第33話 拘束生活

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」

「ん」


 ゆっくりと体を起こす。うまく起き上がれない。


「手伝ってあげるわ」


 と、魔王が体を起こしてくれた。


「ありがとうございます」


 と言って、ベッドから起き上がり歩き始めようとするが、こけてしまった。


「もう、拘束されてるの忘れないでよ」

「ごめんなさい」

「別に私は困らないけど」


 そして魔王に魔法で運んでもらい、食堂に着いた。


「じゃあいただきましょうか」

「はい!」


 そして魔王の手によって食事が運ばれる。


「美味しい?」

「美味しいです」

「よかった。まあ私が作ったわけじゃ無いけど」


 そんなことを喋りながら食事をとる。


「魔王さまー、お姉ちゃん、仲良い?」


 急にミルちゃんにそんなことを言われた。


「仲いいでしょ!」


 と魔王が肩を組んでくる。私としてはそんなことはないのだが。


「はい!」


 別に魔王の恨みを買いたいわけじゃない。ここは負けておく。だが、ただで負けてあげるのは悔しいので、軽くだけ魔王を睨んでおく。


「なんか元気がないねー」

「そんなことないですよ」


 逆に元気があるほうがおかしいと思うけど。


「まあいいわ。あなたからの愛が受けられなくても私が愛を与えたらいいしねー」


 ほっぺすりすりをしてくる。正直ウザイ。


「あとで一緒に寝れるもんね」



 食後


「ねえ、こちょこちょしよっか」

「はあ?」


 寝る前に魔王がそんなふざけたことを言ってきた。


「いいじゃない。こちょこちょー」

「ふっくく」


 本当にむかつく。


「何なんですか!」

「え?」


 さすがにこうなることは予想してなかったらしい。


「私は……私は……おもちゃになりたいわけじゃない」

「だめ! あなたは代わりに拘束されるということで、私のおもちゃになってるの。何されても拒否権ないからね」

「私は正直言って……」


 いや、やめておこう。さすがに自分が思ったことを馬鹿正直に言うのは良くないだろう。


「何?」


 押し倒されて、顔を近づけられる。怖い。馬鹿なことを言ったらやられそうだ。


「あなたのことを怖いと思ってます」


 嫌いとは言えないが、これでギリだろう。


「私知ってるよ! あなたが私のことを嫌いだって。あなたの性格なら私のことを許せるわけないもん。ただね、私拷問とか拘束とかにも少し飽きてきてるんだ。だから、私のことを嫌いな人と友達になるっていうゲームをしてるんだ。もちろんあなたは好きだよ。ゲームを超えて。まあとは言っても前に言った通り、倫理観とか、あらゆるものがないから、その多数の中でまだ友達になれそうなのがあなたなだけ。だから本来なら拘束具を外してもいいの。まあ建前として数か月はつけてもらうことになるけど。それにあなたの拘束されてる姿を見てるのも楽しいし。別に変な意味じゃないよ。ただ、かわいいなと思って。でもね私、チューとかそんなことはしない。まあからかう為にこちょこちょはするけど。けど、それ以外は私はあなたの意見を尊重したいからそこまでひどいことはしないつもりだよ。あと、拘束から解放された後だけど、魔法を学んでみない? きっと楽しいよ。私が飛ぶ手がかりにつながるかもしれないし。それであなたが私を暗殺しようとたくらんでもいいしね、それに、強者との戦いもしてみたいの。あなた絶対魔法を学んだら強くなるでしょ? それが私正直楽しみなの。前の勇者とやらも全然強くなかったしね。だからさ、……」


