第6話 学校

 今日は、水族館デートを経ての学校登校だ。今日も学校に向かう。


 ただ、今日は


「て、つなごう?」


 と、未来に言われたもんだから困ったものだ。とはいえ、昨日手をつなぎながら歩いてたのだ、今更困ることなんてない。

 ただ一つ。水族館の時と違って、知っている人に見られるリスクがあるというのが、少しだけ恥ずかしいということはあるのだが。


 そして俺たちは恋人つなぎをして学校に向かって行く。


「大好き」

「急にどうした?」

「だって、愛を伝えることが大事だから」


 そう言って未来は笑った。


 そして学校に着くとすぐに、三森花枝さんに「あっつあつだねー」と言われた。まあ、否定はできない、こうして手をつなぎながら登校したわけだし。


 そしてそれに呼応したかのように上島千鶴さんが、「どう? 未来、進歩あった?」と訊いてきた。それに対して未来は「……うん」と、顔を赤らめながら答えた。そこまで進歩があったとは俺は思わないけどな。そして、長谷川君が、討となり位で「お熱いことで」と言った。俺も恥ずかしくなって、


「もう、それ以上言うな」


 と言った。


「なんで、もっと私たちがイチャイチャしてるところを見せようよ」

「……お前とイチャイチャすると、無意識の敵を生み出すかもしれないから困る」


例えば、嫉妬とかな。


「なんで?」

「未来がかわいいから」

「ふーん。嬉しい。でも、その場合私が論破してあげるから」

「確かに未来だったら簡単に論破できそうだね」

「え、ちょっと花枝、私そこまで論破力あるわけじゃないから」

「おい、お前がそれを言うか? 俺の好きなところ何個でもいえるんだろ?」

「言えるよ、マス顔がいいところ、優しいところ、私をナンパから救ってくれたところ、車道が……」

「おい、それ以上はやめろ。俺が恥ずかしい」

「えー、いいじゃん」

「ところで、気になる言葉が聴こえたんだけど、ナンパから助けたってどういうこと?」


 ほらーやっぱり。


「それはね、私が昨日……」

「恥ずかしいからやめろ」


 慌てて止める。流石にその話はされたくはない。恥ずかしすぎる。少なくとも、ナンパから助けるという漫画みたいな行為をした暁には数日噂されるだろう。別に俺は何も悪いことをしてないし、むしろいいことをしている。だが、そう言う問題じゃないんだ。


「ちょっと、御堂君は黙ってて?」


 上島さんにそう言われた。この場合俺は全然部外者ではないけどなあ。


「という訳で話します」



 さっき三森さんも俺がああいった時、軽くにらんでいた。流石に女子三人を相手にするのはきつすぎる。


「昨日、水族館でデートしたときに、私は焼きそばを買ったの。10分くらいたってやっと変えて、うれしい気持ちで翔太君の元に戻ろうとしたら、こわもての男雲組三人衆が、俺たちと一緒に回らないか? って言ってきたの。私は断ったんだけど、全然怯む様子が無くて、だんだん怖くなってきて、でもそこに現れたのが、私の彼氏。そう、この人。彼が助けてくれたの。そのナンパ男たちの背後に立って、ちょっといいかって言ってくれたの。もう、かっこよすぎてたまらなかった」

「おいおい、ほとんどお前が追い払ったもんみたいなもんだろ」

「でも、翔太君無しじゃあ、追い払えなかったしね!! 愛してるよ、私の彼氏!!」


 なんかそんなことを言われると、少しずつ実感がわいてくる。俺はこの美人の彼氏だという事の。


 そして、気か付けば、過半数のクラスメイトが未来の方を向いていた。どうやら俺の危惧する通りになったようだ。高校生と言うのは大半が恋バナを好きなのだ、そんな中こういう話をすればどうなるか……予想に難くない。こうなるのが嫌で、話すのを止めようとしたのだが、もう遅いようだ。


 そして、案の定、授業中に未来、三森さん、上島さん、長谷川くん以外の人からもヒーローと呼ばれてしまった。なんだよ、その恥ずかしいニックネームは。


「ヒーロー、この問題解けるか?」


 そう、先生に言われてしまって、「はい、解けます」と言って黒板の前に行く。正直もう恥ずかしさを通り越してもうどうとでもなれと言う気持ちだ。

 先生も何で悪乗りするんだよ。


「残念だが、違うな」


 しかも俺の答えは間違ってたらしい。


「え? 翔太くん、ナンパ男は撃退できるのに、この問題は解けないんだ?」


 そう、三森さんが言った。それに隣にいた上島さんもにって、「やっぱり適材適所だね」と言った。もう、俺どうしたらいいんだよ。


 そうだ、未来は……?

 と思ってそっちを見たら、こちらをまっすぐに見ていた。何を考えているんだろうか、俺にはわからない。

 後で聞いてみるか。


 そして席に戻ると、「災難だな」と、長谷川君が小声で言ってくれた。はあ、唯一の味方かもしれん。


「なあ、未来」

「何?」

「俺が間違えてた時にどう思ってたんだ?」

「普通に楽しかった」


 そう、笑顔で言った。


「楽しんでたか……未来お前からそのくそダサいあだ名止めることできないか? やっぱりハズイ」

「恥ずかしがってる翔太君もかわいいよ?」

「かわいいとか関係なくてさ」

「分かった。じゃあ、頑張る」


 そして、未来は三森さんと上島さんに話しかけていった。そうだった忘れてたが、未来クラスのマドンナ。確かに、上手く変なあだ名をかき消すことが出来るだろう。そして実際にすぐに噂はやんだ。

 未来恐るべし。


「ありがとうな、未来」

「いや、私が招いたことだし」


 そう、申し訳なくする未来の頭に手をやる。


「何をしてるの?」

「だめだったか」

「いや……別に」


 すると、周りから視線を感じた。ああ、俺はやってしまったようだ。


 ……これはまたしばらく面倒なことになりそうだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る