第4話 三章
C国人であるか少し問題はあるが、証券会社の後輩に連絡を取った。
厳密に言えば、当時の就職事情を鑑みて事前に帰化しており、国籍はJ国人であるが、T門事件の影響で両親が亡命しているので、C国の状況を聞くには申し分ない。
私大の雄を卒業した彼は、J国語、C国語は勿論のことE語も流暢に操るだけでなく、最先端技術も貪欲に利用している。
残念ながら旧態依然な証券会社に早々と見切りを付けて、ネット商取引のベンチャー企業に華麗なる転職をしていた。
「ご無沙汰しています、Cupid19について教えてくれと言われても、世間一般的な情報しかないですよ」と事前に予防線を張りながら
「就職事情が変わって、帰化するよりもC国人の方が優遇されていましたが、最近ではJ国人への帰化希望者が増えて、C国のSNSであるWBとWC共に相当数のフォロワーがいますよ、ある意味この分野では教祖に祭り上げられていますよ」と自慢気にスマートフォンの画面を見せながら
「WBの方が少し保守的で検閲も厳しいですが、WCはかなり過激ですよ」と言いながら、著作権を完全に無視したスタンプや自撮りカラオケアプリについても懇切丁寧に説明をしてくれた。
Cupid19拡大前にコウモリを一頭丸ごと食べるパフォーマンスも削除されずに残っていたので
「これって、問題になった奴でしょ、検閲で削除されないの」と尋ねると
「基本的にC国在住のC国人が対象であって、海外在住の特に外国人にまで適用されませんよ、いきなり削除したらデジタルタトゥーを却って拡散されて炎上してしまうじゃないですか」と私には理解出来ない専門用語を捲し立て
「小紅粉と呼ばれる攻撃的愛国主義者以外は、戦狼外交によって世界中で孤立する状況を真剣に憂いています」とWCで具体的な投稿の説明をして
「外貨持ち出し制限を徹底していますが、C党幹部が沈没しそうな船から真っ先に逃げ出そうとしており、徹底した腐敗撲滅運動も単なる内部政争と外部宣伝以外の何物でもありません、リベラルお得意のブーメランを食らっているケースもありますよ」と冷静に現状分析をした。
「C国内だけ検閲しても無駄じゃないの」と思ったまま質問すると
「J国の常識とC国の常識は全く異なり、海外に目を向けているC国人なんて極僅かであり、大多数がその日暮らしで情報から隔絶されています」と少し翳りのある表情を見せると
「幸い両親と共にT門事件後、J国へ無事に亡命しましたが、C党は兵士を含む319人が死亡し、7000人以上が負傷したと発表していますが、C国R十字は死者を2600人以上と発表した後、数字は行方不明者であったと撤回しており、世界に恥を晒しました、G国の外交電報によると死者は1万人を超えると報告されています」と具体的な数字を上げて
「Cupid19の死者数を世界中が疑惑の目で見るのは当然です、不謹慎かもしれないですが、僕は自分がコウモリだと自覚しているので、両国の歴史は誰よりも勉強したと自負しています」と宣言すると
「遣唐使と遣隋使は知っていますよね」と唐突に尋ねた。
「日本史で学ぶので、その程度のことは知っている」と憤慨気味に答えると
「遣日使は知っていますか」と重ねて尋ねるので
「それは聞いたことがない」と正直に答えると
「遣唐使と遣隋使よりも大規模でしたが、望郷の念と闘いながら研鑽に励んだそれらとは異なって、遣日使は帰国要請を拒んで、定住してしまい両国間で問題になったので、中止になりました」と衝撃的な事実を淡々と述べ
「C国が崩壊したら、A大陸から押し寄せるE州どころでない難民問題が発生します」と心を見透かすように尋ねた。
「どうすれば良いか教えて欲しい」と見解を乞うと
「正解はありません、これから議論していかなければならない問題です、Cupid19よりも些細な政治資金に纏わる問題に終始して国会は空転しており、心許ないですが」と冷笑したので
「個人的な意見とJ国最大の問題を教えて欲しい」と重ねて見解を乞うと
「難民船は躊躇せずに沈めます「カルネアデスの板」所謂緊急避難です」と断言し
「J国最大の問題は勝者による東京裁判で「戦争責任」を軍部にだけ押し付け、反省せずにメディア及び官僚を温存してしまったことです、民主主義と洗脳されていますが、実質「官主主義」です、剛腕幹事長が「神輿は軽くてパーが良い」と嘯きましたが、彼自身も神輿であることを理解していない悲劇若しくは喜劇です」と感情を交えずに答えた。
