一般高校生はVtuberの事務所に採用されました。

ココット

第1回目

1話

「よっしゃっっ」

 いつもの日常を送るはずの週末の正午、一軒家が立ち並ぶ住宅街に響く喜びの声。

「念願のっではないけど、あの事務所にっ!!」


「お兄ちゃんうるさいっ」

怒声を上げながらドアをあけ、部屋に入ってきた中学生程の少女がパソコンの前にいた高校生程の男に向かって言った。

「これを見てくれ一花!」

男はその様子に全く気にすることなく、興奮した様子で、少女にパソコンの画面を見せる。

 

 「なにこれ、なんかのメール?」

 「採用通知だよ!、カラットのっっ」

画面を見ても何か分からない様子の少女に、そのメールが何なのかを説明する男。

 「剣崎一郎様、Vtuberグループカラットへ採用が決まりましたって書いてあるだろっ」

 「えっカラットってVtuberで有名な?」

 「そうだよっ、そのカラットに受かったんだよっ」

 興奮した様子で受かったと話す男、一郎に、良くわからないまでも最近耳にすることの増えてきた会社に採用と聞き少し興奮する少女、一花。

 

 Vtuberとはバーチャルyoutuberの略であり、画面上に映したアバターを動かし、動画投稿や配信活動を行う配信者のことである。活動者がではじめた当初は、実写の活動が主流だったこともありあまり日の目をみているとは言えなかったが、ある時期から爆発的に人気が上昇し今では徐々に市民権を獲得していっているのである。


 兄である一郎は中学3年生の時にVtuberという存在を知ってからと言うもの、寝食を忘れるほどのめり込み、今ではそれ以外のものはほとんど見ない程である。


 「合格はすごいと思う。でもさ、お兄ちゃんが配信とか大丈夫なの?面白い話とかでき?の?」

 「ああ、それは俺も少し怖いんだよなぁ。でも、向こうも採用したんだから、何か光るものがあると思ったんじゃないか?」

 一花が自分の兄のこれからのことに不安を滲ませると、一郎は自分は光るものがあるのではと楽観的に答える。

 

 「なぁ、俺がもし配信者として成功したらどうするよ?」

 「それはないでしょ」

 「なんでだよっ」

 「だってお兄ちゃんだよ?歌も踊りもお話しもうまくできる?」

自分の活動者としての成功を夢見ながら軽口をたたく一郎に、即答で厳しく現実を突きつける一花。

 「うっ、それは確かにそうかもしれないけども」

 最近は3Dで全身を映し動かすVtuberも存在している関係で、やれることが増え色々と多様化しているために配信者としてのハードルが上がっていることに一郎は不安を覚えていた。気にしていたところを突かれた一郎は言葉を濁しながら一花から目をそらす。


 「とにかくっ、受かったんだからいいだろっ」

 「それは確かにそうだけどさ...」

 「正確な倍率はわかんないけど、噂だと何十、何百ってとんでもない倍率のところに採用されたんだから少しは喜んでくれてもいいだろっ」

 「そーだねーおめでとー」

 誤魔化すように話を変える一郎に一花はそれはそうかと思いなおす。一郎は倍率が何十、何百倍と、まさに高校受験とは桁が違う倍率を勝ち進み採用されたのだからその点は祝福してもいいと考えた。しかし、自分の兄が配信者として成功出来るとはとても思えない一花はやる気のない祝福を送った。


 「というか、ママとかパパにそういうことやるって話さなくていいの?部屋とかパソコンとか今のままじゃダメなんじゃないの?」

 「そうなんだよな、メールにも親に説明しますって書いてあるしさ。パソコンとかも向こうと相談しなきゃだよな」

 「夕飯の後に時間とってしっかり話しなよ?反対されたら合格も何もかもパーなんでしょ?」

 「まあ、父さんは大丈夫かもだけど、母さんがな...」

 一郎は高校2年生、まだ17の未成年なので会社としても保護者への説明は果たす必要があり、採用通知にも保護者への説明の場を設けると書かれてある。一郎の父はIT会社に勤めているため、Vtuberには多少の理解があることを願いつつ、母は専業主婦ということもあり全くの未知であろうVtuberという存在に拒否を示さないか心配であった。

 


 「母さん、夕飯の後に母さんと父さんに少し話あるんだ。」

 「何なの一郎。何かやったの?犯罪とか危ないことじゃないでしょうね?」

 「違うってっ。ただ、俺の将来のことと言うかさ」

 「ふーん...しっかりと話すんだよ?」

 「わかってるよ」

 夕飯を準備している母であるあかねは改まった態度で話す一郎に不安を覚えながらも、危ないことではないかと冗談混じりに言った。真面目な態度であるが、言葉を濁す一郎にきちんと話すように念を押すあかねに思わず苦笑いがでる一郎。


 


 「父さん、母さん時間取ってくれてありがとう。あのさ、俺カラットに受かったんだ」

 父である敏史が仕事から帰り夕飯を食べ終え、リビングのテーブルに剣崎家が勢揃いした所で一郎は話し始めた。

 「カラットってVtuberの会社か?」

 「うん、そうだよ。ていうかやっぱり知ってるんだね。そこのVtuberとして俺が採用されたんだ」

 「父さんの会社で案件とか関わったことあるからな。配信とか色々とやるんだろ?」

 「うん、配信したり、歌ったり踊ったりって感じかな」

 予想通りに敏史がVtuberのことを知っていることに安堵しつつ軽く活動について話す一郎。

 

 「一郎、正直俺は反対したい。厳しいかもしれないが、お前は未成年だ。そんなこと出来るのか?仕事として金銭が発生する以上甘えは一切許されないんだぞ?」

 「それは...」

 未成年ということを強調して、一郎に反対する敏史。

 自分は学生だという甘えが一切ないとは言えない一郎は言葉を詰まらせる。しかし、真面目な顔をして一郎は言い募る。

 

 「確かに、俺は未成年だし歌とか踊りは得意とは言えない。それに、学生っていう甘えがないとは言わないよ。でも、Vtuberが大好きなんだ。今までずっと視聴者として触れてきたけど、自分もこの世界で活動したいって思ったから」

 「一郎...お前...」

 一郎は今までの一視聴者としてではなく、自分も彼らの世界に入り活動していきたいと自分の思いを伝えていく。

 真剣な様子で胸の内を伝える、今まで見たことのない息子の姿に目を見開く敏史。


 「その会社はどうなの?安全な所?私はVtuberってものは知っているけど、あれって成人している人がやってる事じゃないの?一郎の歳でも、きちんとできるの?」

 「あのな、母さん。カラットというかVtuber、配信者ってのは、幅広い年齢の人が活動できるんだよ。そりゃ、年齢を重ねている方が話とか人生経験とかで話が面白かったりとかはあると思う。でも、未成年だからダメってのはないよ」

 「それなら平気かもしれないけど...でもこの年からやらなくても...」

 「不安なのは分かるよ。でも、この採用をされるのにいったい何人が涙を流したか少し考えてみて欲しいんだ」

 やはり未成年が働くという所に引っかかっているあかねに一郎は倍率の話と採用されたことの喜びを伝える。

 

 「父さん、母さん。色々と思うところはあるかもしれない。でもさ、俺真剣にやってみたいんだ」

 「一郎...本気なんだな?」

 「本当に本気でやるのね?辛いことがあっても投げ出したりしない?」

 「ああ、本気だよ。俺こんなに覚悟持ったのはじめてかもしれないんだ。今まで人生をかけたいって思うほど、何かに本気になるってすごい人とかフィクションの中だけの話だと思ってたけど本当にあるんだって思ってる」

 目を輝かせながら興奮気味にしゃべる一郎に思わず言葉に詰まらせる敏史とあかね。

 

 「...わかった。一郎がそこまで言うなら応援しようか」

 「もう、わかったわよ。ただし、勉強はきちんとやること。わかった?」

 「母さん...なんか心配しすぎじゃないの?父さんもありがとね」

 一郎の真剣な姿に反対の言葉を飲み込んで応援するという敏史に押されて、反対はしなくなったあかね。ただし、勉強だけはきちんとしなさいと言うお小言も忘れずに言われ苦笑いを浮かべる一郎。


 「賛成してくれたところ早速なんだけど、予定っていつか空いてる?会社の人が保護者の人に説明するって言ってるんだ」

 「これって2人揃ってた方がいいのか?」

 「いや、片方だけでもいいとは思うけど。どうする?」

 「俺はしばらく休み取れそうにないから母さんに任せてもいいかな?」

 「わかったわ。一郎、母さんは何時でも大丈夫だからね」

 「じゃあ、学校が休みの来週末ごろお願いできるか担当の人に聞いてみるね」

 保護者への説明を行うという会社に、あかねが単独で話を聞く流れになり、来週末が可能か担当の人に聞いてみるという一郎。



 

 

 「了解しました。では、来週末本社近くの喫茶店で保護者の方に詳しい説明を行います」っと

 パソコンでメールを打つ30代程の男性の姿が、ある会社の中にあった。

 「お?新人君の保護者説明の日時きまったかい?」

 「ええ、来週末に説明行ってきます」

 「楽しみだねぇ...親の反応は極端だからね。応援するか反対するか、はたまた放っておくか」

 「まだまだ世間への認知度が足りないってことですよ。我々も頑張らなければなりません」

メールを打っていた男に、中年くらいの男が話しかけてきた。来週末、剣崎一郎の保護者に説明をする旨を伝える男に親がどう反応するのかを面白がる男に対して、認知度が足りないと真面目に返す男。

 

「全くお前さんは真面目だねぇ。俺とは大違いだよ...矢島」

 からかい混じりにパソコンの前にいる男の名前を呼ぶ中年の男の言葉を流す矢島と呼ばれた男。

 「はいはい。全く、あなたが不真面目なだけでしょうに」

 「それはそうだなっ」

 「はぁ...なんであなたみたいな人が偉くなるんでしょうね」

不真面目と言われ笑い飛ばす男に、矢島はため息を吐きながら愚痴を零す。

 「そりゃあ、人生ってもんは理不尽に出来てるってもんだよ」

 矢島の愚痴に人生そんなもんだと笑いながら去っていく男。


 

 「はあ、偉くなりたいな...」



---

あとがき


最後までお読みくださりありがとうございます。

作者のココットと申します。

初めて創作活動をしたこともあり、何かと拙い表現があるかと思いますが、どうかお手柔らかにお願いします。

ちびちびと書き進めて行きますので、よろしくお願いします。


ハート、高評価などなど何卒応援よろしくお願いします


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