第5話 組織突入
「侵入者か」
正面から入っていったら早速声をかけられた。全く面倒くさい。気づかないふりをしてほしい。まあでも、とりあえず、
「うん。そうだよ! それでここどこなのかな? 私わかんない」
あえて天然のふりをしてみた。こんなくそつまらん世界だ。人の反応で楽しんでも良いだろう。それに、どうせこいつらは死ぬんだから私の黒歴史なんかには到底なりえないし。
「ここは秘密結社ヴァルトリオだ。知らんとは言わせんぞ」
名前ヴァルトリオだったんだ。知らなかった。へー。
「でも私にはそんなのどうでも良いの」
この世界の危機とかそんなこと知ったこっちゃ無い。
「でもね、私はさっきとんでもなく辛い拷問を受けたの。その恨みをあなたで果たしても良いかしら?」
それと関係ないけど、しばらくは鳥になれない恨みというただの八つ当たりも。
「ウインドソード!」
我ながらカッコ悪い技名だ。小学生の方がもっとマシな技名を思いつくだろう。でも私は技名を考えるのが面倒くさい。だってそうでしょ。技名を考える前にストレス発散をしたいもの。
「はあ!」
「うわあ!」
剣をふるうと、その剣を受けた相手の体が、幾重もの風の太刀によって傷を受ける。そして、その傷口から血が吹き飛び、相手は倒れた。
ウインドソード。ただの風の剣だと思わせといて、実は周りにかまいたちを張っている。近くにくればすぐに風によって切り刻まれる。所詮は下っ端、すぐにやられすぎて面白くない。
「あのー生きてますか?」
微笑みながら近づく。死んでもらっては痛めつけられないもの。
「な……なんだ?」
彼は弱りながらも言葉を発する。
「私ねえ、ムカついてるの、あなたの仲間に。だからあなたでストレス発散してもいい?」
鳥になれないストレスもあるのは言うまでもない。
「まずは足から行くね!」
足を少しずつ風で切っていく。あくまでも少しずつ、少しずつだ。
「つああああああ!」
「痛い? 痛い?」
こんなことをやっても解決にはならないけど、私は……私にには……その権利がある! 理不尽を被ってきた私には。
「あ、そろそろ半分ですね。出血多量で死なないでくださいね」
「も、もう殺してくれ」
「嫌です!」
「うわあああああ」
私が拷問されてた時と同じ反応をしている。ふふ、楽しい。楽しい! 人の体を切り刻むのってこんなに楽しかったんだ。
飛びたい欲求は変わらないけど、こんなんだったら飛び降りる前に、誰か監禁して、痛ぶってても良かったかも!! だって、ばれたとしても私はもうあの世界にいなかったんだから。
「あ!」
足を一つ完全に切断してしまった。
「生きてまーすか?」
「……」
「あーあ、死んじゃった。まあ仕方ないか、悪人だもん」
その死体を横目に立ち上がる。
「行きますか、せめてこの哀れな死体が鳥になりますように」
そして私はその場を後にした。
トコトコと歩いていく。幸い敵には全然エンカウントしない。仕事とかで出払っているのかな? さっき私暴れたのに全然見つからないし。
「わっと」
落とし穴だ。古典的な罠だが、引っかかってしまった。だが、私は落とし穴には落ちない。風があるからだ。落ちても風で体を支えればいい。そう、簡単な話だ。
「あー、面倒くさい。落とし穴なんて作らないでよ」
でもこれじゃあさっき発散したストレスが返って来てしまう。それより彼、鳥に生まれ変われたかな? そうなっていたら良いんだけど。
「うおおおおおお!」
油断していた。五人くらい切り掛かってくる。こんなに人がいたのか。
「ふん!」
私は体から風を出してふわりと敵に当て、敵は風に流され、周りの壁に思い切り追突する。
「今だ! ファイヤーボール!」
周りから多数の炎の球が飛んでくる。魔導士が控えていたのか。まずい、風じゃあ押し戻せなさそう。
「ウインドバリア!」
私自身でも技名にウインドをつけないと気が済まないのかい! と突っ込みたくなる。でも仕方ないわ。面倒くさいもの。
そして技名のダサさとは裏腹に風によって炎球は相殺されて消えた。
「次は私の番よね!」
「魔導士は一旦下がれ!」
「は!」
魔導士が下がった。
「じゃあ、あなたが次の相手?」
「そうだ、かかってこい、とはいえここには五人もいる。お前一人では手を焼くと思うが」
「手を焼く? 確かに手を焼くわね。生け取りにするのは」
「何を言って」
「私言ってなかった? 技名を言わなくても魔法が使えるの」
そして後ろから風で全員の背中を襲う。
「背後にも気をつけといてよ」
「許さん! イナズマバレット!」
おお! さっきより速い!
