第43話 道場破り

「は?」


 目が覚めた。私はあれから意識を上げてこないという方法をとっていたのだが。


「ようやく目が覚めたー!」


 目の前に子どもがいる。私の目の前には暗闇しかなかったはずなのに。


「目が覚めましたか」

「あなたは誰?」

「私はですよ」

「えー嘘じゃないの?」

「嘘じゃないですよ。確かに多少雰囲気は変わりましたけれど」


 多少どころではない。大人びていすぎている。前はもっと幼げな童顔だったのに。


「私はもう二十六なんですよ」


 何という事だ。十二年たっていたようだ。この間の私の寿命ってどうなるのかな?


「ところでだけど、私を起こした理由とかってある?」

「さすが、分かっていますね。闇の王がふと口にした神と言うワード。その神と言う存在がここに向かっています。神は強いです。おそらくは闇の王よりも。だからこそあなたの力が借りたいわけなのです。魔王」

「ふーん」


 神ねえ、そういえばそんなこと言ってたっけ。


「ふーんってなんですか?」

「いや、だってさあ、神って私を異世界に追いやった張本人だよ。そんなやつがこの世界の危機になるの? まあ私自身としては多少むかつくけどさあ」

「この世界の危機となる理由としては……魔王あなたです。あなたがあまりにも世界に仇をなし過ぎた。それが神の逆鱗を招いたのです」


 それは不死身にした神が悪いでしょ。それと、人選も。


「そして、神の目的は別にもあります。あなたを滅ぼすついでに世界をも滅ぼそうとしているのです」

「どうして?」

「魔大陸。例の魔族たちが住む本当の大陸。そこの王ラディスから聞いたのです。神があなたの命を狙ってというのと、地上に残ったわずかな命。それを滅ぼし、人間を絶滅させるためと言う事です」

「何のために?」

「あなたと同じ種族だから……だそうです」

「なによそれ、ひどいじゃん」


 何より私のせいになるし。


「あなたも大概同じような気がしますが」

「まあそうね。でも私は私が楽しめたらいいだけだから。別の人が滅ぼすというのはねえ」

「意味が分かりませんけど、まああなたが言ってるのなら意味は分かります」

「ちょっとーそれどういう事よ」

「まずは神が現れる前に作戦を整えていく必要があります」


 あ、こいつ聞いてないわ。


「そうねえ、いい方法ない?」

「あるならもうすでに伝えてますよ」

「あなたのほうが絶対賢いのにー」

「自分で考えてください」

「ところでさあ、いつ神は来るの?」

「三日後です」

「そっかー。時間ないのか」


 三日じゃあ、何かできるとも思えないのだし。


「そうです」

「まあ私もできる限りやってみるか」

「あ、言い忘れてましたが、結構強くなってるみたいですよ。封印されたことで、力のストッパーが外れたみたいです」

「それ……どういう原理? まあいいわ。ならその力試してくる」


 今度こそ飛べるよね。頼むよ神様。あ、今回の場合神様は敵か。


「ふん!」


 飛べる気配がない。


「やっぱり敵だー神様!」

「何を騒いでいるんですか?」

「飛べないのよ。やっぱり」

「え?」


 と言って彼女は軽々と空を飛ぶ。


「それ、私を煽ってるの?」

「煽ってませんよ。ただ、私は簡単に飛べるのにと言うことだけです」

「それが煽ってるって言うのよ!」


 むかつくむかつく!!


「まあ良いわ、別の魔法を試してくるから。それに神様を殺したら何か変わるかもしれないし」


 そう、神様、神が私を呼んだんなら、そいつをなんとかしたら良いわけだ。最悪そいつに鳥に転生させろ、さもなくばお前を殺すって言ったら良いだけだし。

 これぞ、脅迫という手法だ。


「さてと!」


 炎を放つ。分からないけどなんか威力が上がってる感じがする。というのもだ、範囲が広く、炎の色もより鮮明に、さらには体感温度も上がってる気がする。練習でこうだったら実際に威力が上がる感もある。


「さて……突撃してくるか」




「たのもー!」

「た、たのもー?」

「勝負してよ。私と!」

「いや、でも私には私のする事があるから無理です」

「良いから!」


 と、私は炎の球を空中で作る。道場やぶりだ。リリシアよりも上だと証明してやる!!


「はあ!」


 そして、それを放つ。


「ふざけないでください!」


 と、あっさり球を潰される。


「あはは、良いねえ!」


 空中にさらに二十個もの球を掲げながら笑う。


「なんの真似ですか?」

「言ってんじゃん。戦いたいんだよ!」

「今は対策を考えるのが最初でしょ」

「私にはそんなのよりも早く実践したいの!」

「はあそう言えばそうでしたよね。あなたは」


 と、彼女は闇のエネルギーを私に放ってきた。

 ようやく、その気になったね!!

