第57話 神殿
「これが私か」
詩織は詩音を見て呟く。
「名前は?」
「荒巻詩音です」
「私と一文字違いかあ」
そして、詩織は詩音の顔をぷにぷにする。
「この私もだいぶ苦労してそうだね……」
「まあ、私は振り回されてばかりでしたけど」
「それはごめんって……」
そして、リリシアと詩織は互いに情報交換をする。
詩織の方は、詩音のパラレル的存在で、異世界に転移したら毒の能力を得ていたらしい。だが、その際に毒で人を殺した際に、自身の体内の毒が強まり、強烈な苦しみを味わったらしい。
その後、自身の毒で苦しみ、五〇年の時を経て、毒の痛みに耐え、九予曲折ありながら人類を滅ぼしたらしい。だが、その後無限の苦しみに耐えかねて、神を倒すために、異世界転移したらしい。
それを聞いてリリシアはやはり魔王は魔王かと思った。
詩織の話ではさらっと流されていたが、人類を滅ぼしたらしいし。
「それで、村長さんの秘策というのは」
「そう言う事じゃ」
「私と村長さんの波長が合ったから成功したんだよね」
「ふむ」
なるほど村長さんが呼んだのか。
そして、詩織が再び動けるまで一週間、詩音が復活するまで一週間だ。
「その間私は強くなる方法はありますか?」
リリシアも秘術を取り込んだが、最近負けっぱなしだ。
ラモスにも負け、神にも瞬殺された。
明らかな力不足だ。
「なら、ラウル島に行け。そこの大神官には潜在能力を引き出す能力があるらしい」
「……神官の時点で信用はできないのですけどね」
「いや、信仰対象はおそらく先程の神とは別だ。奴らが侵攻しているのは叡智神だからな」
その言葉にリリシアはびっくりした。
その名前は聞いたことがある。国を治めてた時に宗教反乱がおきたときに反乱軍が叫んでいた言葉だ。
「分かりました。向かいます」
「頼んだよー。あ、そうだ私もつれて行ってよ」
「あなたは毒で動けないはずでは?」
「それが違うのよ。ほら、」
そう言って詩織は毒から自身の分身体を作り出した。
「ほら、これだったら行動できるでしょ」
「……魔王さん」
「私魔王って呼ばれたくない。名前で呼んで」
「詩織さん、暴れないでくださいね」
「君はこの世界の私を見てきたんだよね、ならわかるでしょ?」
連れて言ったらだめだと全細胞が叫んでいる。
だが、今この少女に逆らってはならない。
リリシアはおとなしく詩織を連れていくことを決めた。
そして、飛ぶこと三十分。魔物などはほとんどいない。
神が現れた影響なのだろうか。
「で、この世界の私は空を飛べないんだよね?」
「はい、そうです」
「そっか、それで飛びたいんだよね。私はあまりそんなこと考えたことないけど、私の痛みと同じことかな」
そうてへと笑う詩織。
魔王とは同じようで違うと、リリシアは感じた。
そして大陸に着いた後、リリシアと詩織は町を探索する。
「ここはまだ活発のようですね」
リリシアは町の景色を見やりながら言う。たくさんの人がいて、活気がある。
「いいね」
リリシアは隣で歩く詩織の零す声を聴き咄嗟に「殺さないでくださいね」という。
パラレルワールドでは人を滅ぼしたと言っていた。という事は、ここにいる人も詩織の抹殺対象かもしれない。
リリシアはもう魔王詩音の存在で分かっているのだ。
「そうだねー、流石にここで騒ぎは起こさないよ。それに人を殺すたびに痛みが増す呪いにかかってるから、あまり無差別に殺すわけには行かないんだよね。だって、今殺したら私の本体がさらに痛くなっちゃう。それに今だって痛いし」
そっか、なら安心かと判断するのは早い。でも、すぐに殺す気が無いのなら殺す気が出てくる前にさっさと神官に会わなければ。
さて、
「すみません。神官がどこにいるか知りませんか?」
リリシアは早速町民に訊く。
「神官様ならルクシアン神殿にいますよ」
「分かりました」
そしてリリシアは神殿に向かおうとする。
だが、その足を止めさせたのは詩織だ。
「待って、このソーセージ食べたい。買って!!!」
無邪気にねだる詩織。地面に転がっており、まるで赤ちゃんのようだ。
この人には羞恥心なんて言うものがないのだろうか。
本当はこんなところに長居したくはないのだが、癇癪を起されては困る。
詩織に仕方なくソーセージの他、数々の物を与える結果になった。
「ふう、お腹いっぱい。何しろ、向こうでは私人間滅ぼしちゃったから、こういう物を食べられなくなっちゃったんだよね」
「自業自得じゃないのですか?」
「わ、酷!! その調子だと詩音の扱いにも慣れてるね?」
「まあ、そりゃ。何しろ性格としては似たようなものだしね」
「そうねそうねえ」
リリシアは内心詩織のテンション高さにしんどくなった。
「まあ、さて行きましょう」
リリシアは足早にその場を去る。
「あ、待ってよ!!」
詩織がそれを追いかけて行った。
「さて、ここが」
神殿だ。結構大きな神殿であり、周りは白磐で作られている。
リリシアにはよくわからないが、神聖な場とされていることだけは分かる。
正直リリシアはこの神殿がインチキであると思っている。
今までに見たことのある神はあいつだけだ。その時点で神自体が神聖なものとは思えなくなってしまっているのだ。
「お邪魔します」
リリシアは軽く頭を下げて中に入る。
中には、それっぽい感じの男性が経っていた。
「神官様を出していただけませんか?」
「神官様なら今出かけておりますが、どういった御用ですか?」
「潜在能力を開放してほしいんです」
「潜在能力。それなら巫女様だ。さてこっちに」
ん? 神官様ではなく、巫女様?
分からないことだらけだ。だが、今はついていくほかないだろう。
「巫女様、連れてきました」
巫女様はかわいらしい見た目の女の子だった。
年齢は十歳くらいだろうか。
「あ、お客様? 今行くねー」
少女がこっちに向かってくる。
「んっと、隣のその子悪だね。でも、仕方がないから一緒に行動してるって感じ?」
巫女のその言葉に「はい」と、リリシアは答えた。
「やっぱりね。苦労してるでしょ? その子のも、別の子にも」
「お見通しという事ですね」
「まーね、これが私の特技だし」
そうふふんとなる巫女。リリシアはそれを見て、可愛いなと思った。
「さて、ここからが本題。潜在能力を開放したいんだよね? なら、着いてきて」
そう言って巫女は歩き出す。
その先にあったのは、神殿の裏口だ。
「もう少しかかるから頑張ってね」
「わ、分かりました」
分からないままついていく。
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