第34話 魔王の実験

 そして着いた先は……


「ここよ!」

「ここは?」


 そこには多くの拘束具があったと同時に己の運命を悟った。私はここで拷問されるのだ。魔王の手によって。身代わりになった時から、いやその前に魔王のおもちゃになった時にこうなることは予想していた。だが、いざ目の前にしておくと怖い。


「これからどうなるかわかる?」

「拘束されて、拷問されるんですよね」


 この部屋のありさまを見たらわかる。さっきの……エレンと言ったか、彼女みたいな感じになるのだろう。


「そう! 拷問はしないけど?」

「なんで疑問系なんですか……てか、酷いことはしないんじゃなかったんですか?」

「気が変わったの。今日は私の持論を証明したくてね」

「持論ですか?」

「そう。覚醒って知ってる?」

「覚醒ですか?」

「そう。その覚醒はピンチの時に起こるのが常なの。だから、絶望に追い込めば覚醒するかなって」

「え?」


 理論が分からない。


「私最初は別の奴で実験しようかなって思ってたんだけど……あなたがいいなって」

「なぜ私なんですか!?」

「友達だから」

「相変わらず変な理論ですね。その友達を絶望の縁に追い込もうってことですか?」

「そうね。私はね最強なの。誰も私には敵わない。一人ぐらいは私に敵う相手がいても良くない?」

「それが私だと」

「そう! あなたがこれで敵になってもいいわ。鳥になれない世界にも楽しみがないとね」


 そう興奮しながら言う魔王。どきどきとわくわくが抑えられないのかな? と思った。

 今から魔王のくだらない実験に付き合わないといけないのか。そう思うだけで、少し嫌になる。どうせ、そんなことあるわけがないのに。


「私はそんな魔法が開花して欲しいとは思ってないんですけど」

「魔法が開花しなくてもいい。でも私は開花して欲しいの。お願い!」

「それで私が受けるとでも?」

「お願いします! リリシア様」


 魔王は土下座して来た。上の存在なのに。


「嫌です」

「この通りです!!!」


 さらに頭を下げた。もうわけがわかんない。


「というか、貴方は私を自由にできるんですから、勝手にしたらどうですか?」

「それは肯定と取っていい?」

「好きに取ってください」


 嫌だけど仕方がない。この問答自体意味がない。どうせ、地獄に向かわなければならないのなら、早く地獄への階段を上りたい。


「じゃあ、やるね!」


 そう無邪気に言う魔王。思わずため息が出てしまう。





 私の手枷は一旦解放される。別の拘束具につなぐためだろう。


「手が動く」

「当たり前のことじゃん。でもすぐにここに入ってもらうわ」


 そこをふと見ると、厳重な拘束具が多数あった。手を後ろで固定する拘束具、足を固定するための拘束具、口を拘束するための猿轡、目を拘束する目隠し器具、身体を固定する拘束具、首を拘束する拘束具、足首を拘束する拘束具、腕の根本を拘束する拘束具。多種多様な拘束具が。


「どう? 怖気ついた?」

「ええ」

「でもあなたは拘束具を脱がしてもらった以上拒否権はないわね。拘束具からの解放と引き換えにこの覚醒への挑戦を選んだんだから」

「ええ。分かってます」


 そして私は自分の足でツカツカと拘束ロッカーに行く。ここにはいったらしばらくは出れないだろう。でも、もし魔王の理論が万が一正しいという事があったら、私は魔王に対抗する力が手に入る。

 嫌だけど、やるしかないのだ。


「準備は良い?」

「はい」


 そしてまず足首に枷がはめられてゆく。今回の拘束具は冷たい。冷えてるようだった。


 そして今度はその上の部分にも拘束具がはめられる。さらにその上にも、その上にも。流石にこんなに厳重にしなくても良いんじゃないかと思うけど、こうしないと彼女の気が済まないのだろう。


「次は腰にベルト巻くわね」


 と、腰にベルトを巻かれ、足も再び鎖でガチガチに縛られる。


 そして次は手を拘束され、体も鎖で巻かれ、肩の下も枷で縛られ、首輪をかけられた。


「もうこれで動けないわね」

「そうね」


 試しに身体をあらゆる方法で動かそうとするも、動いて左右に1ミリ程度だ。


「次は目と口を塞ぐわね」


 と、猿轡をされ、さらに目隠しをされた。


「じゃあまた後で」

「んって」


 待ってと言いたいのに、言えない。ガチャンという音がした。おそらく閉められたのだろう。食事とかは魔法で大丈夫らしいけど、やはり不安だ。暫く視界が閉ざされたまま、手足がほとんど動かせないまま過ごさなければならないのだ。

 何も出来ない、何も成せない、何も出来ない。そんな状況で過ごさなければならないのだ。地獄だ。よだれが垂れてくる。口を拘束されているという事は、口を閉めれないというだから、よだれも垂れるのか。


 どれぐらい経ったのだろう。もう十日程度は経った気がする。だが、おそらくまだ一日も経っていないのであろう。

 そんな気がする。なんとなくだけど。


 暇で暇でどうしようもない。精神が崩壊しそうだ。これが彼女が言っていた事だらう。こんなもんで覚醒とかいう謎の現象が起こるのかはわからないし、それには否定的だけど、それが起こらない限りはここから解放なんてしてもらえないだろう。
















リンシアの覚醒の儀式は完全に失われているので、リリシアは完全に詩音の妄想だと思っています。

そして詩音は実験は確実に成功すると(自分が覚醒しているので)思っています。彼女はただ、好敵手を求めています。

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