「しゃべりすぎです。さすがに整理できません」

「ああ、それはごめん。あなたのことを考えていなかった」

「それで、なんでこちょこちょだけはするんですか?」

「だってからかいたいんだもん」


 やっぱり我儘だ。


「そうですか……まああなたがどんだけ頑張っても、私のあなたに対する評価が変わることはないんですけどね」

「ひどい。悲しいよ」

「抱き着かないでください」


 魔王に抱き着かれるほど嫌なことはない。


「そんな冷たいこと言わないで、私の愛を受け止めて」

「さっきのこちょこちょしなとか、酷いことをしないという発言はどこに行ったのでしょうか」

「そんなこと言わないで!」

「はいない」


 そして少し喋ったら魔王は寝てしまった。今が殺すチャンスだ。だが、こんなんで死ぬのなら今までに既に死んでいるか。それに拘束されているし。

 でも、トライすることは間違いでは無い。私はどうしても兄を殺したことを許せる訳がない。


「はあ!」


 小声で叫ぶ。魔法……私にも使えるかと思ったが、そんな簡単な話では無いようだ。


 寝よう。



「よーしよしよし」

「ん?」


 目が覚めたらめっちゃよしよしされてた。


「やめてください」

「いいじゃん。気持ち良くない? よしよし」

「気持ち良くはありますけど」

「気持ちいいんだったらいいじゃん」

「昨日言いましたよね、嫌いって。あなたは嫌いな人からよしよしされて気持ちいいんですか?」

「私だったらね、ボコるわ。完膚無きまで」

「凄い暴力的ですね」

「当たり前よ。ここまでやらないとダメだもん」

「なんで?」

「私がその人が嫌いな事伝わらないじゃん」

「らしいですね」

「そうでしょ!」

「そういえばいいんですか? 殴れませんけど。というかそろそろご飯の時間ですよね」

「そう言えばそれで起こしたんだった。ちょっと待ってね」

「はい」


 そして寝返りを打つ。後ろ手がベットに当たって痛い。やはりこの拘束状態には慣れはしない。


「よいしょっと」


 寝返りを打つとすぐにお姫様だったをされた。


「何をしてるんですか!?」

「いやね、魔法使って運ぶのもなんか嫌だったから物理的にね」

「恥ずかしすぎる。やめてください」


 嫌いな人にお姫様抱っこされる屈辱……ありえない。


「いーや」

「じゃあ嫌いな人におひめさまだっこされたいんですか?」

「私だったらぶん殴る。でもあなたはぶん殴る手がないでしょ」

「そんな屁理屈」


 だが、事実私に対抗はできない。しばらくこの辱めを受けなければならないようだ。


「はあ」

「ん? 何?」

「こんな事だったら拘束されなかった方が良かったかなって」

「それは言えてる」

「……」


 魔王が言えることではない。


 そして朝ごはん……つまり人生二回目の拘束状態でのご飯の時間になった。


「いただきます」


 とは言え昨日と同じ通り、手が文字通り出せないので、癪だが、食べさせてもらうしかない。


「あーん」


 と、スプーンを差し出してくる。しかし、一向に私の口に入れてくれる感じは無い。


「早く食べさせてくださいよ」

「嫌、パクッと食べてよ」

「はあ?」

「だってあなたは私のおもちゃだもん」

「私と友達になりたいんじゃなかったの?」

「それとこれは別の話よ。ほらほら餓死するよ」

「パク」


 お腹が減ってるから仕方ない。癪だ、負けた感じがする。


「かわいい」

「誰がやらせてるのかしら」

「やだ、こわーい」


 と、分かりやすい反応をする。本当はそんな思ってないくせに。


「今日の予定とかありますか?」


 外に出るのであれば一言言ってほしい。


「いえ、無いわよ。ただ、一つやることがあるわね」

「何ですか?」

「それは内緒」


 そう言ってはぐらかされてしまった。


「ついてきて」


 ご飯終わりに彼女に告げられた。


「私着いていけないんですけど」


 椅子に座りながら言った。移動する事が出来ないのにどうやって着いていけばいいのか。


「あ、そうだった。お姫様抱っこだね」

「だからやめてくださいよ」


 だが、抵抗むなしくやはり抱っこされる

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