「えい!」
私は風の剣を五つ生み出して、自由自在に操り、私に当たる前に、全部の雷弾を斬った。
「どう? これが私の力よ」
なるほど。俺つえー主人公の気持ちが分かってきた。こういうのを求めてたの。鳥とは別の意味で自由ね。ギリあのクソ野郎も許せてきたわね。鳥になりたいのは変わらないけど。
「ボスを呼べ! 我々では敵わん」
「いや、呼ばせないわ! あなたたちはここで私のおもちゃになるの」
「なんだと?」
「これを見て、運んできたの」
そして私ははるばると風で拷問器具を持って来た。
「これなんて良いんじゃないですか?」
私が持ってきたのは前の煙で炙るやつだ。
「私火の魔法も使えるんですよ。この中に入ってください。私が熱しますので」
「誰が入るか」
「これは命令です!」
そういうわけで風で敵の兵士を運ぶ。抵抗されたが、風により四肢の自由を奪い、無理やり運んだ。
「さてと行きますよ! 準備はいいですか?」
「良いわけないだろ」
「じゃあ行きますよ! イケー!」
炎を掌から放つ。それにより炎によって拷問器具が熱される。
「どうですか? 気分は」
だが、中から暑い暑いといったような言葉しか聞こえなかった。これだと面白くないなー。これだったらさっきの足を切り刻む方が楽しかったな。
「お前ら!」
スキンヘッドの左頬に傷を負っている男がやって来た。
「はあ、貴方がボスですか?」
「ボス? まあとりあえずこの組織の長をやっている者だ」
「名前は?」
「言う必要はない。お前はどうせ死ぬからな」
厨二病ですか。漫画で百回は見たセリフだ。さっさと終わらそ。
「行きます!」
風の刃を空に複数生み出す。
「はあ!」
風の刃をぶつけにいく。
「ふん! その程度か!? 部下は倒せてもそんなちんけな刃じゃあ私は倒せんぞ!!」
そう言って奴は剣で風の刃を弾いた。そして……
「今度はこちらからだ!! はあ!」
剣を持ちこちらに向かってきた。面倒くさいなー。さっさと死んで欲しいんだけど……
「えい!」
風を敵に向けて、敵に対する向かい風として発する。これだけで敵の機動力は無くなるはずだ。私自体も結構しんどいが、まあ、勝つことを考えたらこれくらいの労力、大したこともないだろう。
「ウインドカッター」
そして私は風の刃を複数敵に向かって発する。
「ファイヤーブレイズ!」
そして炎を吐かれ、風の刃は全て撃ち落とされた。
「面倒くさいですね。風を維持するのも大変なんですよ!」
私は風で剣を作って斬りかかる。本当、さっさと倒れてほしい。さっさと死んでほしい。
「ふん!」
奴は剣でそれを受け、火球を私の後ろから放った。私はそれを風で防ぐ。
技名を言わなくても技を発せるのは私だけじゃないのか。確かに詠唱とか無いけどさ。そして、相手は炎で剣を纏い、そのまま、飛び跳ね私の真上から、両手で剣を斬りつけてきた。重力とか、体重とかの力を借りようとしているのか……でも、
「えい! はあ!!!!」
風で強化された私の剣が相手の剣を押し返す。そして彼は、後ろに下がったが、そこに私が仕込んでおいた、大量の風の刃を当て、彼はその場に倒れこんだ。当てるんじゃなくて当てさせる。
「ぐう。なるほど私の部下を倒したことはあるな。だが、私は負けるわけには行かない。破壊神を復活させるまでは!」
「ほざいてて」
私は剣を首元に当て言った。
私にはそんなの興味がない。私には死ぬことと痛めつけるぐらいしか目的なんてないし。その崇高な目的なんてわからない。
「はあ!」
私は足に剣をぶっ刺した。
「がああああああ」
「あれ? さっきまであんな偉そうだったのに悲鳴は上げるんだ。へー。じゃあもう少し聞かせてよ。えい!」
足をぶった斬り、切断面から血がドバドバと流れる。
「貴様、よくも私の足を」
