第14話 海の森

 アスリハはどんどんと森の中を進んでいく。私でも追うのが難しいレベルのスピードで。これは、執事っぽい人も大変なわけだ。

 状況から考えると、これはアスリハの我儘でこの森の中に入って行ったという事だろう。

 まあ理由は分からないけど、最強になりたいとかかな。さっきの町人も言ってたし。


 そして、アスリハの目の前からサメが出てきた。


(またサメ? お前はこりごりなんだけど)


 そんな文句を心の中で行って、様子を見る。するとアスリハは持っていた矛を使って雷を生み出し、


「サンダースタッブ」


 そう言って放ち、サメをしびれさせた。水中なのに雷まっすぐ行くんだと思ったが、まあ、そう言う力なのだろう。

 もしかしたら今の私よりも強いかもしれない。恐ろしいことだ。


 まあでも、彼女が強い方が私も楽できるし、いいんだけど。


 そして着いていくこと五分。今度は後ろから、小型の魚みたいな魔物が出てきた。ああ、くそ。そっか後ろからだけじゃなく、前からも来るのか。ああ、しんどいなあ、素早く処理しないとばれじゃうじゃん。


(ウインドラッシュ!)


 そう言って、風を出し、風の攻撃を企てる。風の攻撃と言っても本質としては風で操った水流の動きによってダメージを与えるということだ。


 そして生み出した水流が敵にヒットするが、こんなチミチミとした攻撃じゃあ駄目みたいで、全然ダメージを与えられない。


(はあ、面倒くさい。ウインドバースト)


 そして水を爆発させる。彼女に私の存在がばれるかもしれないけどやむを得ない。そして爆発によってできた空間に風を大量に送り込み、魚を水と乖離させる。これで魔物は水を失い段々と衰弱していった。


(これで終わりか)


 と、安心した直後、後ろから、巨大なイカが現れ、私に攻撃してきた。急だったので避ける暇なく、見事に攻撃を食らってしまった。


(うぅ)


 傷は回復する。だが、回復しきる前に次々に攻撃が加えられる。上手く攻撃の波から逃れることが出来ない。まずい、これは私の負けか?


 そう思ったその瞬間、イカに向かって雷が飛んできて、それによってイカは倒された。


「はあはあ、間に合いましたか?」


 そう言って女性がこちらに向かってくる。アスリハだ。私を助けてくれたのか。


 あーばれたくなかったな。でもそりゃあクラーケンなんか来たらばれるか。私みたいな陰キャは単独行動がしたいんだよ。もう、全く。どう返事しろって言うんだ。

 てか、そもそも私今会話ができないなあ。人魚じゃないってばれる……うーんどうしようか。


「どうしたの?」


 私の顔をじっと見ながらそう呟かれた。私は返事が出来ないのを察してほしい。


「なんか悪いことした?」


 そう言われた。くそ、これでは埒が明かない、いっそ殺してしまおうか、そう思った時、


「もしかして人間だから?」


 そう言われた。


(え?)


 もしかしてバレた? 私、そんなに変な事はしてないはずだけど。


「だって、上手く化けてるつもりだと思うけど、それ、

(え? 完璧だと思ってたのに。悲しい)

「まあでも悔やむことはないわ。たぶん私じゃないと見分けられないもの」


 さて、どうするか。私にとって正体を知られてしまった。たぶんさっきの兵隊の反応からして、ここにとっては、人間は好ましくはないのだろう。


 普段の私ならあっさりと勝利できる。けど、今のホームラウンドじゃない状況、私が勝てるわけがない。



「とりあえずさ、えい!」


 そ の言葉を契機に私のバリアははがされ、私は呼吸ができるようになった。


「なんで?」

「え? だってこのままでは話せないでしょ」

「ありがとう」


 とりあえず、敵意はないのかな? とはいえ、これで私の生殺与奪の権は握られた。これでは戦う事なんてできない。

 とりあえず、いい子ぶるか。


「私、ここにあるお宝みたいなやつが欲しくて、ここに来たんです」


 こんな感じでいいのかな? これでうまく無垢な少女みたいな感じを演出出来ていたらいいんだけど。


「それは嘘だよね」

「え?」

「だって、並の人間がここに来れるわけがない。だってここは海の王国だから。だからここに来る人間は、そんな可愛らしい面なわけがない」


 ふーん。全く面倒くさいなあ。


「じゃあ、どうする? 今ここで戦う?」


殺したいところだ。


「まさか、私としてもこんなところで戦いたくはないし、そもそも戦うつもりならあなたを助けてなんていない。私としては見方が欲しいの。この過酷な森を抜けれる味方が。……あなたも知ってるでしょ? ここの別名を」

「……」


 別名とか知らないし!!


