第2回目
2話
「「いってきまーす」」
表札に剣崎と書かれている一軒家から制服を着た兄弟が出てくる。
「なんだか先週とは景色が違って見えるなっ」
スキップでもしそうな様子でいつもと景色が違うと大きな声で言う男。
「お兄ちゃん、嬉しいのはわかるけど、これからはあんまり大きな声は出さない方がいいんじゃない?気をつけた方がいいよ」
「は!そうだな一花っ俺はこれから身バレに気をつけなければならないんだ。俺はもう外で喋らないぞっ」
「はー、全く...デビューもしてないのに身バレも何もないでしょ」
隣にいた少女、一花が男にため息を吐きながら、デビューもまだなのに何を訳の分からないことを言ってるのかと男に冷たい視線を向け、「先に行くよっ」男を置いて先に行こうとする妹。「おい、一花!待てってっ」待つように言いながらも追いかける兄の姿に仲のいい兄妹だ、と周りの通行人の暖かい視線が飛んだ。
「おはようっ」
「お、一郎おはよっす」
「おはよ。剣崎どうしたのよ。妙に元気じゃない」
教室に入り自分の席の近くで話していた2人の男女に元気な声で挨拶をする男、剣崎一郎に戸惑いながらも挨拶を返す。
「いやー、それは言えないんだなぁ。」
「なんだよー、教えろって。彼女でも出来たか?」
「まあまあ、落ち着いてくだせぇや幹太さん。俺はもう君たちとはステージが違うのさっ」
「お?なんかイラッとしたな。良い人ができたなら出来たっていえって」
上機嫌な理由にまさか彼女でも出来たのか席に座っていた男が聞くも、詳しくは教えずにニヤニヤしながらも誤魔化す一郎に少しイラッとした様子のスポーツマン風の男、戸島幹太に落ち着くように言う真面目そうな委員長風の少女、児玉美波が訳を聞こうとする。
「幹太落ち着きなさいって。でも、一体何なの?剣崎がここまでのご機嫌って中々ないわよ?」
「わりーな美波、幹太。真面目な話ちょっと言えないんだ。いつか言えるかもしれないその時まで待ってて欲しいんだ」
「なんだよ一郎、そんなに心が狭い人間だったか?」
「いや、心がどうとか言うよりさ。守秘義務的な?とにかく言えないんだって。許してくれよ」
「あー...なんか親父さんの会社関係か?」
「そうそう、なんかそんな感じだ」
「なんだよ。すっきりしない言い方だな」
「言えないって言ってるんだからあんまり無理に聞かないのっ」
真面目な顔をして話せないと語る一郎に煮え切らないなと話す幹太に話せないものは無理に聞くなと止める美波。
美波のその言葉に助かったという顔をする一郎。
そこに担任がドアを開け、教室に入ってきたため話を中断する3人。「後で聞くからなっ」それでも諦める様子もなく去っていく幹太にため息を吐く一郎。
「まあ、諦めなさい。もう少し詳しく話さなきゃあいつしつこいわよ」
「へー、へー。幹太がしつこいのはわかってるんだけどなあ...」
しつこい幹太の追求に諦めるようにいう美波にあいつの性格は知っているとボヤく一郎に苦笑いをする美波。
時間が過ぎて昼休みになり、再び集まる3人。
「で?なんだよ。守秘義務がどうこうってのはわかったから、もうちょいなんか納得できるように言えって」
「うーん..バイトに受かった?って感じかな」
「んだよ。そんなことかよ。で?そんなに喜ぶようなバイトなの?時給いいとか?」
朝の続きを話す幹太に困りながらもバイトに受かったと話す一郎。何がそんなにいいのか聞く幹太に一郎は苦笑しながらも答える。
「出世がしやすくて、うまくいけば直ぐに貰えるお金が増えるって感じかな」
「へー、そんな割のいいバイトあるんだな。羨ましいわ」
本当のことは話せないまでも誤魔化しながら話す一郎に一応は納得を示し、羨ましいと言う幹太。
「守秘義務ってことは会社とかで何か仕事をやるってこと?学生なのにやらせてくれるの?」
「そう!そうなんだよ。会社でバイトするんだよ。なんか応募があったから受けてみたら受かった感じ」
「ふーん?一応は誤魔化されてあげるね」
「ハハ...」
学生が会社で仕事ということに引っかかっている様子の美波に、あくまでもアルバイトだと誤魔化す一郎。怪しみながらも笑みを浮かべる美波に引きつった笑いを返す一郎に、「女ってこっえー」幹太もちゃかしながらも笑う。
「なあ、どっか寄ってくか?」
「悪いな、今日はみみたその配信があるからパス」
今日1日の授業が終わり、帰りの支度をしながら一郎を誘う幹太に推しの配信があるから行かないと断る一郎。
「みみたそってVtuberだっけ?お前がずっと前から好きっていってたやつ」
「そう!ずっと応援してるんだ。それに、新しいバイトでグッズも買えるようになるかもしれないっ」
みみたそというVtuberを一郎は長いこと推している。はじめて見たのは中学3年生の時、Vtuberというものを知ったきっかけでありどハマりさせるきっかけである彼女をデビュー当初から推している。
