第5話 終章

二週間で資料を整理して執筆することだけでも手一杯なのに理事長は、太子党に連なる対人の予定を聞いて


 「二週間後の議論の場は、情報収集した人達を招待して決起集会にしよう」と無理難題を持ち掛けた。


 「年末も押し迫っているので、日程的に無理です」と固辞すると


 「今年はQupid19で自粛ムードなので、忘年会も限定的なので、無理は承知でやってみましょう」と聞く耳を持たなかった。


 同期の探索依頼に対する後輩の態度を考慮すると即座に断れるだろうと思いながら


 「色々な背景を持つ人達が一堂に会するなんて、大変興味があります、是非参加させて下さい」と予想に反して乗り気であった。


 「H問題に危機感を持っている経済人の参加は可能か」との質問や


 「外交及び国防に対する権威を講師として招聘したい」との提案も受けたが


 「諸般の状況を鑑みて、情報提供を受けた8名と私の9名で小規模で開催します、ご意見は有り難く頂戴して発展的な拡大を目指しましょう」と丁寧に断り、蓋を開けてみれば全員が参加することになった。


 肩書や発言の趣旨についても摺合せて、当日に草稿を最終確認することで落ち着いた。


 曖昧で漠然とした状態から期限が設定されることで明確な目的意識が生まれ、執筆も順調に進んだ。


 何かが始まる正確に表現すると動き出す手応えを感じていた。


 当日の会場は、ノン・フィクション作家の同志が急逝した店とは当然異なるが、都内のC国料理店だったので、彼の表情が曇っていることが気になった。


 「自由Hを死守する朋友なので、ご安心下さい、会場の選定は私でしたので、議論を円滑に進める議長は理事長にお願いしては如何ですか」と当意即妙に大人が提案したので、緊張した雰囲気が解れ


 「賛成」や「異議なし」と自然に発声があり、一気に旧知の友人であるかのような一体感が生まれた。


 「僭越ですが、ご指名とあれば謹んでお受けいたしましょう」と理事長が厳かに


 「本日、ご多忙中にご参集頂きましたからには、一過性に終わるのでなく、継続的且つ其々のお立場によって発展的な運動として頂きたい、重ねてお願いしたいことは偏見や憎悪を煽るのではなく、罪を憎んで人を憎まず及び言動を問題にしても人格を否定しないことです」と行動規範を提言すると拍手と心からの賛辞の輪に包まれた。


 紙幅の都合上、議事録作成者である私の独断と偏見で全ての発言を匿名として、一部のみを開示することでお許し願いたい。


 理事長が提言した行動規範に則ってさえいれば、派生的な分科会等は一切制限せず、会員についても来る者拒まず去る者追わずで、会費等もなしと決まった。


 名称に関してだけ、少し議論が過熱して


 「密集、密接、密閉の三密でなく、集合、接近、閉鎖から脱シュウキンペイの会を提案します」と発言があると


 「衆口、金を鑠かす、金魚の糞、兵は詭道から戒めを込めて、反シュウキンペイの会としましょう」との声が上がり


 「脱や反は消極的で名称に相応しくないので、習慣は第二の天性なり、近道は遠道、平家を滅ぼすは平家から単純にシュウキンペイの会は如何ですか」との提案には喝采の声も上がったが


 「罪を憎んで人を憎まずの行動規範に抵触するのではないか」との意見や


 「名称を決定するのに大喜利状態になるのは不真面目だ」と憤慨する声も上がったが、


 議論を重ねていくと


 「就任以降、激化する戦狼外交、Cupid19等を考慮すれば、個人攻撃ではなく、象徴する存在になっている」との考えに傾き始めると


 「脱及び反も含めて其々に意義深く、決して遊び半分ではないので、ユーモア及びインパクトを加味する意味で、シュウキンペイの会にしましょう」と満場一致で決定した。


 私の草稿は事前に各人の部分についての擦り合わせをしていたので、問題なく素通りされると思っていたが、認識が甘かった。


 「基本的な意見は一致しているので、何度も重複すると陳腐化するので、前後関係や専門分野を考慮して冗長な部分を削ぎ落としましょう」と自説に固執するのでなく、シュウキンペイの会による作品を作り上げる気迫が充満していた。


 「重複を回避すれば、後ろの方は削除されることが多くなるので」と言葉を濁すと


 「嘘も百回言えば真実になると私達が踏襲すれば、信憑性が薄れてしまいます」と意に介さず断言した。


 「不透明な部分があるので、フィクションとしていますが、フェイクニュースや都市伝説のように扱われては禍根を残します、社会問題の提起及び学術的な分野にも展開する予定です」と依然行方不明である同期のことも気に掛けてくれていることと一過性でなく、発展的な活動を意識してくれることが発言を通して伝わってきた。


 理事長を目で探すと大人と少し離れて話していたが、私の視線に気が付くと大きく頷いて、親指を力強く屹立させた後、大人と固い握手を交わした。


 亡命者と元五毛党による行動計画は冒頭で亡命者が


 「C国の問題はC国人が解決すべきであって、他国を巻き込むべきではないと考えていましたが、このような偏狭な考え方がC党の暴走を許して、このような事態に直面しています、国際問題として俎上に乗せなければ、将来に禍根を残すことになります、皆様に於かれましては其々の立場で出来ることを考えて、行動して下さい」と頭を下げて協力を依頼した。


 元五毛党は「膂力に劣る、知識がない、間接情報なので」と謙遜していたが詳細に内情を把握していた。


 国防、公安及び政治家への働きかけを具体的に示し、依然行方不明である同期の消息にも言及して対応策を提案した。


 彼が何者であるのか詮索することは無駄であり、其々に割り振られた役割を忠実に実行あるのみである。


 現在進行中であり、関係者を窮地に陥らせる可能性があるので、内容については記載することは出来ないが、近い将来に全面的に公開する日が来ることを希望している。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤鏃(セキゾク或いはあかやじり) 糸田三工 @itodathank

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る