第9話 氷の魔女

 しばらく歩くと小さな家が見えた。古そうな木造建設だった。とはいえ、人が言えるという事実で少しだけ安心する。そもそも今は結構寒い。少しでも暖まるところに行きたいところだ。



「おじゃましまーす」


 なにも返事がない。じゃあと、建物の中に入っていく。まあ返事がないってことはオッケーってことだよね。


「誰だ!」


 建物の中に入った瞬間に私の頬を弓矢の矢がかすってきた。


「え? 何? 何?」


 まさかいきなり弓矢が飛んでくるとは思ってなかった。


「何はこっちだ。急に入ってきおって」

「だってお邪魔しまーすって一応言ったし……」


 え? 私悪くはないよね。


「まあ、兎に角。この家に何の目的で入ってきたんだ? 見たことのない顔だが」

「私もあなたのこと知らないよ。私はここがどこかわからなくてとにかく目の前にあったところには行っただけなんだから」

「全く……そんな言い訳通じるわけがあるか!! ここは北国ノースランド。ここがどこかわからないなんてことがあるはずがない」

「私……ダンジョンをクリアしたらここに飛ばされたんだ。だからここがどこなのか知らなくて……ごめんなさい」


 私は決して悪くはないが、謝罪をすることによる精神ストレスよりも、私の立場を強くする方がいい。私は今、ここがどこかもわからない状況で困っている漫画の主人公だ。そう演じればいい。知らないけど。


「……そうか……」



 なんか申し訳なさそうにしてる!! 私の演技も上手いってことかな?


「怒鳴ってすまなかった」


 そう頭を下げてくれた。気持ちいい。最高。わかってくれたらいいのよ、分かってくれたら。


「それで……帰り方を知りたいんですけど……」


 早く帰りたい。その一心だ。竜を使役するのも早くやってみたいし、兎に角、帰りたい。


「あなたの国はどこかな?」

「アリゲルド王国です」

「なんと。ここから歩いて六か月かかる距離ですぞ」


 そんなに遠いんだ。うげえ、吐きそうになってきた。嫌だなあ。


「まあ、帰る手立てが付くまでここでゆっくりされるといい。それに今はここから出る方法なんてないしな」

「うん……え?」


 どういうこと?


「ここは、魔女によって氷と雪で閉ざされているのだ。模試もここから出たいのであれば、その元凶を倒さなければならない。だが、奴は絶対に倒せない。強大な魔力を持っているからな」

「……まあ、諦めるがいい。どうせ、俺もお前もここで死ぬ運命だ」


 死ぬ運命か……まあ、そんなんで本当に死ねたらいいんだけどね。


「もし、氷の魔女を倒すことが出来れば、交通が復活して、アリゲルド王国までも行きやすくなるんですがねえ」


 なるほど、イベントかあ。めんどくさいなあ。世界をすくわせるっていう事かあ。まあ行くしかないよね。


「じゃあ行ってくるよ」

「どこにだ?」

「倒しに」


 と、言い残し、魔女討伐へと向かった。


「あなたが魔女ね」


 そこには氷のドレスを着た美女だ。おそらく年齢は二六程度だろう。ドレスは薄すぎて胸の形がはっきりと取れる。痴女か!? 私にはあんな有機ないわ。まあそうはいっても私の胸はそこまで大きくはないけど。


「あなたのせいで帰れなくて困ってるの。お願いだから一瞬でもいいから氷を止めて! 私が無事に帰れるように!!」

「ほう……つまり貴様は私の出す氷のせいで帰れないという事か……」


 魔女はにやりと笑った後……


「ならなぜここにいることが出来る? この外界とは断絶されたこの空間で」

「私はダンジョンクリアによってここに飛ばされてきた。何の原理かわからないけれど」

「なるほど……あれをクリアできるとは流石だ」


 あれを知ってる? ダンジョンって一回は言ったらクリアするまで出れないはずじゃあ。


「だが、それは私には関係がない。私はただ、この国を私が思うがままにしたいだけだ。貴様には悪いとは思うが……諦めろ」

「私はねえ……目的があるんだったらその障壁をやぶってでも何とかしたいタイプなの。だから悪いけど……」


 含みを含んだ笑いを見せた後、


「お願いだから……死んで!」


 と、言い放ち、炎を彼女にぶつけた。


「何するのよ」

「あなたを攻撃しただけですが、それが何か?」

「いきなり乱暴すぎないかしら、私は別に私が死んだら魔法が解除されるとは言っていないわけなんですけど」

「そうなの!!」


 その発言には流石に私も攻撃を止めざるを得なかった。


「おバカちゃん」


 私の目の前に大きな吹雪が来て、それが私を吹き飛ばした。


「ちょっと何をするのよ!!」

「私が攻撃の手をやめるとは思わないで頂戴ね」

「そういう事ね」


 別に彼女にとって、私と話し合うつもりなんてなくて、交渉する必要はなく、私を殺そうとしてるだけか。この彼女によって作られた環境を破壊する可能性のある私を。ああ、馬鹿をした。私の障壁になる敵は全員切り殺すだけだった。


「死ねええええええ!!!!」



 すぐさま、雷弾をぶつける。しかし、魔女はすぐに氷の弾でそれを防ぎ、すぐに次なる攻撃、雪の弾丸を放った、


「へえ、そういうことしちゃうんだ」


 と、変なことを言いながら、攻撃が直撃する瞬間に、手でつかみ、炎で焼いた。


「私もねえ、暇じゃないの。すぐに殺してあげるわ」

「奇遇ねえ。それはこっちもよ!」


 と、魔法の打ち合いが始まった。若干私優勢だと思うが、何とも言えない。だってあっちも結構強いもん。それに私なんかの開設の人でも評論家でもないもの。でも! 負けられない。


「へえ、やるねえ」


 煽り口調で行ってみる。勝負は冷静な方が勝つからね。


「さあ、そろそろ終わらせちゃう?」


 巨大な炎の弾を天に掲げながら叫んだ。


「私の負けと言う事で……かしら?」

「そうだね」

「私は負けるつもりはないわ」

「いや、あなたに負けるつもりはなかったとしても、私には勝運命がある!」


 そして私たちはぶつかり合い。今度もまた物理で魔法で。


「死んで! 死んで! 死んで! 死んで!」


 そんなことを叫びながらとにかく魔法を連発する。そろそろくたばって欲しい。そろそろ面倒臭くなって来た。


「ファイヤーエクスプローラ」


 と、炎の爆発を起こす。もう面倒くさかったら範囲攻撃をする。常識よ。


「吹き飛べええええ!!!」


 流石にこれで死んでくれるだろう。そしたら私の完全勝利で、帰ることができる。


「死んで……ない?」


 そこには五体満足の魔女がいた。



「ねえー! 死んででよ。お約束でしょ! 主人公の必殺技を喰らった敵が四肢爆散するのって」


 こう、ねえ、なんかあるじゃん。爆発する必要ないのになぜか爆発するシーンとか、漫画でさあ。


「主人公というのが何かは知らんが、別に貴様が主人公とは限らないんじゃないか!?」

「そうだね。でもとりあえず私は私を主人公だと思ってるから!」


 と、言って両手に炎と雷の魔法を纏わせる。私は、そうこの世界の主人公であることは自明の理だ。だって、異世界に来たんだから。そして、


「別に、飛ばすだけが魔法じゃないんだよね!」


 と、言って直接ぼこりにいく。物理で、力で!


「死んで欲しいな!」


 と、魔女の上に飛び立ち、両手で魔女の頭の上からしっかりと彼女の頭を叩いた。これで流石に死んだか?


「痛いわね」

「生きてる!?」


 あー、耐久力高すぎ。もう死ねよ。本当死ねよ。


「もう面倒臭い! ファイヤー! ドラゴンブレイズ!!!!」


 別に技名関係無いけど、とにかく気分だ。もうヤケダヤケ。もう面倒臭いのよ。本当イライラしすぎてやばい。


「はあ、死ね!」


 そして高出力の炎が魔女を追う。流石にこれで死んでくれるでしょう。氷は炎に弱いし。


「喰らえええええええ!!!」


 そして直撃した……だが、砂煙の中から彼女が姿を現した。


「ねえ! 流石に死んでよ! もう貴方の役割は終わったの!」

「貴方こそ私の邪魔をして。許さない……許さない許さない許さない許さない」


 ああ、怒っていらっしゃる? 私も怒ってるんだけど……


「アイスブリザード!!」


 と、恐ろしい速さの氷の礫が私を襲った。何発も何発も。


「ねえ、痛いって!」


 愚痴をこぼすが、その攻撃は納まらない。むしろ勢いが激しくなっていく。


「もう!!」


 許さないのはこっちの方だ。痛いんだぞ!


「ファイヤーストリーム!!!」


 炎の渦を生み出す。それによって氷が溶けていき、なんとか痛みは治った。


「ウインドラッシュ!」


 と、全力で炎を風で援護する。全力×全力はもう全力マックスだ。


「喰らえええ!! これが私の全力! 闇を照らす私の全力マックス魔法だああああああああ!」


 そして、彼女は正真正銘消滅した。私の全力マックスによって。


「やったー!!! 勝ったーーーー!」


 そして魔女の遺体を見る。炎で燃えて、灰になりかけている。全く私に逆らうからだ。


「まあ死んだなら良いけど……吹雪全然収まらくない?」


 これじゃあせっかく倒した意味がない。むしろ風が強くなってる感がある。本当、なんなのよ。良い加減にして欲しい。


「さーて次は誰を倒せば良いのかな?」


 と、大声で叫ぶが、返事は全く来ない。もうまた手掛かり無しとか本当やめてよね。


「天候よ。我が意に従え。吹雪よやめ!」


 と、中二病みたいなことを言ってみたが、何も起こらない。はあ、期待するだけ馬鹿だったのか。


「……どうしよ……」


 この状況私はどうしたら良いんだろう。流石に私とて気候は変えられないよ? ねえ、神よどうすれば!


