第53話 新たな四天王

「今帰ってきました」


 そう言ったリリシアが戻ってきたのは実に二時間後のことだった。

 隣に一人の翼の生えた男がいる。もしかして彼が解呪の人?


「あれ、魔王大きくなったんですか?」

「うん。四天王の二人目が倒れたおかげでね」

「私がいない間に四天王を倒してたんですか……」


 少しだけリリシアは悲しそうな顔をする。

 ふふん、自分がいない間に四天王を倒されたことがそんなに悔しかったか。


「まあでもこれであと二人ですよね」

「そうだね。四天王というのも案外大したことがないじゃない」

「油断しないでくださいよ」


「それに、我の力もあったんだぞ」


 そう、闇の王が突っ込んでくる。


「でも、決定打は私のおかげじゃん。それに、バルの時はあまり戦力にならなかったし」

「うるさい。あれは闇の弾丸を飛ばしたらよかっただけだ」

「それにそもそも私の時みたいに感覚遮断の攻撃を放てばいいじゃん」

「あれは、今はできないのだ。何しろ、お前の魔力を全部喰らっているわけでは無いからな。あの時はラストの魔力を全部食ったからできただけだ」

「なんだ、大したことないんだね」

「うるさい。貴様は元に戻る方法を探せ」

「はーい」


 とはいえ、あのくそ四天王を倒すことであるという事ははっきりしてはいるけど。


 あーもうだるいなあ。


「早く次の四天王来ないかな?」

「貴様が成長しないことには無理だろう」

「だから、今のパターンだと、四天王倒したら成長するんだよ。まるで漫画みたいだね。だからさあ、四天王全員倒したら私が超復活して、体良くていよく神に挑めるわけ。ゲームみたいじゃん」