「勝者の特権です!」
「ふざけるなよ。お前は地獄に堕ちろ」
「嫌ですね! 私は飛ぶんですよ! さてともういっちょ!」
「ぐああああ! こうなったら不完全だが、仕方がない。いでよ破壊神」
あれ、体が消えた。
「うがあああああああああ!」
なんか三つの首を持った化け物が現れた。自分の体をいけにえにしたのか……覚悟決まってるなあ。
「……なんだこいつは……」
破壊神なんて言うから、もっとすごそうな奴だと思ってた。正直言って期待外れだ。なんかこう、世界を崩壊させる魔王とか、そんな恐ろしいやつだと思ってた。少なくとも私があの世界でやっていた時に出てきた魔王はもっと凄まじかったはずだ。それが、こんな三つ首のライオンっぽい奴なんて……正直がっかりすぎる。
はあ、テンションただ落ちだ。
「ぐおおおおお!」
襲い掛かろうとしてくる。まだ私のテンションが戻っていないのに勝手なやつだ。
「えい!」
私は風を作って破壊神を吹き飛ばす。だが「ぐおお!」と言って奴は普通に風の流れを耐えきり、そのまま再びこちらに向かってこようとする。
「じゃあこれで!」
風剣を持って斬りかかると同時に炎の球を数発、風に乗せて放つ。さっきの戦いで結構体力使ったから正直しんどいんだよね。破壊神はシンプルに足でその炎を弾を受け、風剣に関してはシンプルに体当たりでぶつかってきた。私個人的には体当たりで風剣を受けれるの? と思うが、腐っても破壊神、見事に受け切ってくれた。
はあ、見た目同様にしょぼい奴ならよかったんだけどなあ。
そして破壊神は後ろに下がり、炎を放った。私はそれを風で追い返し、再び風剣で斬りかかる。破壊神は再び体当たりで向かってこようとするが、私も馬鹿じゃない。今度は直接頭は狙わない。頭を狙ってしまってはその勢いに負けてしまうかもしれない。よって、狙うのは、その腹だ。上手く、相手の闘劇を防ぎ、その後、腹を裂く。
未だ!! そう感じ、間一髪で突撃をよけ、腹を裂いた。あと少し遅ければ私はその攻撃でダメージを喰らっていただろうし、あと少し早ければ私の攻撃はよけられただろう。
まあ、何はともあれ私の勝ちだ。
「ぬおおおお!」
勝利宣言している傍らで破壊神は痛がっている。めんどくさ、さっさと死んでてよ。
そして私はとどめの風剣を刺し、そして動かなくなった。
「完全体だったらよかったのに」
まだ完全ではなかったからか破壊神は強くなかった。完全だったらあの程度の攻撃でやられるはずはないのだ。
「さてと……」
私はその場を後にした。
「王様! 破壊神を倒してきたよ!」
「おお、真か。勇者様ありがとう」
「ところで私褒美が欲しいな」
「褒美か……何がいい?」
「うーん。第一候補として、飛べる力を研究してほしいのと、私の不死身を解く方法を探してほしい。これかな」
「ああ、我が国の研究者たちにそう頼んでおく」
「ありがとう。それじゃあ私はこの国をいったん出るね」
もう面白そうなの無さそうだし。
「おお、行ってしまうのか」
「うん。もっと楽しそうなところに行きたいの。それじゃあね」
「ああ。勇者様お達者で」
「うん。王様こそ元気で」
そして私は旅に出た。世界を救うため? 人助けをするため? 違う。楽しむためだ。私にはこの世界の人が人には見えないし、ゲームのキャラクターにしか見えないのだ。
さっき元気でーとか言ったが、そんな気持ちなどない。私はゲームでNPCを攻撃しまくったことがある。ゲームのキャラクターを攻撃して心が痛む人間などいないだろう。私もその一人だ。
地獄に落ちろ? そんなものどうでもいい。要するにこの世界には私のおもちゃになってほしいのだ。自己のないおもちゃに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます