第14話 帝王の謁見

王城の謁見室前にたどり着くと、騎士が開ける前に扉が中から開いた。


「イザーク!!よく来たな!」


大きな声に驚いて身をすくめたら、イザークがさっと手で私の耳をおおった。

今の地響きみたいな声は何!?


「伯父上、ラディアが驚きます。声を小さくしてください」


「おお。すまない。……イザーク、お前の番はまだ子どもなのか?」


「十八ですよ」


「それにしてはずいぶんと小さくないか?竜族なんだろう?」


私が小さいことに驚いているようだが、

馬鹿にしているのではなく心の底から心配している声に聞こえる。


イザークの手をよけて帝王を見たら、イザークと同じくらい大きい。

そういえば帝王も竜人だった。竜族よりも体格がよくて当然だ。


短く切った黒髪にはっきりとした二重の赤目。色はイザークと同じ。

顔立ちはあまり似ていないけれど、帝王もすごく強そうに見える。

暗殺して来いと言われたのが帝王だったとしても殺せなかった気がする。

竜人なら毒耐性あるだろうし、剣でも切れないだろうな……。


「なんだ?変に観察されているような気がするな。

 イザーク、その番は本当に平民の旅人なのか?」


「ラディアはエンフィア王国の第一王女です」


「はぁ?」


「俺が殺したことになっていますが」


「どういうことだ?」


平民には見えなくてもさすがに王女だと思っていなかったらしい。

だが、イザークが私の事情を説明すると、意外にもすぐに納得してくれる。


「他国の王族を暗殺するために育てられた王女か。

 あの国ならやりかねんな……」


「どこまでも腐った連中ですからね」


「わかった。竜帝国の貴族の籍を用意しよう。侯爵家あたりでいいな。

 平民のままにしておくとめんどうだろう。

 竜帝国の貴族でも嫌がられることは間違いないだろうが、

 それだけの理由でエンフィア王国が否定するのも難しいだろう」


「それはお願いしようと思っていたので助かります」


「何だったら俺の養女にしてもいいんだぞ?」


帝王の養女って、それって第一王女になれってこと?

さすがにそれは断りたいと思っていると、イザークが断ってくれた。


「さすがに二代続けて竜帝国から降嫁させるのは揉めるでしょう。

 独立する気はありますが、今すぐは避けたいので」


「独立する気はあったんだな」


「ラディアを関わらせたくないので。

 それにあの国はもう終わると思います。

 独立しておいた方が何かと都合がいい」


「ふむ。終わるか。竜帝国としても関わらないようにするか」


エンフィア王国が終わる。たぶん、レオナがいなくなったからだ。

他国との取引材料だったレオナの薬が売れなくなれば、すぐに同盟は切られるはずだ。

王国内だけでやっていけるような国ではないため、じきに崩れてしまう。


「それにしても番というのはすごいな。

 イザークは女にそっけないと思っていたのに、こんなにも変わるものか」


「俺がなにか?」


「いや、謁見中も抱きかかえたままだとは思わなかった」


「「あ」」


そうだった。まだ抱き上げられたままだった。

さすがに謁見中にこれは無いよね。

下りようとしたけれどイザークの腕は動いてくれない。

抗議する意味で胸を叩いていると、帝王から止められる。


「あぁ、よいよい。ラディアと言ったな。

 そのままでいいぞ。こんな顔をするイザークを見るのもおもしろい」


「はぁ。このような状態で申し訳ありません」


「気にせんでいい。

 私もアロイスに王座を譲った後、番を探しにいくのが楽しみになった」


「そういえば、アロイスはどこに?」


謁見室には若い男性はいなかった。

側近だと思われる中年男性が数名と護衛騎士がいるだけ。


「ちょうど母上の生家に行っている。竜人の女児が生まれたそうだ。

 ……おそらくその子がアロイスの妃になるだろう」


「……そうですか。アロイスの」


生まれたばかりの女児が王子の婚約者になるのか。

竜人として生まれた貴族令嬢は王家に嫁ぐのが習わしなんだっけ。

せめてその令嬢とアロイス王子の相性がいいことを願うしかない。

もしかしたら番だという可能性もないわけじゃないから。


「あぁ、夜には戻ってくるから夕食は一緒にとろう」


「わかりました」


「その前に、側妃がお前と話したいと言っている。

 いいだろうか?」


「ラディアも一緒でいいですか?」


「離れたくないのはわかるが、側妃は番には会いたくないと言っている。

 おそらくカロリーヌのことだろうと思う。

 はっきり断ってもらってかまわないから、最後に話をしてやってくれないか?」


どうやら側妃が会いたがっているのはイザークだけらしい。

側妃にとって私は娘の恋敵なわけだから、会いたくないというのもわからないでもない。


「ラディアと侍女は旅で疲れているだろうから、先に部屋に案内しよう。

 すまないな、ラディア。イザークはすぐに返すよ」


「わかりました。イザーク、レオナと先に部屋に行っているわ」


「それならせめてデニーとダニーは連れて行ってくれ」


「ええ」


レオナとデニーとダニーを連れて謁見室から出ると、

王城の女官と騎士が案内をしてくれる。


長い長い通路を歩いていると、

何かに気がついたダニーがレオナに耳打ちしている。


「イザーク様がいつも泊まる部屋とは場所が違うようです」


「わかったわ。でも、そのままで」


どうやらこちらにも何かあるかもしれない。

側妃はイザークと会っているというのなら、私たちの相手は王女かもしれない。

しばらく歩いた後、着いたのは離れのような場所だった。


「こちらは特別なお客様をおもてなしするための部屋でございます」


「わかったわ。ありがとう」


女官の説明にレオナが答えると、女官はお辞儀をして部屋を出て行く。

騎士は外に立って護衛をするようだ。


部屋の中は広々としていて、確かに客用の部屋に見える。

入ってすぐに応接間と侍女や護衛の待機室。奥には広い寝室。

いたるところに見事な赤い薔薇が飾られている。


もしかして、本当におもてなしするための客室?

イザークだけでなく私がいたから、違う部屋になっただけかも。

王女が待っていると思ったのに誰もいなかった。


「罠か何かだと思ったのに本当に泊まる部屋だった?

 疑いすぎちゃったかな」


「ラディア様、まだ安心しないでください。

 これから部屋が安全かどうか、俺たちで確認してきます」


「わかった。レオナと待ってる」


奥まで何もないかどうかダニーとデニーが確認してくるらしい。

たしかに人が隠れているかもしれないし、安心するのはまだ早いか。

ソファに座って二人が戻るのを待っていると、奥からどさりと大きな音がした。


「え?何?」


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