Vtuberというものはグッズというものを度々出す。ストラップやアクリルスタンド、タペストリーなどがあり、この売上がライバーとしての収入にも繋がっているのだが、一郎は学生ということもありグッズを全て購入するほどに金銭面で余裕があるわけではない。しかし、採用され金銭を稼ぐ手段ができた今これからは自分もグッズが買えるかもしれない、とご機嫌になっているのであった。
自宅に帰宅しさっそくパソコンの前で配信サイトを開く一郎。
「まだ始まってないか。良かったよかった」
推しの配信はまだ始まっては居ないようで一安心する。配信までまだ時間があるため適当に推しの切り抜きでも見るかとスクロールしていく一郎。
Vtuberは配信時間を何時間とする関係上、全てを見ること時間の確保が出来ない人が出てくる。そこで、面白い所の抜粋を有志のファンや切り抜き師と呼ばれる人がすることにより配信は長くて見れないけど、というライト層などの取り込みに一役買っているのである。
「お、来たきた」
一郎は切り抜き動画をしばらく見ていると、推しが配信を始めるという通知が来た。
「はーい、皆さんこんにちは。みみたそです!今日は雑談していくよ」
「お、今日は雑談の日か。俺のコメント読んでくれるかな」
雑談はゲームなどと比べて比較的コメントが読まれやすいという特徴があり、配信者の日常の様子や出来事が知れるために人気のコンテンツであった。
しばらく配信を見ていると一旦話題が終わりそうな雰囲気だったので「○○ってどうなりました?」とコメントをする一郎。
「あー、○○はまだ向こうとの予定が建てられてなくって。だから、ちょっとごめんね。まだかかるかもしれない」
「よしっ読まれたっ」
自分のコメントが読まれたことで興奮する一郎。要件はまだまだかかるとのことで残念だったがそんなことは関係なく、読まれたことが嬉しい一郎は「スイーツでも買ってくるかな」と浮つく気持ちで配信を見ていた。
「あー、今日も可愛かったな。俺もみみたそと一緒にゲーム出来たりってするのかな」
2時間ほどの配信が終わり、満足した一郎は読まれた時に考えてた通りにコンビニに行こうとする。
「あ、お兄ちゃんどっか行くの?それなら帰りにアイス買ってきてくれない?なんか新作あるらしいんだ」
「ちょっとコンビニ行ってくる。アイスね、了解。どれかわかんなかったら電話するわ」
外に出ようとすると学校から既に帰宅していた妹、一花に気づかれアイスをお願いされる一郎。ついでだから、と了承し自転車でコンビニに向かう。
「お、一花が言ってた新作ってこれか?」
妹のお目当てのものを買うことに成功し帰路に着く一郎。「これから付き合い悪くなる?」信号待ちをしていると近くにある公園から聞こえる声になんとなく顔を向ける一郎。そこには明らかに校則違反であろう金髪にピアスを空けている一郎と同年代くらいの制服をきた男たちのグループがいた。
「ごめんって、でも夜だけだからさ。俺ちょっと色々あってさ、これから夜に集まること出来ないかもしれん」
「そうかそうか」
説得を試みる男に誤魔化せていないぞという表情で、男を一応は心配する様子で話し始める周りの男たち。
「不良でもああいうことって言うんだな」
自分は関わりのないタイプの人達の温かい言葉に不良たちにも友情ってあるんだなと感心しながら再び自転車を漕ぎ出す一郎。
「あ、そういえば週末に決まったよ。本社近くのカフェで説明するって」
家に帰宅し、家族で夕飯を食べながら母であるあかねに説明の日時が決まったと話す一郎。
「あら、そうなの。美容院行った方がいいかしらね」
「いや、そこまでしなくてもいいんじゃない」
美容院できちっとした方がいいか聞く母にそこまでしなくてもと反応に困る一郎。
たかがと言うのはどうかもしれないが、担当の人と軽く顔合わせをするくらいなのだ。わざわざお金をかけてまで美容院で整えて貰わなくてもいいのではと思ってしまった。
夜も遅く、暗い町を歩く疲れきった様子の男が携帯を弄りながらつぶやくように言う。
「こんな時間まで遅れやがって...あの野郎ほんとにムカつく」
愚痴をこぼしていた男は気を取り直した様子で口を開く。
「そういえば、どんな子たちなんだろうな。俺の同期くんたち。俺含めて3人らしいけど」
携帯を弄りながらメガネを軽く持ちあげ、薄く笑う男。
「さてさて、どんなことをやろうか」
ぶつぶつと独り言を言っている男は周囲から少し遠巻きにされていることに気づかずに道を歩いてゆく。
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あとがき
ここまでお読み下さりありがとうございます。
読んでくれる方がいるってとても嬉しいことですね。
ハート、高評価などなど応援よろしくお願いします
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