第36話 再戦
「ここは?」
周りを見渡す。私の腕は拘束具によって上に挙げられている。どうやら私は囚われたみたいだ。
「気分はどうだ? 囚われる気分は」
気分なんて最悪だ。私の辞書には不自由と言う文字があっていいわけがないんだ。
「私を殺せなかったからここに監禁してるみたいね」
あくまでも強い態度をとる。こうすることで私に秘策があると思わせることができるだろう。
「そうだが、今のお前は何もできないだろう。俺の立場のほうが上なのだ。強い態度を取るなよ」
「へーあくまでも上から目線なんだ。私を道具を使わなかったら行動不能にできないくせに」
実際この鎖は魔法の使用を封じる効果があるみたいだ。
「自分よりも弱い人の言葉は聞かん」
「私は油断しただけだから」
「ふん、どうたか」
そしてラストはその場から去って行った。
はあ、しんどい。拘束を解いてほしい。なんだか、ご褒美もないのに牢にとらわれるだけなんて地獄過ぎる。
しかし、こうなったら気になるのは彼女よね。もうすでに五日間拘束されてる上に、私よりもはるかに厳重な拘束。もし覚醒しなかった場合、彼女はただ苦しみを味わうだけになるか。まあいっか。しょせん私じゃないし。てか、私個人の心配をしなきゃならないんだけどね。
そしておよそ一日が立った。もう精神きつい。死にそう。助けて、助けて。
ああ、もう
手をがガチャガチャとさせるが、やはり私の手は牢の鎖からは外れない。
そんな行為をあざ笑うように、ラストがやってきた。
「気分はどうだ?」
「いい気分だわ。私の気分は拘束程度で汚されません」
と、嘘をつく。
今しんどい思いをしていると思われるのが嫌だ。プライドまでは捨てていない。
「まあその気概がいつまで持つかだがな」
ラストは再び去っていった。
「はあ」
もう辛い。ここから出たい。
どおん!
音が鳴った。
「え? なに? なに?」
何が起こったの?
「うわあああ」
「ひいいい」
「逃げろ!」
「敵わねえ」
あちこちから音がする。それだけ激しい戦いなのだろう。だが、これがいかなる人物なのかが問題だ。私にとっても敵なのか、それとも味方なのか。
「見つけた!」
「あなたは……」
リリシアだ。リリシアがやってきた。
「どうやってここに?」
「なんか力が覚醒したみたいで、そのまま拘束具をぶち壊してきました」
「なるほど」
「それで話があります」
「何?」
彼女の指から魔法が放たれる。
「ぐう……何を!?」
「私はあなたに恨みがあります」
それは知っている。だからこそ生かしたのだ。
「だから少しだけストレス発散です」
と、もう一発貫かれる。
「あなたはそんな人じゃ無いと思ったんだけどなあ」
復習復讐とは言っても、動けない相手をいたぶるような人間じゃあ。
「まあそうですね。あなたが死なないからこそです。それに私もあなたをこのまま飼い殺すつもりもありません。騒ぎすぎるとラストが来ますしね」
「私は……どうしたら良いの?」
悪意は見えないから、このまま放っておくことはしないと思うけど、なんか悔しい。
「私と一緒にラストを倒してもらいます。私も五日間の地獄の日々を味わったわけなのであなたにも味あわせたいんですが」
「それは言えてる。ごめんね」
「なんで謝るんですか?」
「まあ私もこの日々地獄だったからね。まあ私としてはね、間違いとは思わないけどごめんとは思ってるわけ」
「もう一回殺しますよ」
「殺してくれても構わないよ。その後ろの敵を見逃せるのならね」
そして彼女は後ろを向く。後ろにいるのはラストだ。
「あーもう!」
と、魔法で私の拘束具を破壊した。
「共闘だね!」
「まあ、そうですね」
「テンション上げてこうよ!」
せっかくの共闘だし!!