 リリシアがため息をつく。


「さっきと言ってること違うじゃないですか。まあ、とにかく魔王は戦えるようにはなったんですよね?」

「もちのろんだよ。まあ、本気の三割四割程度がやっとではあるけど」

「だめじゃないか」

「全力出せない闇の王はだまってて」



 ともかく、四天王津語がくるまで元に戻る方法を探すという事で、リリシアが連れてきた男に見てもらうことになった。


「これは……やはりだめだな。俺では解呪できん」


 やっぱりだめかあ。


「だが、一つ分かることがある。四天王と呼ばれる者たちを全員倒した場合」


 うんうん。解除されるんだよね。


「術をかけられたものは死ぬと言われている」


 死ぬ。いいじゃん。



「じゃあ、早速四天王全員倒そうよ!!!」


 私は元気よく言う。


「まさか、決戦の時にいないつもりですか?」

「それは約束が違うだろう、詩音よ」


 闇の王とリリシアの両名からツッコミを受けた。


 私の元々の目標は、飛ぶこと、それがかなわないのだったら、死んで鳥に生まれ変わることなのに。


「それに、神を倒したら鳥になる権利を得られるんじゃないでしょうか」

「……え?」

「魔王ならお手の物でしょ、神を脅して、鳥に転生させろって言うくらい」

「よゆーだよ、そんなん。そっか、じゃあ死ねないね」


 てかさ、


「思ったんだけどさ、四天王倒す必要ある? 神をぶっ倒したらよくない?」

「それは無理だ」闇の王が腕を組みながら言う。「天界への行き方は我にもわからん」

「えー、仕えなさすぎでしょ。闇の王さん♪」

「煽るな。そろそろお前を殺してもいいか?」

「だめー!」


 そう舌を出す。


「結局のところ四天王を倒したら神が侵攻を諦めるだけかもしれんな」

「それはだめ。私は神を倒さなきゃならないんだから」

「それは分かっておる。ただ、神は臆病だ。あやつは腰抜けなのだ。やつはよほどのことがあるまでこちらには来ない」

「分かった。いい方法があるよ!!!」


 その方法、四天王の他の二人を人質、神質にして、神を呼び寄せて、その瞬間に殺すという事だ。


「それが一番だな」


 そう闇の王が言ったので、今後はそういう流れになった。


 そんなときだった。


「魔王様! 四天王が大陸に現れたとの報告が入りました」


 大陸に現れた。つまり、


「国が危ない!」


 リリシアはそう叫んだ。そして、詩音の手を掴みそのまま飛ぼうとする。


「待て、貴様らそのまま向かうつもりか」

「闇の王、どうしたの?」

「リリシア、貴様と我二人だけでは勝てないだろう。そこでだ、リリシア貴様には闇の力が残っているだろう。我がその力を底上げしてやろう」

「ちょっと待って? その力って前もって上げることはできなかったの?」

「いや、上げるのに一時間かかるのだ。だから何も言ってなかったのだ」

「なるほど。でもそれじゃ無理じゃない? 時間かかるんなら」

「だが、次の相手はそうも簡単にはいかん。次の四天王はおそらく氷将ラモス。彼の魔法は全てを凍らす。我も奴と戦った時には苦戦した。悪いが、今の貴様は奴には勝てん」

「でも、行かなければいけないでしょ。民を守らなければ」

「いや、リリシア。ここで闇の王の忠言に従おうよ。だって、所詮はただの民。どうでもいいじゃん」

「誰のために国を維持してきたと思ってるのですか? 私は行きます!!」


 そして飛んでいくリリシアの背中に間一髪で乗り込み、向かう。


「後悔するなよ」


 そう言う闇の王に対して、「分かっています」そう、リリシアは告げた。


 心配だなあ。別にあんな奴ら放っておいて、自分を強化してから行けばいいのに。

 あの国はお遊びで作ったんだし。



 そして、国につくと、早速国は全面氷の世界におおわれていた。

 見ただけで分かる。

 この中では誰も生き残ってなどいないという事が。


「どう考えても闇の王の強化魔法を受けた方がいいと思うんだけど」

「いえ、まだ生き残りがいるかもしれません」


 そう言って走っていった。

 もう、我儘ね。



 勝利には多くの犠牲が付き物なのに……


 さて、私は私で動かなければ。


「ねえ、闇の王。私も強化はできるの?」

「すでに強化はしてある。つまり無理だ。それに詩音貴様はそれよりも復活の王が大事だろ」

「そうね。今のままではリリシアよりも弱いのだから」


 一撃だけなら強い攻撃を加えられるが、それだけだ。

 リリシアの能力には到底かなわない。


「さて、あの子死なないと良いけど」

「おそらく死ぬな。奴は妖精の力を手に入れているが……奴に勝てるほどではない。何しろ奴は四天王最強なのだからな」


 そっか。じゃあ、


「勝てないね」

「ああ」


 てか、なんで最強が最後じゃないんだろう。それ、物語的に駄作じゃない? まあいいけど。



「とりあえず、ばれないように近づいてみる?」

「そうだな。だが、加勢には入るなよ。助けるだけだ」

「オッケー!!」


 そして、私は近くに来た。そこではすでに戦いは白熱していた。

 だが、ラモスの氷の槍をリリシアが何とか攻撃で防いでいく。だが、その攻撃を完全には防げて廃内容で、所々血が出ている。


「あーあ、やっぱり負けそうだよ。私が手伝えない状況なのに何をやってんだが」


 とりあえず逃がすしかない。

 どうやって?

 こうやって。


 私は闇のエネルギーを全力で込める。これで隙を作ろう。


 ただ、それはリリシアにもわかっていなきゃならない訳で……


(リリシア、少しいい?)


 念波をリリシアに飛ばす。


(私が闇のエネルギーを思い切り飛ばすからその隙に逃げて)

(なんでそんなことを。私が今倒します)

(状況考えて。あなたは今劣勢。民を守ろうにもその守るべき民はほとんどが死んでる。なら戦略的撤退しかないでしょ。もしかしてリリシアって馬鹿?)

(馬鹿じゃありません。私は今私がやるべきことをしてるだけです。その際に死んでもかまわない)

(本当に馬鹿じゃん。勇気と馬鹿さを間違えてるよ。私に説教されたいの?)

(っ分かりました)


 よし、分かったならいい。よーし。


「ダークバレット!!!」


 闇のすさまじい速さの弾丸を飛ばす。

 その弾は不意にラモスに当たる。そしてラモスは怯む。その隙にリリシアは逃げ……


「は?」


 リリシアは一撃加えようとラモスの方に駆け寄っている。


「あの馬鹿何やってんの!?」


 せっかくの好機を無駄にする気なの?


「ん?」


 リリシアの全力の拳により、ラモスは地面に叩き潰される。が、すぐに立ち上がり、


「許さんぞ。人間!!」


 そう叫んだラモスのてによって地面から氷がどんどん鋭い形で突き上げていく。

 私はリリシアに乗り、そのまま飛んでいく


 ラモスは必至で追ってくる。


「これさあ、どっかの誰かさんがやらかさなかったらもっと楽に逃げれたんじゃないの?」

「っうるさい。地面に落としましょうか?」

「きゃあ、怖い。子供相手になんてことをするの?」

「あなたは心は大人でしょ」

「えへへ、分かった?」


 リリシアはやれやれとでも言いたそうな顔をしている。

 たが、今目下の問題は追いかけてくるラモスだ。

 このままでは逃げ切れないであろう事は自明の事であった。

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