第3話 二章

C国と関係する人物として真っ先に思い当たったのが、大学時代は国際経済ゼミで一緒だった友人であった。


 担当教官も古都の旧帝大出身者で独立行政法人Jにも出向しており、以前は人気ゼミであったらしいが、退官を翌年に控えており、楽勝ゼミだから、私は短絡的に専攻した。


 そんな中で真面目に英語及び会計の専門学校を掛け持ちで通学して、念願の総合商社に入社して、C国駐在も経験していた。


 国際経済ゼミにはC国人の留学生が3人おり、商都S出身者だけT門事件による海外逃避であり、名門S大学を卒業していたので、本来であれば大学院に所属していても遜色ない見識を持っていたが、旧M国のC市出身者及び古都X市出身者は一人っ子政策が生んだ典型的な申し子であった。


 S市出身者だけは、同朋の悪口を一切言わなかったが、C市及びX市の出身者は


 「S市出身者は、金の亡者で信頼出来ないので、付き合わない方が良い」と態々進言してくれただけでなく


 「C市出身者は、元々蛮族なので、頭部に大きな傷があり、凶暴だから気を付けて下さい」とX市出身者が態々注進してくれ


 「X市出身者は、過ぎ去った栄光だけに縋り、根っからの怠け者で嘘吐きだから、相手にしない方が良い」とC市出身者もご丁寧に注進してくれた。


 この話をすると友人も


 「同じ話をされたので、C国人はお互いに足を引っ張り合うので、偏見を持ってしまったかも知れない」と断った上で


 「C国駐在は地獄の日々だった、法治国家でなく、人治国家なので朝令暮改であり、賄賂文化が蔓延しているだけでなく、一党独裁を維持する必要性から相互監視が徹底されているので、気が休まることがなかった、国際経済ゼミで経験した悪弊も蔓延している」と不機嫌に吐き捨てると


 「大量発注を匂わせることで、試用機を納入させて、分解して模造品を制作し、不良品だと難癖を付ける支払拒否は日常茶飯事であり、国家包みで外貨導入には熱心だが、持出には厳格に制限されている」と商慣習を批判するだけでなく


 「あれだけ拒否していた家業である専門商社を継いだのもC国から逃げ出したかったからだろう、H経由だから我慢していたが、昨今の情勢を鑑みると一国二制度も終焉を迎えるので、撤退も検討しているが、外貨の持出は厳格に制限されており、二進も三進も行かず、考えれば考えるだけ憂鬱になる」とC国へは嫌悪を示した。


 H情勢について尋ねると


 「H、M及びG省を結ぶ世界最長の海上橋が開通したが、汚職や係者の不審死や賄賂等の醜聞だらけであり、H併合の橋頭堡であったと歴史は評価するだろう」と暗い見通しを語り


 「C書店事件はC国当局による言論の自由への圧力であり、U運動は親中派がT会を雇って暴徒化させて鎮圧の口実を与えて、選挙での民主派圧勝も蔑ろにされ、今や自由Hは風前の灯だ」と大きく肩を落とした。


 「憶測でしかないが、Cupid19もH情勢、T門事件の再評価への目晦ましの意味を持ち、AFやBLM等による暴徒化はA国大統領選挙の争点化及びA国及びE州を中心とする自由主義国家が唱える人権に対する挑戦だと考えている」と意味深に語った。


 二人目も国際経済ゼミの友人だったが、一人目とは真逆であり、最低限しか顔を出さずに趣味のサーフィン三昧で単位が足りずに一年留年して、学閥が緩いP庁若しくはD庁(現、D省)の国家公務員一種採用で見事後者に潜り込んだ猛者であった。


 前述のC国人との関係は、金満且つ凶暴なC市出身者と後ろにイントネーションのあるクラブに繰り出す悪友であり


 「金離れが良く、腕っ節もあったので、何かと困った時にはお世話になった」と苦笑しながら、明け透けに語り


 「勿論、入省後は一切の関係を持っていない」と真面目な顔に戻ると、弁解を付け加えることも忘れなかった。


 「CG庁はM省の外局であるが、SK沖衝突事件によって、サラミ戦術と呼ばれる挑発はエスカレートする一方であり、物量で圧倒的に勝るC国によって機能不全に陥ってしまっている」と腹立たしそうに語り