「大学卒業時のペーパーテストだけで、将来が確約されているので、官僚が減点主義で後ろ向きになるのは当たり前です」と人ではなく、制度の問題であることを指摘し
「C省の前事務次官が女性の貧困についての調査と笑えない言い訳で買春倶楽部に頻繁に出入りしており、豪雪地帯N県の元知事も同罪ですが、退任後も幹部による汚職や裏口入学等の不祥事が頻発し、A省の元事務次官は引き籠りと家庭内暴力を夫婦で耐え続けた挙句に長男を殺害しています、J国も構造的な問題を抱えています」とJ国とC国の狭間にあり、両国を知悉している重みのある見解を示した。
依然行方不明である同期についての質問をした途端に
「残念ながらその件に関してはお役に立てません、情報もないですが、何よりも先輩にはお世話になりましたが、証券会社にはあまり良い感情を持ってないので」と正直に話してくれた。
二人目は理事長の紹介であり、太子党に連なる名門一族ながら学究肌であり「私は文人ですから」と一切政治に関与せず、Hを拠点にC国内の少数民族を支援する活動もしていた。
「自由Hは既に過去のものです、私も事前に撤退してJ国に閉じ籠って、嵐が過ぎるまで只管耐え忍ぶだけです」と開口一番宣言すると
「C党は政治形態を変更せずに経済に限定して改革開放路線に舵を切りましたが、構造的な矛盾は最早制御出来ない水準に来ています、その中でも私有財産と戸籍制度が二大問題です」と言及すると
「C党は私有財産を否定しながら、幹部は私腹を肥やし、野放図に廃墟都市を開発した結果、財政破綻の危機に晒されており、弥縫策として、借地権の期間延長若しくは再国営化による実質上の略取で資金を調達するしか選択肢がありません」と声を落として
「何れの場合も痛みを伴うので、弥縫策でさえも既得権益者の反発を受けますが、それよりも深刻なのが、戸籍問題です」と説明し
「蟻族や農民工から搾取することで、国際的な価格競争力を維持していましたが、物価上昇圧力が高まり、彼らは生活を維持するのさえも困難な状況となっています、一帯一路や真珠の首飾りは現地には恩恵のないC国の失業対策であり、各地で不平による軋轢が噴出しています」と抜本的な解決策がないことを強調した。
「こればかりは意図的でないことを祈るばかりですが、一人っ子政策の弊害でC国の人口動態は極端に高齢化が進んでいます、Cupid19が高齢者や既往症がある弱者を標的にしたのであれば、人類史上最大の犯罪です」と声を落とすと
「C国の実力者1000人はS銀行に総額1兆ドル以上の隠し口座を持っていることも公然の秘密であるが漏洩すること自体が既に内部抗争が深刻である証左であり、理想を唱えた革命は過去の歴史同様に権力闘争でしかなかったことは明白となり、私腹を肥やす幹部への怨嗟の声は拡大され、C党存続に深刻な影響を与えるだろう、実態を知った私は決して彼らには与しないことを誓いました」と怒気を込めて語った。
「J国としては、どのように対峙すべきですか」と尋ねると
「出来る限り関係しないことしかありません」と取り付く島もないので
「隣国であり、C国の現状を考慮すると関係しないことは無理です」と反論すると
「現実的ではないが、A地域の安全保障を考えれば、A国依存の幻想を捨ててJ国が核武装すべきです、C国、R国、NK国及びSK国以外は反対しないでしょう」と極論を述べた。
「J国の大手メディアは、C国に浸食されている為、憲法9条は聖域に祭り上げられています」と悲観的な見解を示した。
依然行方不明である同期についての質問をすると
「それについては何も情報は持っていません、これからは写真を持参した方が良いですよ」と助言をして
「不幸な友人を見過ごすことは出来ないので、何かあれば理事長にご連絡します」と最大限の助力を約束してくれた。
三人目も理事長の紹介であり、彼の父もC国南部、GX省の名門一族であったが、C、。・大革命で三角帽子を無理矢理に被らされて、処刑されてしまい、家族が崩壊して母親とともに命からがら、Hに脱出して40年前にJ国に亡命している。
彼は現場を見たのではないが、父親の死肉が食されたことを確信しており、C党を徹底的に憎み、生涯を打倒だけに懸けている。
「世界中の厄災は6割がC国であり、3割がR国、残りがそれ以外です」が彼の口癖であり、信念でもあった。