「だからさ、一緒にこの森を抜けよう」


 そう笑顔で言われた。は? 

 私としてはこいつなにを甘ったれたことを言っているんだって感じだ。私はこいつが思っているような甘い人間じゃない。それところか、私自身、私は邪悪だと思っている。私はあまりこいつらに感情移入できないし、全てが、私に用意されたイベントだと思っている。つまりは、私にとってはどうでもいいのだ。

 こいつらが死のうと生きようと。


 まあでも、使える物はとことん使ってる!! 


 という訳で、私は、


「じゃあ、共闘……お願いします」


 そう、彼女に伝えた。私としては何もかもうまくいっている。


 見つかった時はまさかと思ったが、今となれば、強力な駒が手に入ったようなものだ。最高すぎる。

 後はこの駒をどう扱うか。

 まあ、私を信用しきってるわけではない。怪しいけど、共闘できそうだから共闘する。彼女にとって今の私はその程度の者なのだろう。


「待ってください姫様、それは危険です。得体のしれない人間を仲間に加えるなど」


 ああもう、黙っといてよ。面倒くさい。


「え? アキロスは私に命令するの?」

「いえ、忠告です。人間は恐ろしいやつらですから」

「……まあ私もこの人のこと信用してるわけじゃあないよ。でも、味方は一人でも多い方がいいでしょ?」

「まあそうですが」

「だから、アキロスお願い」

「分かりました」


 執事の爺さんは見事に折れたようだ。


「さて、進みましょうか」


 私は彼女にそう言われ、歩みを進める。


「本当に、ありがとうございます。さっき助けてくれて」

(頑張って耐久して、隙をついたら私一人でも倒せたと思うけど。まあ、プライドが傷つくとはいえ、感謝するだけならタダだ)


「いえいえ」

「私一人なら倒せてませんでした」


(そんなことはないけど)




 そして数歩進んだ先に、大きなタコがいた。全長は二〇メートルくらいもある大きな大きなタコだ。


(あー面倒草。でも戦うしかないよね)


 と、私は、手に雷を纏う。


「下がっていてください」

「え?」


 戦おうとしてたのに。



「サンダーランス!」


 矛から雷が伸び、タコに当たる。;しかし、そこまではダメージを負ってはいない。


「私も行きます。恩は返さないといけませんから」


 そう、作り笑顔を見せ、雷のこぶしでタコを叩く。しかし、ダメージを負っていない


(雷に耐性があるのかもね)


 そう考察した私はすぐにやり方を変え、手に氷を纏い、殴る。

 そしたらダメージはあるようだ。属性の問題でよかった。私強いから、魔力を込めた攻撃が効いていなかったら泣きたいところだ。


「やりますね」


 そう、アスリハが私に言った。これで私の本来の力を誇示できているのならよかったことだ。


 さて、これで満足しては行けない。もっともっとダメージを与えないといけない。

 という訳でさらに殴り殴り殴りまくる。その間にアスリハは、私の姿を見て、雷から、氷のつぶてに切り替えたようだ。そして私たち二人に攻撃され、ついにタコがやられたようだ。


「ふう、やりますね!!」

「え?」


 彼女は、私に抱き着いてきた。なんで???


「私たち気が合いますね」

「気が合う?」

「ええ、貴方をメンバーに加えてよかった」


 よくわからないけど、喜んでもらえているのならこちらとしてもうれしい限りだ。


「じゃあ、数んでいくわよ」

「うん」


 それに執事の爺さんが諦めた様子でついて行く。そうだったこの爺もいたんだった。戦闘を傍観してたから忘れてた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る