第11話 風邪2

「ん」


 目が覚めた。ふと、目を開ける。


「え?」


 俺は思わず呟いた。未来の顔がほぼゼロ距離にあったのだ。その、未来の美人な顔が。正直言って今俺が風邪をひいているからか、ゼロ距離だからか、いつもより更にかわいく感じる。


「あ、おはよう翔太君!」


 そう、俺の目の前にいた未来が声をかけた。


「お、おはよう」

「翔太君、顔赤くない?」

「いや、赤くないよ」


 と言っておく。「もし赤いんだったらそれは熱のせい」という謎の言い訳を足して。


 俺と未来はカップルなのだから、かわいかったからと言っても何ら問題はない気がしたが、それを伝えるのはなんとなく恥ずかしかった。


「じゃあいいか。それで調子はどう?」

「うーん。少しだけましになった気がする」

「それは良かった」

「……それで、いままで未来は何をしてたんだ?」


 何しろ起きたらすぐ目の前に未来の顔があったのだ。不思議に思わないわけがない。


「それは……言わなきゃだめ?」


 そう、気恥ずかしそうに言われた。


「まあ、言わなきゃだめってことはないけど。出来るのなら教えてほしいなっていう気持ちはある」

「……そっか。じゃあいうね。シンプルに翔太君の顔を凝視してたの。イケメンだなって」

「お、おう」

「別に変態的な目でとかじゃないからね。ただ、単純に翔太君の顔をこんなまじまじと見れるのって今しかないなーって」


 言葉を連ねるほど、怪しく見えてくる気がする……けど、まあそれはいいか。


「それじゃあ、俺も……さっき顔が赤くなってたのは未来がかわいいなって思ったから」


 言われてしまったらこちらも白状せざるを得ないと思い、そう言った。別に白状しなくても良かったかもしれないが、義というものがある。未来のその発言を聞いといて、俺は言い訳したままというのはなんとなくダメだという気がした。


「そっか。それはうれしいな」


 そう言った彼女の顔は赤くなっていた。もしかしたら俺の顔も同じくまた赤くなっているのかもしれない。


「おっと、翔太君は病人なんだから、こんな話をしている場合じゃなかったよね」

「いや、別に話しててもいいが」

「いや、なんか病人相手にイチャイチャするのも違うなって」

「これイチャイチャという感じだったのか?」

「はた目から見たらイチャイチャでしょ」


 まあ、確かにそうかもしれない。少なくともあの二人がいたらいじられてるかもしれない。


「そうだ、一ついい?」

「なんだ?」


 そしたら彼女は悪戯っぽい笑みで「私、ここに泊まって行ってもいい?」と言った。


 なんで? 


「いや、ダメだろ。まず着替えとかどうするんだよ」

「それは大丈夫よ。家に一旦行って回収してきたから。それにこれは私の性欲とかそんなのはなく、ただ、翔太君が心配なだけなの」

「でも、寝るところないぞ」

「ソファーがあるじゃない」

「いや、ソファーは寝心地悪いぞ」

「私はそれでも平気だから。それにもし翔太君が体調崩した時に誰もいなかったら不安でしょ?」

「まあ、確かにそうだが……」

「じゃあ、決まりね」


 なんかごり押しされた気がするけど。でも今から全力で拒否ったとしても結局泊まられる気がする。


「私、翔太君が治るまでずっとここで暮らす」

「今日だけじゃなくて?」


今日だけだと思っていたのだが。


「うん。もちろん」

「それ……お前に風邪がうつらないか?」


 今日だけならまだしも……


「マスクしてるから大丈夫!」

「あんまり過信しすぎない方がいいと思うぞ」

「私はもし風邪になっても看病してもらえるから」

「そう言う問題じゃ無い気がするけど」

「私は、自分の体よりも翔太くんの体の方が大事だから」

「いや、自分の体を大事にしろよ」

「やっぱり翔太君は優しいね」

「当たり前の感覚だと思うけど」


 とはいえ俺は幸せなのかもしれない。クラスで一番モテる未来に今看病してもらってるんだから。

 いや、間違いなく幸せだ。


「本当にありがとうな」

「どうしたの? そんな急に改まって」

「いや、な。感謝の気持ちが大事だし」

「ふふ。どういたしまして」


 そして俺の風は未来の看病のおかげもあり、翌日の二時には熱が下がった。未来に二日も学校を休ませていたのは悪かったが、彼女自身楽しそうだったので、気に病む必要はないだろう。

 未来はそう言う人間だ。


 そして水曜日。俺たちは病気が治ってから初めての登校をした。運が良かったのか、未来がしっかりとマスクを着けていたからなのかは知らないが、未来に風邪がうつることもなかったようだ。


「でも、本当に良かったよ。またこうして一緒に学校に行けるなんて」

「ああ。もう治らないのかと思うくらいしんどかったよ」

「ふふ。私に感謝してよ」

「それは本当にありがとう」


 そして学校に着くと。早速二人が出迎えてくれた。


「どうだった? 未来の看病は」

「まあ、控えめに言って最高かな」

「ふふ。どうでしょう。うちの未来の看病は」

「花枝は調子に乗らないの」

「いいじゃない。私が調子に乗っても」

「良くないだろ。俺は未来にだけ感謝してるから」

「千鶴ー、御堂君がいじめてくる」

「……御堂君は悪く無くない?」

「でもひどいよー」


 泣きまね下手すぎだろ。いや、わざとそうしているのか?


「さて、三森さんは放っておいて、俺たちは俺たちで話すか」

「……翔太君。花枝の扱い方慣れてきたわね」

「だって、調子に乗らすわけには行かないから」


 ああいうタイプは強く言わなきゃ調子に乗りまくるしな。まあ、とはいえ、俺ずっとボッチだったから、そこらへん良くは分からないけど。でも


「もしかして言いすぎだったか?」


 俺が距離感間違えている可能性もある。未来の彼氏である俺に対して文句を言うのが怖いから空気壊しても許さなきゃならないという空気感があるのかもしれない。


「いや、それくらい言っちゃって大丈夫よ。ね、花枝?」

「未来も私に対して厳しいよ……私の味方は千鶴だけだよ。千鶴は私の味方だよね」

「まあ、部分的にはそう」

「部分的にはって何??」

「だって、今の二人の発言なにもおかしいとは思わないし」

「ああ、味方がいない」


 そう、三森さんは再び泣きまねをした。今度は本気で悲しいと思っているのだろうか、さらにそう言う、泣いているという感じが増した。


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