「長征なんて、C党は徹底的にJ国軍を避けて、周辺の少数民族を解放の名の元に略奪を加えただけで、戦後予想されるN党との内戦に備えていました、K戦争後、旧S国との全面対決を恐れて、N党を見捨てたことがA国にとって最大の失策であり、T国からC国を国際機関Uに加盟させたことが追い打ちを掛けました」と早口に捲し立てた。
「如何にC党が信頼出来ないかは、旧S国によるDTA戦争中の国際的な諜報戦であるゾルゲ事件を引き合いにして、J旧S不可侵条約を一方的に破棄して、H道に侵略したSM島の戦いがある」と具体例を示し
「C国は国際法で禁止されている便衣兵を利用して、大躍進運動による餓死者も含めてS事件を世界中に宣伝しており、信頼に値する情報を提供しません」と熱弁を奮った。
「旧S国でさえ悪名高い諜報機関であるKGBを利用したのにC国は五毛党、千人計画等によって民間人を利用するだけでなく、孔子学院によって、現地人を介して世界中にプロパガンダを拡散しています」と興奮を抑え切れず
「A国に亡命したC国人実業家は「身の安全、財産の保全、復讐」の為、C国C党最高指導部の腐敗・汚職を暴露し、AZ国に亡命したC国人諜報員は「H、T国、AZ国で潜入工作や妨害工作に携わり、HでC国C党に批判的な書店の関係者の拉致にも関与していました、C国政府が複数の上場企業を密かに支配し、反体制派の監視と調査分析、報道機関の取り込みを含む諜報活動に資金を拠出している」と詳細に説明しています」と長口舌の末に
「J国も対岸の火事ではありません、党文書の用語から名付けられた「方針、路線、政策、計画、完成」四男一女の失脚に絡んで、妻名義で京都に2軒の大邸宅を保有していました、J国人の協力者が絶対に不可欠です、既に森林や水源、リゾート地等がC国資本によって浸食されており、拝金主義に塗れた協力者が多数存在しています」と危機感を募らせた。
依然行方不明である同期について助言通り写真を添えて質問をすると
「亡命後、警告の意味で襲撃を受けることや不審な食中毒も数度あり、半月前にも白昼堂々と傘で襲撃されたが、単独犯であったので、取り押さえたものの警察沙汰にはせず、強制出国を免れることで協力者になっている男なら事情を知って可能性があります、一度会ってみませんか」と提案された。
その場では返事を一旦留保して
「理事長に確認してから返事します」と答えると
「それで構いません、理事長によろしくお伝え下さい」と別れた。
早速、三人目の申し出を理事長に確認をすると
「願ってもない申し出なので、是非受けましょう」と言って、S区K町にある常連となった喫茶店での面談を取り付けた。
四人目とはこのような経緯で会うことになったが
「攻撃的な小紅粉ではなく、五毛党と呼ばれる守銭奴であったので、C国に対する忠誠心は一切ない」と断言した。
「J国にいるC国人は概ね三種類に分類され、最初のグループは太子党に連なる恵まれた人々であり、資産を海外に持ち出す目的で留学していましたが、外貨流出に危機感を募らせた当局によって制限されています」と訥々と説明して
「次に学業に秀でており、J国の技術や知識を吸収する為、国費で留学しているグループですが、J国の不況による地盤沈下によって、その数は減少しています」と耳の痛い内容を躊躇せずに告げると
「最後がC国では戸籍問題があり、希望を見出せない為、S頭等に多額の借金をしてJ国で返済を続ける蟻族若しくは農民工出身者が私達のグループであり、語学学校を卒業しても大学に入学出来る者は僅かであり、次第に生活費に困窮すると五毛党として糊口を凌ぎ、最終的には犯罪に手を染めていきます」と事もなげに暴露した。
「私はF省の農村に生まれ、教育や就業に厳しい制限を受ける為、一族郎党で資金を捻出して残額をS頭に借金をしてJ国に来ました、大学に入学出来なかったので、深夜バイトをしていましたが、返済が追い付かずに元手の必要のない並び屋をしていましたが、参入者も多く、膂力に劣っており、結局淘汰されました」と語り始め
「特殊詐欺はJ国語が覚束ない為、荒っぽい役割も無理なので、最初から諦めており、カード詐欺やメールアドレス転売は元手も知識もありません」と肩を落とすと
「白昼堂々と傘で襲撃する仕事は、指定された70歳以上の高齢者なので甘く見ていましたが、致命傷を与えることが出来ずに反撃を食らって取り押さえられてしまいました」と自嘲気味に語った。
「後で話を聞くとC大革命で亡命して以来40年以上もJ国で危ない橋を渡って食い繋いでいたので、所詮敵う筈もないと観念しました」と溜息を付くと
