第56話 詩織

「魔王……?」


 リリシアは詩音を見て呟く。


「魔王? 心外だね。君も私のことをそう言うんだ。私のことは詩織って呼んでくれたらいいんだけどね」

「詩織……?」


 詩音じゃなくて、詩織。

 しかもよく見たら雰囲気が違う。魔王詩音よりもお気楽ではない。

 それに最たる証拠。彼女は飛んでいる。詩音には飛べないはずなのに。


「さて、あなたが私を地獄に落とした原因だね。俺つえええええできたのは良いけど、こんなに痛いとは思わなかったよ」

「痛い……?」

「そう、痛いのよ。この毒がねえ」


 リリシアには分からないことだが、今の詩織には毒のせいで動けるのが奇跡のようなレベルだ。詩織でなかったら動けはしないだろう。


「いやー、この時を待ったよ。最もあなたを倒せるであろうパラレルワールドへ行くのをね。元々、あの世界のあなたは決して姿を見せなかった。だからこそ今がチャンスなの。……どれどれーこの世界の私は名前が詩音なのか。そして、飛びたいと思っている。この世界の私も大変だねー。さて、この世界の私のためにも神を倒しましょっか」


 そして周りを毒のドームが覆い尽くす。そして、その内部に毒のゴーレムが複数人出てきた。


「私は強いよ」


 詩織は早速神に向かってゴーレムを潰していく。だが、決して単独にならないように、三位一体で。

 こうすることで、一体が攻撃されたら他二人で攻撃の隙をつき、攻撃をする。


 だが、神も実力者、一体一体を瞬間に沈め、攻撃の隙を最小限にする。


「やっぱり、低耐久だとそうなるか」


 そう言って笑った詩織はもう三体毒のゴ-レムを作り出す。


「今度はさっきまで通りには行かないよー」


 早速ゴーレムは動き出す。瞬間に神との距離を縮める。


「さらに私もいるからね。長い戦闘は不向きだからさっさと倒すね」


 詩織は毒の槍を数十個作り、そのまま神に向けて放つ。そしてその間にゴーレムが神に襲い掛かる。

 神は毒槍をすべて破壊して、襲い掛かるゴーレムを破壊する。


 だが、その隙に詩織の他の毒ゴーレムが神をつかんだ。


「あなたはスピードは恐ろしい。でも、パワーはそこまでない。ここまでだよ」


 詩織が新たに作り出した槍が神に降り注ぐ。その攻撃で神はその場に倒れた。


「や、やったの?」

「ちょっ、それ禁句」

「え?」


 神がむくっと立ち上がった。


「スピードだけだと思われているなんてがっかりだ」


 すぐさまゴーレムを倒し、そのまま詩織の方に向かって行く。


「パワーなど手数でごまかせる。それに私は神だ、格が違うのだ」


 詩織は神に頭をつかまれ、粉砕された。詩織がやられた。


「え? うそでしょ……?」


 リリシアはそれを見て震える。詩織がやられたら次は自分だ。


「おびえているところ悪いが、死んでもらおう」


 リリシアは一気に近づいてくる神によって死――


「隙あり」


 急に現れた詩織が神に攻撃を加える。


「まさかあれが本体だと思ってた? 頭弱いね、ざぁこざぁこ」


 詩織は神を煽る。


「それでね、貴方に注入した毒はね、死に向かわせる毒なんだよ。だからね、あなたは終わり!」

「神にそんなものが効くと思っているのか」

「いや、今しんどそうな顔してない?」

「うるさい」

「ま、それ私だったらそんなもの全然苦しくないんだけどねー」


 そして詩織は距離を詰め、


「死んでよ」


 毒をまとった拳で殴る殴る。だが、神は苦しみながら、急いで距離を取る。だが、毒のせいでスピードが出ないのか、あまり距離をとれていない。


「あなたなら死ぬこともないだろうけど、でも私には勝てない」


 圧倒的だと、リリシアは思った。神を、あんなに強かった神を赤子の手をひねる用に追い詰めていく。。これはもしかしたら魔王詩音よりも強いのではないかと思った。


「がは、だが……」


 神は勢いよく炎をため込み、


「これはどうか」


 あたり一面を炎で焼野原にした。

 範囲は直径十キロ四方と言ったところだ。


 その範囲にあったものは全て焼け萌えている。


 バリアでかろうじて致命傷を避けたリリシアは詩織の方を見る。すると、ダメージを喰らっているが、体が回復して行っている。

 彼女も不死身なようだった。


「あの人は?」


 魔王詩音はどうなったのか、下を見るとまだぐっすりと、寝ている。

 ダメージもゼロだし、外目では何も変わっていない。


「神、ただでさえいたいのに、さらに痛いことをしないでよ。もう怒ったかんなー!!!!」


 詩織は毒霧を出し、神の方に流す。


「それでは私は倒せないぞ」

「大事なのはここからだから」


 詩織は周り一体の景色を変える。


「私もう、全力出すから」


 そこでは、毒が充満している。

 神はそれを見てせき込む。


「これが、私の本気。別の空間に転移して、空間を毒で覆いつくす。さあ、神よ。これはどう乗り越えるの? 私に教えてくれないかなあ」

「っふざけるな」

「さあ、終わりだよ。消えてえええええ」


 その瞬間、空間が割れる。


「望み通り見せてやろう」


 その空間の日々から神が飛び出す。


「その神の力を」


 そこから先は一方的だった。圧倒的な火力の魔法を連発する神に詩織はぼこぼこにされた。

 リリシアと戦って時とは比べ物にならないレベルで強い。


「さあ、まとめて殺すか」


 その場にいた詩織、リリシア、村長、ディオスの四人に話しかける。

 そのまま地上に向かおうとした際に、


「ぐふ」


 神がそのまま地に付す。その口から血が流れだす。


「時間切れか……メリダ、撤退するぞ」


 その言葉にメリダが頷き、神たちは返っていった。


「っ~~~いたーい」


 詩織は地に降り、そう言って泣き出す。


「だってさあ、ずっと痛かったんだもん」

「それは……よしよし」


 リリシアは詩織の頭を軽くなでる。


「はあ疲れたよ。こりゃ、一週間まともに動けないわー」


 そう言って詩織はリリシアに手で合図を出す。


「私を運んで」


 そう言う詩織をリリシアはため息をつきながらお姫様抱っこをした。

 相手は厳密には違うが、あの日のお姫様抱っこの仕返しが出来たと思い、リリシアは少し上機嫌になったのであった。

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