 「Cupid19禍に付け込んで、領海内への侵入を恒常化させて、国営放送で世界中に発信して、事実を積み上げ、既成事実化の最終段階に入った」と憂慮を示し


 「AD隊のスクランブル発進もC国機に対するP洋及びJ海への回数が急増しており、R国も歩調を合わせるようにN方F島を含む極Eへの挑発を活発化させている」とD省所属の背広組としての見解を語った。


 「NK国の原子爆弾開発や弾道ミサイル実験もC国が裏で糸を引いているのも間違いないだろう」と個人的な意見も示した。


 「自由主義世界による経済制裁も違法な瀬取りが横行しており、SK国の駆逐艦によるMD隊の哨戒機への火器管制レーダー照射も関連が指摘されている」と友人同士の噂話だと強調しながらも


 「外貨獲得は偽札、偽煙草、麻薬及び兵器と噂されているが、J国の娯楽産業であるパチンコもNK総連を通じての上納金も莫大な資金源になっている」と裏話にも触れ


 「拉致被害者も印刷工が標的であり、それ以外は不幸な目撃者と言われているが、奪還への努力は政府の義務であり、拉致被害者家族へのメディア及び政治家の心ない言動を忘れてはいけない」と持論を力説した。


 「偏向報道によって齎された二度に亘る政権交代、特に二度目では不用意な発言が相次いだ為、在J国A国軍基地問題は拗れに拗れているが、事業仕訳と持て囃された茶番劇によって、戦闘機整備事業がSK航空系企業に落札されたことにより、整備不良が増加していることは一切報道されない」と舌鋒は止まらず


 「A国軍の不祥事だけに煽り立て、同盟国の関係に楔を打ち込むことに全力を尽くし、C国の軍事的挑戦を無視する姿勢さえも報道の自由と呼べるだろうか」と悲憤慷慨し


 「政治的公平性を義務付けた放送法第4条の撤廃を全力で阻止する報道こそ、違反しているのではないだろうか」と疑問を呈して


 「放送事業への新規参入を認めなければ、C国の影響を排除出来ない」と包囲網が身近に迫っていることに警鐘を鳴らし


 「自由主義及び民主化を望まない独裁国家の盟主としてC国が暗躍しており、Cupid19によって前哨戦の火蓋は切って落とされた」との極論も敢えて隠さなかった。


 三人目は骨董市の取材をしてから懇意にしている非常に沢山の肩書と呼称を保有している不思議な人物である。


 骨董や美術品はH相互銀行のG屏風事件を筆頭に数多くの疑獄における切っても切れない存在となっているのは周知の事実である。


 さらに偽物や贋物の存在は、個人だけでなく、組織包みの関与も公然の事実である。


 国際経済ゼミの二人の友人から話を聞いたので、Cupid19及びC国に憤りを感じているのを見透かすように


 「与党幹部が、Gキャンペーンを独断で実施したとか、T都が備蓄する防護服や医療用マスクが軽率にC国支援物資として提供したとか、W県AWがパンダ外交の成果だとか物事を短絡的に考えてはいけない」と釘を刺して


 「国会対策とメディアによる世論誘導によって短命政権に終わるJ国は、長期的な外交戦略よりも目先の成果による人気取りが優先になってしまう」と弱点を指摘すると


 「JC共同宣言では、今太閤もC国での朝食に我が家の味噌汁が出たことで術中に嵌ってしまい、E登山で酸素ボンベを投棄した日本版ビッグバンのA級戦犯(理念に問題はないが、時期及びと内容が最悪であった)もハニートラップで手も足も出ず、将来に禍根を残し、政権交代の混乱期にも天皇陛下の政治利用及びSK沖衝突事件が発生している」と過去の事例について言及した。


 「C国三千年歴史を侮ってはいけない、政治は三流、経済は一流と開き直って嘯いていたが、経済も怪しくなっている」と深刻な表情で語ると


 「ここまで徒手空拳で辿り着いたことは、素晴らしいことだ」と一転して持ち上げて


 「これからは単独ではなく、周囲を巻き込んで、一人でも多くの同志を探しましょう」と固い握手を交わすと


 「C国の横暴を許さないようにA国との協力は特に欠かせないが、単なる追従や依存ではなく、国益に沿った複眼的な思考が欠かせない、T国やIN国等の価値観を共有出来る国々だけでなく、AZ国やR国等の特定分野で衝突があっても遠交近攻若しくは敵の敵は味方と妥協点を見出して協力する強かさが求められる」と外交の基本としてだけでなく、人生における教訓を教えてくれた。


 「収賄及び脱税で失脚した大物政治家は、多額の割引債を購入していた金融機関から蝙蝠紳士の隠語で呼ばれており、Cupid19禍では笑えない冗談のようでもあるが、刻印のない金塊を大量に保有していた」と意味深な発言をしたので


 「それは何か問題があるのでしょうか」と尋ねると


 「刻印のない金塊を密輸している国はNK国しかない」と断言した。


 拉致被害者家族への心ない言動が何に起因しているかを垣間見た瞬間であった。


 「易姓革命と呼ばれる徹底した前時代の否定によって、発祥国であるC国では消滅してしまいJ国に残っている伝統も多数あり、古くは焚書坑儒、近くではC大革命が典型例である」とC国の悪癖を指摘しながら


 「DTA共栄圏の理想を掲げて、実際にはE州やA国が邁進した悪名高き植民地政策を踏襲して、A地域における希望から失望へ評価を覆したJ国にも反省すべき点は多い」と結論付けると


 「さりとて現状を鑑みるとC国は国際社会の癌細胞になりつつあるので、何とかしないと将来に禍根を残すことになる」と断言し


 「Cupid19の発生源をC国と断定することは出来ないが「C国の14億人に対して死者は4000人、20万人以上が死亡したA国と比較すれば1人も死んでいないも同然だ」との暴言が全てを言い尽くしている」と言及すると


 「独裁者である国家主席への阿諛追従であることを勘案しても、人命の軽視、用意周到な対策及び情報の隠蔽による初動の遅延等、人類に対する重大な犯罪行為である」と論拠を説明した。


 「外交の基本は笑顔でテーブルの上で握手をして、テーブルの下で蹴り合いと説明されるが、C党はテーブル外でも非情な裏工作を厭わない」と述べると


 「旧S国では、最も由緒ある家系の当主が敗戦後にS抑留の上、帰国前に不審死を遂げており、NK国では、最高権力者の実兄がM国空港で白昼堂々とVXガスで毒殺され、C国では、文化大革命、T門事件とC党にとって、不都合であれば大量殺人さえも躊躇しない」と直言し


 「T門事件ではA国及びE州をする自由主義国家が足並みを揃えて、抗議したのに対して、J国の外交文書には事件直後の極秘扱い文書「わが国の今後の対C国政策」には「わが国の有する価値観(民主・人権)」より「長期的、対極的見地」を重視する方針を示し、世界中の不興を買い、C国を増長させる結果となってしまった」と取り返しが付かない失態演じたことを強調した。


 情報源及び協力者の提供に関する全面支援及び依然行方不明である同期の消息を探索することも快く協力を約束してくれた。


 肩書及び呼称の中で際立っているのが、ヤクザマンションの理事長であり、裏表に精通した影響力の恩恵を受けることが出来た。


 四人目を紹介して貰うに際して、些細な事で一悶着が生じた。


 協力者として紹介されたのは気鋭のノン・フィクション作家であり


 「似たような観点から継続的に追跡調査をしているので、共同執筆の体裁としてはどうか」と提案されたが


 「社会的には協力者の一人にしか評価されない」と不平を唱えると


 「真実の追求よりも個人の名声に興味があるのか」と非難を込めて言われた。


 「元々、同期の提案が切っ掛けであり、瓢箪から駒なので、個人の名声に拘るのではないが、調査を進めるに従って「書きたい」という内なる衝動を抑え切れない」と切々と訴えると


 「情緒的若しくは感情的な表現に訴える傾向があり、論理的な飛躍若しくは破綻が目立つので、ノン・フィクションでなく、フィクションとして扱うことを提案するが、納得出来ないか」と提案された。


 たった一度の面談で、特徴を把握して的確な助言を提供する観察眼に感服したので、迷うことなく提案に従うことを約束した。


 四人目とは、最大の歓楽街であるS区K町にある喫茶店で面談することになった。


 気鋭のノン・フィクション作家であり、共同執筆を提案する人物なので、尊大で押しの強い印象を抱いていたが、実際には礼儀正しく線の細い好人物であった。


 更に驚いたことに共同執筆は毛頭考えておらず、一貫して弱者の立場から社会問題を提起することだけを題材に考えていた。


 依然行方不明である同期の安否にも心を痛めており、一日でも早く無事発見されることだけでなく、学術的な分野を担当する同志であると認識していた。


 恐らく理事長は過激な内容を暴露することに後ろ向きである彼に対して、共同執筆を持ち掛けることで、協力者として参加することを提案したのだろう。


 実際には私の拒絶によって、彼が希望する社会問題の提起を担当して、同期が学術的な分野を担当して、既存の枠に治まらない謎に包まれた破片を私がフィクションとして執筆するという理想形に怪我の功名による副産物を伴って、漸く落ち着いたようだ。


