第2話

目の前の女性に頬を叩かれる。

瞬時に俺はこれが夢であるとわかった。

目の前にいる女性は生きているはずがない、前世での斎藤和樹の母親だからだ。

そしてもう一つ、痛みが全くない。


そして女性は俺を罵る。


前世ではこうだった。

父親は物心ついた頃には既にいなかった。

母に聞いたことがあったような気がするが、はぐらかされたような気もして思い出せない。


いつからだったかは覚えていない。

気がついたらこうだった気がする。

前世の母親には怖い人というイメージ以外にない。


常に怒られ、暴力を振るわれ、母親の顔色をうかがう生活をしていた。

何がきっかけになるかわからない。

そんな事を考えながら。


こうやって何回も怒られたっけと、どこか他人事のように思いながら目の前の女性を見る。


怖い女性だ。

こちらを睨めつける鋭い目つき。

また平手が飛んでくる。

痛みはないはずだが、思わず目を瞑る。

右頬に受ける。

母親は満足しなかったのか、もう一度手を振るう。

今度は左頬に受ける。


「あんた聞いてんの!!」


とヒステリックに言う。


怖い。見れば自分は中学生くらいの体だった。

反撃できるのでは、抵抗できるのではと考えるが

恐怖からなのか、できなかった。


そうしてまた俺を罵り始めた。

俺はただ時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。

母が満足するまで、嵐が過ぎ去るまで。





ふと目を開ける。

見慣れた天井が見える。

じっとりと汗をかいており気持ち悪い。


「またか」


そう思わず呟く。

転生してからよく見る夢だ。

ふと時計に目を移すと、7時過ぎを指す。

起床時間には少しだけ早い。


だが、目が覚めてしまったようだし、シャワーで汗を流したかったので起きることにした。


そうして俺は自室を出て1階に降り、風呂場へ向かう。

風呂場の扉を開けると、そこに母親が居た。


「おはよう」

「あ、おはよう」


俺は挨拶を返す。

今世での母親、中野京子だ。


「もしかしてシャワー?」


肯定すると、あからさまに嫌な顔をされた。


「もう!!洗濯機回そうと思ったのにー。」

「ごめん。ごめん。」


そうしてシャワーを浴びる。

汗と一緒に嫌な記憶を洗い流すように。


リビングに行くと、一人分の朝食が用意されていた。

どうやら父親はもう家を出たようだ。


手早く朝食を済ませ。

鞄を持ち、家を出る。

その前に


「...母さん」


少し躊躇いながらもそう呼ぶ。

洗濯機を回している母親に聞こえるように。


「いってきます」

「いってらっしゃい」


そうして学校へ向かう。

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