第7話 新世界
国内の経済は縮小したが、それと同時に人口も減少していた。建築土木が主流で、空調施設は地下都市では重要だった。また、通信、交通、医療、教育そして食糧と今まで同様に大事な事業が円滑に行われていた。食料は、光と水の農耕と淡水での海水魚の養殖が盛んになっていた。
もうすでに、我が国の原発は廃棄されていた。また、有害な核のごみも最終処分施設に封じ込んだ。そして、使われなくなった宇宙ごみ回収の手伝いを終えた。12都市で地下都市建設も終わり、人口も約1000万人までになっていた。後は、通信手段で地下都市を結ぶことになる。
しかし、人間は地下都市に何十万年以上も住めるだろうか。たぶん、英知の限りを尽くし、青球を捨て宇宙へ飛び出すか、放射能の除染技術を確立するかして地上に出るだろう。地下都市はそれまでの仮の住まいだ。しかし、それが、農耕を始めて以来、人間として1万年を過ごして来た歴史の何十倍、いや何百倍にもなろうとしている。それは、いつなのか誰も知らない。ビッグバンが起こった46億年前から、300万年前の人類の祖先が出現した遠い過去の歴史と同じぐらいをかけて、眠る青球から地上へ戻って来られるのだろうか。
凍結受精卵を乗せた宇宙船は、この銀河系の中心から3万光年に位置する美星の惑星であった青球から旅立った。この宇宙船から四方に発信している電波が恒星をキャッチしたのは10万個を越えていた。その中で探査機が選んで住めそうな惑星を調査したのは100個あまりであった。そして、我々が住める惑星が数個あった。しかし、知的生命体が文明を持っているために、いらぬ争いを避けて着陸はしなかったのだった。また、知的生命体のいる星の中に青球と似通った惑星があった。しかし、この星の環境は悪化の一途を辿って、再生不可能と探査機の調査資料は結論付けた。
そうして、いよいよこの宇宙船の旅をここで終了する時がきた。今までの探査の中で、一番安全性が高いという結論が出たからであった。探査機の資料から選ばれた大地に、宇宙船は今降り立った。ここまでの旅は、眠りについた青球から10光年先であった。
選ばれた大地は、大平原の中にあった。平原の中を横切る川は澄み切っている。天空も澄み渡り、視界が何処までも広がる。深い緑の森林も見えてくる。その手前には広々とした湖があり、満々と水をたたえている。大海までは10キロメートルと離れていない。この星の大陸は、80%が陸つなぎになっている。他の20%は小島ばかりであった。宇宙船の降り立った所の気候は温暖多湿な所であった。このような気候は全大陸の50%を占めていた。その他の気候を大雑把に言うと、ほぼ砂漠が10%、熱帯20%、寒帯が20%という割合だった。
これから始まる新世界は、穏やかな気候の中で出発しょうとしていた。大平原の中の広大な草原に、宇宙船から初めて精密機械が降ろされた。その精密機械の中から小さい箱がいくつも飛び出して来て、ひとりでに動き出し間隔を置いて、自動的に小さな建物に変貌していった。建物の中は、形状記憶合金で出来ていて、みるみる再生されていった。そして、その建物全部を外界から仕切るように強固な囲いが巡らされた。
建物のひとつに一際厳重に守られて保存されている建物がある。その建物は病院であった。凍結受精卵は、10光年先から眠って来たのだった。そして、その10万個もの凍結受精卵の中から100個が第一期に解凍されて、人工胎盤ともいうべきカプセルの中へ一個ずつ入って行った。こうして、100人がロボットを親代わりに育っていった。しかし、全員が両親のメモリーカードが渡されていて、いつでも懐かしむ事ができた。それらは、メモリーカードに記憶されていて、その子供の誕生と同時に渡された。
カプセルを管理しているのは人間の形をしたロボットであった。カプセルの中にいる時から、高度な胎教を受けていた。それでカプセルを出た時には、零歳からの幼児教育に始まり、6歳までに9年間の小中学校課程の教育は終わっていた。ここからは、個人の能力の差が出てくる。高校課程、大学課程そして大学院課程と進む中で生産活動を行い、高度な技術を受け継いで行った。ここから、どんな世界を築くかは協力社会の成功にかかっていた。
眠る星 本条想子 @s3u8k
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