第2話 101秘密会議

 議長は関係省庁からの資料を吟味し、101秘密会議のメンバーに召集をかけた。それは、航空宇宙局の天文研究所から報告があってから1週間後であった。巨大彗星発見からは、1ヶ月以上も要していた。101秘密会議のメンバーは議長国の中央会議場に集められることとなった。

 その秘密会議のメンバーは、議長と国際協力連合加盟国50カ国の国家元首とその国が選任した知識人からなっていた。この会議の存在は国民に知らされていたが、選任の知識人やいつ開かれるかは誰も知らなかった。知られている範囲では、先ず外務大臣が首相の代理で国民に知らされるまで動く事が決まっていた。国民は、知らないで一生を終わりたいとも望み、知らされてパニックに陥る事を誰しもが恐れた。

 しかし、101秘密会議の存在は、全世界に対して、宇宙における青球のちっぽけさと宇宙についてほとんど解明できていないゆえの人類の無力さを謙虚に受け止めるのに役立てるものだった。しかし、人間は便利さにかまけて、忘れ去っていた。今は、他国との善なる経済戦争に明け暮れる一方だった。そんな中、101秘密会議のメンバーも、選任されてからいつの間にか、起こるはずもないという観念に囚われ、事態に備えてそれぞれ対処方法を考えるのも有名無実化していた。いつ訪れるか分からない、青球の最初で最後の秘密会議にならんとも限らないものに備えているメンバーは、ごく僅かだったに違いない。それは、この青球の最期を意味するものかもしれないものだったはずが、なんらの防御もされていなかったのだった。そして、皮肉な事に、核シェルターが備えの一番のものだった。



 ここは、青球で一番平和な国の首都だった。この1000万人都市にも、101秘密会議のメンバーがいた。水島亜紀がそうだった。亜紀はメンバーに30歳の時に選任され、もう10年が過ぎていた。メンバーの中では若い方だった。メンバーは、クッションなしに過酷な境遇に見回れるため、ショックが大きい分、40歳で退くのが決まりになっている。しかし、その退官の日が2カ月後に迫っていた。

 亜紀は、天文研究所の所長という要職に就いたことから、この事実を一番先に知ったのだった。亜紀は、この事実を最初、信じたくなかった。夢であったらいいと思い、自分の頬をつねったぐらいだった。また、奇麗事ばかりでなく狼狽しきって、何がなんだか分からなくなっている自分に気付き、寒気を覚えた一瞬もあった。

 確かに、101秘密会議のメンバーは日頃から覚悟して、過ごしてきたはずだ。しかし、いざその事実を目の前に突き付けられてみると、どれだけ心が据わっているかと言えば、人並み以上にと言うわけにはいかないのだ。みんなと同じように、うろたえるのが普通の人間だ。しかし、このままではいけないという自制心が働き、辛うじて我に返るというところだろう。

 ショックが大きかった事は、亜紀も身をもって感じた事なので、如何にクッションを置いて国民に知らせるか、考えなければならなかった。国民に知らせたとき、パニックが起きてしまうのでは何もならないのだ。国民全体から支持が得られる知らせ方、対処方法など考えていると、亜紀は自分の事より国民の心を救う使命感で一杯になっている事に気付いた。


 国民は、現在の自分を考える時と、遠い未来を考える時があるだろう。過去を反省し、未来を切り開く精神をつちかってこそ、現在を生き抜く力が湧いてくるだろう。地上に住めなくなる危険な様々な物をここ70年で排出してしまった事を反省してこそ、人間の種族保存に希望が持て、地下都市建設に力を注ぐ事できる。


 種族保存には、凍結受精卵を異星に向けて飛立たすしかないということだ。半永久的に恒星間を旅ができる宇宙船に、凍結受精卵を積載するというものだ。このような宇宙船は我が国には小型ではあるが2機ある。この宇宙船に探査機を設置して、青球と同じような星を見つけて着陸するというものだ。

 また、青球には宇宙船を光速に近い速度まで上げる推進システムがない。つまり、光子推進システムなるものを持ち合わせていない。もし、光子推進システムを用いるとすると、宇宙船に占める燃料と推進剤の質量をより大きくし、最適噴射高速で推進剤を噴射させることにより、宇宙船の速度は加速され準光速になるのだ。一定の速度航行よりも一定の加速度航行の方が、加速度は小さくても長い距離を持続しているうちに速度が累積していき準光速になるというものだった。

 このようなものがあれば、人類を搭乗させる事も出来たのだが、今の科学力では無理というより仕方がなかった。

 ただ、頭で考えることが出来るので、異星からUFOつまり未確認飛行物体が飛んで来ても不思議がない。しかし、ここには恐ろしい落とし穴が潜むのだった。奇怪な事件や事故が起きると、何でもかんでもUFOに乗り込んできた宇宙人の仕業にしようとするもがいた。UFO伝説は、機密を隠すのに絶好の対象物であり隠れ蓑になっていた。

 現在の科学力では、何十万年以上の旅に成人の人類を宇宙船に乗り込ますことは出来ず、凍結受精卵を搭載するしかない。幸いにして、我が国には、人工胎盤がある。これを、自動的に作動させる装置を宇宙船に搭載できる。

 目指す惑星が見つかれば、プログラム通りに着陸し、自動的に受精卵を人工胎盤で発育させ、それを手助けするロボットが作動し、育児や教育をさせる。



 人間は、この宇宙船で何十万年以上、代替わりしたとしても到底、精神的にも物理的にも住むことは出来ない。やはり、凍結受精卵として、異星到着まで眠り続けてもらうしかないのだった。宇宙船を2機も飛ばすのには、方向的な事もあったが、人類が住める星に辿り着けるか、文明を持つ異星人に襲撃されたり、占領されたりしないか、また人口胎盤が正常に作動せずに人間とはかけ離れた生物が誕生してしまう事も考えてだった。

 青球の持つ高度な技術は使用する人間が存続すれば強力な威力を発揮するが、如何せんそれが出来ない事情にあった。もしかすると、無抵抗の凍結受精卵を異星人に悪用されないとも限らないという危険をはらんでいたのだ。それは、生体実験や虐殺、奴隷にはされないかという危惧であった。

 歴史の中でも、これらの悲惨な出来事があり、それを恐れて集団自決した例がいくらもあった。これからの問題として、自爆装置をはめ込む議論もされてくるのだった。

 このように、人間の手から離れて精密機械に種族保存を託さなければならないという無力さと子孫存続の意味を考えないわけにはいかなかった。


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