第15話
光。
不吉で、見る者に不安を与える黒い光。
ルディエを囲むように地面から吹きあがる黒い光。
「敵襲うううーーーーッ!!!」
誰かの叫び声。
同時に街中に響き渡る甲高い鐘の音。
門の方で上がる爆音と、黒い煙。
俺にだって分かる。これはとてつもなくヤバい状況だ!
「アキヒロ様!!」
たまたま近くに居た兵士が、耳障りな程の大声で明弘さんを呼ぶ。
呼ばれて凍りついていた表情が溶けて、ハッと我に返り俺を見る。勇者アキヒロではなく、威厳はなく、力も無く、怯えたただのトラック運転手の渡部明弘の目だった。
しかし、それも一瞬。
ルディエの現在の状況を思い出したのか、スイッチが切り替わったように目に力強さが戻る。
ルディエの守り手であり、皆の希望を背負う勇者アキヒロの目。
「良太君、すまない。今はルディエを護らないと!」
「………良いですよ。勇者様ですもんね? 俺も早いとこイリス探してどっか隠れますから」
「……この話の続きは必ず後で!」
「…………」
俺は沈黙で答えた。
正直に言ってしまえば、俺は恐かった。
この人と話すと、嫌でも自分の死を実感してしまう。己の死に繋がるこの人を許せない気持ちが大きくなる。自分の心が黒く重い気持ちで満たされていくのが分かる。多分、この黒いもので心がいっぱいになったら、俺はこの人を本当の意味で許せなくなる。
勇者として、同じ異世界人として、1人の人間として信頼したこの人を恨んでしまう自分が怖い。
頭では分かってる。明弘さんは悪くない。
俺がこの状態になってるのは、恐らく明弘さんを対象に発動した召喚魔法に巻き込まれたからだ。本来なら肉体ごとコッチの世界に引っ張り込まれる筈だったが、事故で肉体が死んだ事で中身だけがコッチに来た。
事故は運転してる明弘さんが途中で消えた事で起こったものだとすれば、俺を轢いたトラックは無人だったわけで、この人を責めるのはお門違いだ。
じゃあ、だったら、俺は…自分の死への怒りをどこに向ければ良いんだ…? 俺とこの人をコッチの世界に呼んだこの国か?
「街中は危険だ、イリスさんを探すなら気を付けて!」
「分かってますよ…」
2度も3度も死を味わうなんて洒落にならん。
頭の中がグシャグシャで、まともに考えを纏められない。けど、今自分がやらなければならない事は分かっている。
イリスを護る事だ!
俺自身の事情は一先ず横に投げておけ!
俺がロイド君の体を使う事になった事情は関係ない。事実として、今この体を動かしているのは俺なのだから、俺がロイド君の代わりだ!
「勇者様御早く!」
「はい! 状況確認を早急に、東門には僕が―――」
兵士に指示を出し始めた明弘さんを背に走り出す。
通りに溢れた逃げ惑う人、人、人、ああ! もう鬱陶しい!! 人の流れがバラバラなのは、皆どこに逃げれば良いのか分かっていないからか。とにかく、その場に留まる事が恐ろしいからどこでも良いから逃げ出したいって感じかな?
いや、冷静に分析してる場合じゃねえよ!? 俺だって他人事じゃねえ! さっさとイリスを見つけなきゃ―――って、そうだ、イリス見つけてもちゃんと話聞いてもらえるかも問題だな。
けど探すたってどこを……うーん、泣きながら逃げたんだから、人の居る所には逃げないか…? 大きな通りは避けて人気のない場所かな?
いや、待てよ。流石にこの騒ぎに気付いてるだろうし移動したんじゃないのか? イリスがルディエの中で向かう先なんて数えるしかない。
とりあえず宿屋からだな。
にしても、街の周囲がやけに騒がしい。音の発生源が味方ってのはどう考えても無理があるよなあ…。
とすれば、今ルディエは敵に囲まれている状況にある。
そして転移魔法が使えない。
これ、完全に仕組まれてんじゃないの? 明弘さんの読みが当たってたって事か…勘弁してくれよ。
ルディエの中に居る人間が助かる方法は、もう敵を討つか、籠城するしかない。いや、籠城できるような蓄えなんてあるのか?
………そっちの心配は後だな、とにかくイリスを探そう。
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