる通り、魔が強い人ほど才能があるんだ」
魔?それがなんなんだ。
「魔とはその名の通り悪性の力。性格や肉体が異常なものほど強くなりやすいんだ。再度言わせてもらうけど君はボーダーフリーの大学を2留で卒業、トドメに4年の秋から就活を始めたせいで就活はボロボロなわけじゃん。これは素晴らしいほどに異常だよ。大した魔をもってないと出来ないことだよ。どうせ他の職業はその魔のせいでまともに出来ないんだからいっそのこと魔法少女になっちゃえよ」
なんか貶されてるような褒められてるような。人生の汚点が褒められるなんて新鮮だな。この経歴だけで親を泣かせたほど救いようのない汚点なのに。まあ嫌な気分になったから辞めるのは変わらんけど。最悪夜職がある。
「そうですか。じゃあ辞めさせてもらいますね」
「待ってくれ、待ってくれ」
「なんですか?」
「良い事を思いついた。良い事だ。収入が2倍になるかもしれない」
「だからなんです?」
ワドギマがニヤリと笑みを浮かべる。
そうして口を開いた。
「
最後まで読んで下さり有り難うございます。この小説が気に入ってくれた方は、是非、お気に入り登録、高評価を。
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