「神あいつじゃん」


 信用できないなあ。絶対信用できない。


「はあ、どうすればいいの」


 そのまま途方に暮れ、あの人の家にとぼとぼと戻る。しかし、元気のない私にはまともに歩く気力がない。おそらく時速二キロも出てないだろう。はあ、もう嫌だよ。ここで二〇〇年も過ごすのはさあ。


「帰りたくないなー。でも寒いから帰りたいなあ」


 もう私の気持ちが分からない。もうしんどい。


「アイスブリザード!!!!」


 そして、氷のつぶてが私の背後から飛んできた。


「痛い痛い痛」


 やばい不意打ちだから痛い……てか!


「なんでいるんだよ! 魔女!」


 そう、彼女の遺体ははっきりと見たはずだ。ここに彼女がいるはずがない。なぜ!


「失礼だなあ、私にはアンリと言うはっきりとした名前があるのに……それはいいわ。まあ、私はね、魂の状態でも生きられるのよ。私自身はもう一〇〇〇〇年前に死んでるんだから。あれはあなたをだますための仮の死体よ。でも倒すまではいかなかったようね」

「どういうこと?」

「私はねえ、一〇〇〇〇年前に、戦争で死んだ人の霊。それが私なのよ。だから私は死なない。それところか、あなたを一方的に攻撃することが出来るの。あははははは。あなたには勝ち目がないわ。大人しく死になさい」

「不明瞭なところが多いけど。それは置いといて、あなたは魔女じゃなくて幽霊だったのね」

「そうねえ」

「だったら私あなたに勝てるわ!!!!!!」


 そして、そのまま私は塩を作った。


「幽霊には塩。これ、常識よね!」


 と、そのまま塩をまとった風をふきまわす。


「これは……」



 アンリはその攻撃を受けて、そのままダメージを負うようなしぐさを見せる。


「己ええええ。痛い痛い痛い。だが! 塩など凍らせれば意味がない!!」


 周りの零度が上がる。そのせいで私の体温がどんどんと下がっていくのが目に見えてわかる。これじゃあ、寒すぎて、思考が……困ったなあ。寒すぎる。だめだ、意識が消え……


「るわけには行かないわ!!!!」


 と、すぐに塩を風で飛ばす。しかし、すぐに冷気に妨げられ塩は彼女のもとへと届かない。炎で氷を飛ばしたいところだが、それでは塩が消えてしまうかもしれない。たぶん。ああ、もう! 私化学得意じゃないからよくわからないけど。

 でも、これじゃあどうしようもないかも。


「仕方ない……第三の手を使うか」

「何を使っても無駄よ。私は負けないわ。氷は全てにおいて最強。破られるゆえんはない!!」


 あーあ。うるさいわよ。でも、頭がさえてきた。これだったら行ける!!!


「ウォーターラッシュ!!!!」


 水の弾を連発する。


「無駄よ! 無駄無駄! この攻撃は凍らせれば無駄なの。見て、全て凍っていくわ」


 あーあ。うるさい。なんでこんな上機嫌なのよ。ムカつく。


「アイス、ラッシュ!!!」



 落ちている氷をぶつける。もちろん中には塩が入っていく。


「もとは私がはなった水。そしたら私にだって使えるでしょ!!!」


 そして、氷をぶつけまくる。塩が入っている攻撃ならちゃんと聞くようだ。これなら勝てる!!!!!


「アイスラッシュ!!!!! くらえええええええええ!!!!!!!」


 そして、どんどんと氷がふりまかれていく。その中に私の作った氷も含めて……


「行けえええええ、破れええええええええええ!!!!!!!!」


 そして、攻撃がどんどんとヒットしていく。


「死ねえええええええええ!!!!!!!!!!!!!」


 と、攻撃がヒットして、彼女の魂が消滅する。それと同時に氷の嵐が止んだ。


「私の勝ち?」


 そのようであるのは空の景色からはっきりとわかった。雲一つない快晴だ。


「良かった。私の勝ちだ」



 そして、すぐさま彼の家に戻り、国に帰るための用意をする。帰るまでが遠足と言うように、今回はかえるまでが戦いだ。あ、そうだ。


「あの、この近くにドラゴンがいるところってありますか?」

「ドラゴン? この近くにドラゴンの里があるのは効いたことがあるなあ」

「そこはどこですか?」

「ああ、あそこはここから東に三日歩けば着くはずだ」

「なるほど……」


 そこまで遠くはないな。この距離だったら私でも簡単に行けそうだ。


「じゃあ行ってくる!!!!」

「ああ、行ってらっしゃい。とにかくありがとう」

「どういたしまして」


 そして私は、向かっていった。その場所へと。

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