 理事長の策略に対する嫌悪感は全く起こらず、敵の敵は味方と妥協点を見出す強かさと三人寄れば文殊の知恵を実践する指針が示され、寧ろ高揚感さえ味わっていた。


 「弱者の立場から社会問題を提起することが、私の題材なのですが」と苦渋の表情で


 「C国籍の生活保護集団申請及び扶養家族の健康保険加入における過大請求等制度の悪用によって、本当に必要とされる人に対しても心ない罵詈雑言が与えられる悪循環に心を痛めています」と覚悟したように語ると


 「限定商品の買い占め、その中でも許せないのは、火事場泥棒のようにCupid19で品薄となった医療用マスクの転売だけでなく、申請に必要な書類一式を偽造して、持続化給付金の不正受給がC国人に横行しています、組織的な犯罪であり、C国当局の関与も見え隠れしています」と溜まっていた不満を一気に吐き出した。


 「学生時代にはA大陸や紛争が絶えないME難民の問題にも取り組んでいましたが、政治の不作為が根本原因であり、人間を盾に独裁者の延命に助力していることに気が付き、先ずは身近な範囲から取り上げていく、有縁を度すを座右の銘にしています」と淡々と語り


 「憎悪の対象はC国人ではなく、C党であり、約9000万人が14億人の蟻族や農民工等から搾取しており、発展途上国では独裁者に対する過剰融資で債務の罠に陥ると港湾を租借し、植民地宛らの悪辣な方法が問題化しており、先進国では人権の名を騙った過激な勢力による騒擾による治安悪化を扇動しています」と力強く断言すると


 「国際的な企業のA地区統括担当が同志として行動を共にしており、C国からの撤退も辞さない交渉をしながら、社会問題の短編映画が国際映画祭にノミネートされたので、壮行会を開催しました」と嗚咽したので


 「どうかしましたか」と尋ねると


 「壮行会の席上で胸部を刺すような痛みを訴え、緊急搬送されましたが、そのまま帰らぬ人となりました」と声を絞り出した。


 「検視の結果、事件性なしと判断され、司法解剖も行われず、荼毘に付されてしまい、国際的な企業による猛抗議も虚しく、あっけない幕切れとなってしまいました」と肩を落とし


 「C国出張の際は、国際的な企業が指定するハイヤーで移動して、飲食物も全て持参して、用心に用心を重ねていたのですが、J国内なので、油断してしまったのでしょう、事件性なしという検視の結果を私は全く信じていません」と迷うことなく断言した。


 頃合いを見計らったように理事長が現れると第一声は


 「一人は肩の荷が下して、生々としているのに、もう一人は重荷を背負ったような深刻な顔をしているけど」とお道化て言うので


 「茶化すのは止めて下さい、人が殺されているんですよ、同期の安否も絶望的です」と取り乱して喚くと


 「冷静になれ、J国人を殺すのは簡単ではない、それだけの価値がなければ、態々危ない箸を渡ることはない」と諭すように語り


 「Cupid19の初期症状は、胸部の激痛であり、トリカブト毒と共通しており、医療及び警察制度の崩壊で、本来の死者数に混じって、水増し及び暗殺も相当数含まれている可能性が高い、モンゴロイドがコーカソイドやネグロイドと比較して適応力が高く、耐久力が強いとされるが、死亡者数の偏差は異常値を示している、何か意図的であると感じている」と淡々に語り


 「それでも「冷静になれ」なんて無理ですよ、危険以外の何物でもないです」と食い下がると


 「憎悪と恐怖の無間連鎖こそ、奴等の思う壷だ、君の覚悟はその程度だったのか」と一喝された。


 「死ぬのが怖いんです」と恥も外聞も全て捨てて答えると


 「日常生活にも危険が潜んでいるので、安全を保証するとは絶対に言えない、死ぬのは怖いが、為すべきことを為さずに死ぬのは悔しくないか」と優しく諭すように両肩に手を置いた。


 「前に教えて貰った「最悪は死ぬだけだと割り切れば、人間何でも出来る」ですね」と一度は挫けそうになった覚悟を再度奮い立たせた。


 愈々、C国と関係するJ国人から情報収集の段階を終えて、様々なC国人と面談していく段階に入った。

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