「私はもうあなたに逆らえるんですよ。殺すことだって」
「本当に出来るのかな?」
「まあ私はあなたを攻撃できませんよ。仲間割れをするのは正しい選択じゃないから」
「そうね。まあ私もさっきは油断しただけだし、本気でやればこんな奴瞬殺だし」
「お前たちはよく喋るな」
「悪い? 悪いのなら謝るよ。ごめーん」
あえておちょくった感じの言い方で煽る。
「まあ良い、すぐに再び牢獄に送ってやる」
「それが出来るんだったらね!」
と、私は腕から炎の球を持ちながら走り回る。
「撹乱か、無駄なことを!」
魔王は闇のオーラを地面から放出する。その勢いで建物が黒く染まっていく。おそらく数秒後には爆発するだろう。
「わっと、この施設破壊する気?」
「そうだ」
なるほどねえ。つまりやつにとって私とリリシアの排除があくまでもの目的と言うわけか。
そのためならこの建物もいらないってことね。
「私もいるんですよ」
と、後ろから彼女が魔法を放ち、それが闇のオーラの放出前に破裂し、建物が大爆発を起こす。結局リリシアには当たらなかったが、私は爆発に巻き込まれた。
「私もいるの忘れてない?」
死ぬとこだったぜ。
「あなたは死なないでしょ」
「そうだけどさあ」
酷いと思うよ。もしかして、復習の意味もあるのか?
「まあでも今倒さなきゃダメなのは」
じろりとラストを見る。
「あいつだよね」
「ええ」
そして二人でラストを挟み。
「行くよ!」
私はラストに対して突撃した。作戦なんてない。ただ二人で挟み撃ちしてラストに相対するだけだ。
「ふん!」
ラストは地を蹴り、上へ飛んだ。
「逃がしません!」
リリシアも地を蹴って飛び上がり、手に魔力を込めた打撃でラストを地に落とす。その後、リリシアはそれを追う形で地面に突撃して、こぶしで殴るが、ラストはそれを察知していたらしく、攻撃を見事に防ぐ。
「私もいるからねー」
と、風の刃を複数個ぶつける。
「ふん」
だが、見事にその攻撃は防がれた。
「貴様らやるな。単体では弱くても二人ならというわけか」
「私をこの人と一緒にしないでください!」
と、彼女は空に舞い上がり、闇のエネルギーを放出し、ラストにぶつける。
「そんなことを言うな小娘よ。私にとっては誰も同じだ」
と、ラストは再びエネルギーを放ち、リリシアにぶつけようとするが、彼女は空中でふいっと避けた。
「は?」
明らかにおかしい。あの動きは明らかに飛べるものの動き。そう、私より先に彼女は飛んだのだ。
「なんで、なんであなたが飛べるの?」
たしかに覚醒の儀式を勧めたのは私だ。だが、まさかこれで飛べるとは思っていなかった。
「え?」
リリシアは不思議そうな顔をする。
「私はさあ、何をしても飛べなかった。なのになんであなたが飛べるの?」
もうラストなどこの際どうでもいい。今の問題はなぜ、私じゃなく彼女がその力を……それもたかが五日で手に入れられたのかだ。
「許さない。なんで私は飛べないのになんでお前は飛べるんだ」
彼女を恨むのは毛頭おかしいかもしれない。ただ、そうじゃなければこの怒りをどこにぶつけたらいいのかわからない。少なくとも今の私には。
「飛ぶ方法を教えて!」
「わ、私にもわかりませんよ。なんか勝手にできただけですから」
「感覚派だっていうの?」
「くぅ」
後ろから闇で製造させられた槍が飛んできた。
「私を忘れてはないかい?」
「忘れてませんよ。少なくとも私はね」
「それは、私をおちょくった発言なのかしら」
「違いますよ」
「だから私の存在を無視するなあああああああ!」
「無視してませんよ」
リリシアはすぐさまラストにむかって炎を打ち出す。
「ふん! この程度の攻撃で無視してないと言えるのかな」
「言えるね」
と、私は槍を抜き、空に浮かばせていた炎の球を一斉にくらわす。
「なるほどさっきの小娘よりは威力がある。だが、その程度で私をやれるか!」
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