 でも、


「そういう事か」


 あの闇の弾、前とは違う。闇の王の力を感じる。


「もしかしてあなたやっぱり、闇の王の力を取り入れた?」

「ええ、神に対抗するためにね」

「もしかして制約とかある?」

「そこらへんは大丈夫です。ただ死体を取り込んだだけなので」

「それはよかった。闇の王に取り込まれることがなさそうで」


 漫画とかならそういうのあるし。

 まあ、大概仲良くなるんだけどね。


「そうですね」

「さてと!」


 空中の炎の球を一気に地面に降り注がせると同時に、

 炎を思い切り放つ。拡散型だ。威力は中心に集約させずに、広い範囲で攻撃する。彼女の周囲半径一メートルを炎が襲う。


「効きません」


 と、周囲を闇のオーラで覆う。それにより炎ははじかれる。

 さすがにそう簡単にはいかないのかあ。でも、


「まだまだよ!」


 雷を上から落とし、闇の層を破壊する。雷は最強!!


 そして間髪入れずに、水を大量発射する。水も集まれば刃となる。しかもただの水じゃない。中に、鋭利な刃も加わっている。

 これで肌が切り裂かれるはずだ。


「くう」


 リリシアは苦痛そうな顔をする。

 だけど、これで終わりではない。

 そして水を凍らせる。


「効きません!」


 氷中から闇があふれ、氷がひび割れていき、ついに氷が割れた。おお、漫画みたいな感じじゃん。

 でも、黙って氷解を見ている私ではない。


「終わらないよ!」


 風を放ち、それをリリシアに当たる直前で凍らし、氷の刃として放つ。風の速さと、氷の硬さ、鋭利さが合わさった攻撃だ。



 だが、闇の弾が氷に当たり、相殺され……私に向けて闇の波動が放たれる。

 それを竜の力を借り、その身に宿した私が殴り。その衝撃波で、闇の波動が消える。


「竜の力、前よりもパワーアップしてるわね!」


 そう、前よりもしっかりとパワーアップがなされている。力がみなぎる!


「いくよー!」


 と、自らジャンプして、腕を合わせてリリシアの上から振り落とす!


「効きませんよ」


 と、再び闇のバリアを作るが……よんでいる!


「これならどう?」


 リリシアの闇のバリアの中に前もって入れておいた風を爆発させ、内側から破る。こういうバリアは本来内側からの攻撃に弱いのだ。


「いけー!」


 リリシアが怯んでいるその隙に頭を全力で叩く。


「痛いですね! 本気出しましょうか!?」


 と、闇のオーラが彼女を覆いだす。


「いいねえ!」


 私も竜を身にまとう。竜形態ドラゴニックオーラ詩音! ムカつくことに飛べないけどね!


「ドラゴニックファイヤー!」

「ヘルファイヤー!」


 二つの炎がぶつかり相殺される。


「まだまだ!」


 彼女に向けて雷の矢を発射する。



「ダークサンダー!」


 だが、リリシアの闇の吐息ブレスで相殺される。


 と、すぐに私は地を蹴って、拳で殴りに行く。彼女はそれに対抗して私の方に向かって闇のエネルギーを集約させ、一直線に放つ。

 だけど、それは、


「幻影だよ」


 私が作り出した偽物だ。

 煙を放ち、視界を悪くする。

 そして、お腹を思い切り殴る。


「なるほど、そう来ますか。でも、威力は低いようですね!」

「狙いは違うけどね」

「はあ?」

「まあ、すぐにね」


 と、私はドラゴンの力をもう一段階上げる。


竜王女ドラゴニッククイーン詩音!」

「自分で言うとダサいですよ」

「うるさいなあ!」


 一直線に走り出し、彼女を殴りにかかる。


「同じ方法ばっかりではいつまで経ってもやられませんよ! ヘルファイヤー」


 リリシアも黒色の炎を放つ。


「ああおおおお!」


 私はその攻撃を甘んじて受け入れ、そのまま突撃する。


「甘いです!」


 炎の火力が上がる。やばいね、これは受けきれ……


「……ないかも!」


 と、目の前にドラゴンの盾を展開する。元来ドラゴンとは炎に強い性質を持つ。実際炎に強かったし。


「くらえええええええ!」


 と、パンチを入れる。だが、これだけではない。私がさっき放ったパンチ、その火力も十分に詰まっている。


「っく、まいりました」

「やったー!」

「まあ私は奇襲を仕掛けられただけなので」

「言い訳しないでよ!」


 まあでも勝ったのは事実だ。喜んでおく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る