「今は反C党運動のお手伝いをさせて頂いており、正規のバイトと掛け持ちで何とか生活出来ています」と屈託のない笑顔で
「生まれた場所によって人生が大きく異なることを不満に感じ、悪事を正当化していましたが、紛争地域で命を落とす理不尽も悲惨ですが、憎悪の連鎖から解脱出来て良かったと心から感じています」と目を輝かせて話してくれた。
「心境の変化はどうしてだと思いますか」と尋ねると
「語学学校に通っていた時、地域の国際交流協会で高齢者による語学ボランティアを利用していたのですが、大変良くして貰ったので、反J国教育を受けていたけど何か違うと感じていました」と思い出しながら
「S区K町も深夜にゴミを捨てるのは、私達外国人で早朝に高齢者ボランティアが拾っていたのですが、最近ではJ国の若者が私達の真似をしています、残念ですが高齢者の美徳を若者は受け継いでいないようです」と的確な意見を述べた。
「高齢者は自分達の苦労を子孫にはさせたくないと一所懸命に豊かな国を作り上げましたが、皮肉なことに苦労知らずのお人好しになってしまったので、簡単に騙されてしまいます」と包み隠さず
「C国では騙す奴よりも騙される奴が悪いという風潮があり、白髪三千丈の伝統で嘘も百回言えば真実になると放言するので、実際に一人っ子政策の弊害で小皇帝と呼ばれる奴等を騙すことはC党幹部による悪事に比べると平気でした」と一気呵成に
「J国の若者に対しても同様の理論で、自分を騙していましたが、高齢者の美徳を踏み躙り、弱肉強食の理論で踏み躙ることに良心の呵責を感じます」と心情を吐露した。
「持続化給付金や特殊詐欺等の組織的な関与も嘆かわしい事ですが、資金繰りに詰まった女性の人身売買、男性の臓器売買、消費税分利益となる金塊若しくは麻薬の運び屋よりも借金返済に手っ取り早いのが、潜伏期間を利用したCupid19保菌者の渡航が噂されています、既往症のない若者であれば重篤化しないことに目を付けた黒社会が差配しているようです」と耳を疑うような問題発言をした。
「間接的な情報なので、忘れて頂いても構いませんが、潜伏期間よりも厄介なのは無症状保菌者です、第三波の発生経路を辿れば裏付けが取れます」と食い下がったが
「この件ついては、お互いに慎重になりましょう」と穏便に済ませた。
依然行方不明である同期についても写真を添えて質問をすると
「不幸な境遇に置かれている友人を捜索することには、全身全霊を尽くして協力させて頂きます、だからと言ってQupid19によるC国の謀略を穏便に済ませることも出来ません」と一歩も妥協を示さなかった。
二人で議論をしても埒が明かないので、私は理事長、彼が亡命者を同席して貰うことで同意した。
理事長は基本的には黙って聞いているだけで発言を控えていたので、三人で議論しても平行線のままであった。
具体的な論点に絞って発言を抽出すると
「情報収集や執筆だけで実際に行動を伴わなければ、無意味であり卑怯です」との発言には理事長が聞き咎めて
「無意味かどうかは考え方なので、我慢しますが卑怯という言葉は取り消しなさい、同志若しくは協力者を誹謗するのは失礼です」と発言し、撤回及び謝罪をさせた。
「スパイ防止法や関連法制も整備されていないので、時期尚早であり、蛮勇に終わってしまう」に対しては
「手を拱いて見過ごしてしまえば、取り返しが付かないので、行動あるのみです」と自説を譲らなかった。
私と彼の差異は、主に時間軸と方法論の問題であった。
「J国人も対岸の火事と悠長に構えるのでなく、実際に行動すべきです」と彼が発言すると
「C国の問題にG国を引き入れたのが、抑々の間違いであった列強に蹂躙され、A国、旧S国及びJ国を巻き込んでしまった」と亡命者はC国の問題であり、他国を巻き込むべきではないと主張した。
「C国は自国の諸問題を他国に輸出しており、最早C国一国の問題ではなく、世界中に害悪を撒き散らす癌細胞となっています」と彼が食い下がった。
彼と亡命者の差異は、C国の常套句である内政干渉であるか国際問題であるかの範囲論若しくは認識論であった。
「小異に固執して、大同を見誤ってしまうので、二週間後に議論の場を設けます」と理事長が宣言して、私には資料を整理して執筆することを指示し、彼と亡命者に対しては具体的な行動計画を二人の対立点を解消して、纏めることを約束させて、散会した。
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