第5話 未来と水族館

 

 土曜日。俺は未来の指名した場所に向かった。そこは水族館だった。デートスポットとしてベタ過ぎる場所だ。


「お待たせ!! 待った?」


 そう未来に言われた。


「大丈夫だ。そんなには待ってない」


 そう、彼女に伝える。実際俺が待った時間はたったの五分程度だし、そもそもまだ待ち合わせの時間ですらない。


 未来が「そう。良かった」と言った後、俺たちは水族館の中に入った。


「わー素敵」


 そう、未来が言った。最初にある水槽、その中には沢山の小さな魚が群れを成して泳いでいた。


「翔太君も、もっとじっくり見ようよ」

「ああ、分かった」


 と言って、俺もじっくりと見始める。そこにいる魚、小さいながらも一生懸命泳いでいて、可愛らしかった。小さいながらも生命力を感じられる。


 そして、未来が移動するタイミングで次の場所へと移った。ウツボたちや、様々な魚たちの水槽、その他様座な素晴らしい魚たちを見た。


 そして、狭い通路絵を抜け、俺たちは大きい広間に出た。そこに来た瞬間、未来が


「すごいよね」


 と言った。俺はそれにつられて、巨大な水槽を見る。すると、そこには大きなジンベエザメがいた。

 俺は正直言ってジンベエザメを見たことがなかった。それどころか、サメすら見たことがなかったかもしれない。だが、その大きさはすさまじい。俺なんかがここに入ったらたぶん瞬殺され、あっさり食べられるだろうなと思えるくらいの大きさだった。するとそんな俺に未来が、


「思ったよりもじっくり見るじゃん」


 と言ってきた。


「未来だってじっくり見てたじゃねえか」

「まあそうだけど、思ったより、自分の世界に入り込んでるなって思って」

「悪いかよ」

「ううん。全然悪くないよ。むしろじっくり見て。でも……もっと前に行こうよ」

「ああ、確かに」


 そして俺と未来は水槽前の席に座り、サメを見る。


「鉄内でいい?」

「ああ」


 そして二人で手をつなぐ。


 それからどれくらいいたのだろうか、俺たち二人はじっくりとサメを見ていた。そしてふと時計を見ると、九時四十五分だった。要するにもう二〇分見ているということだ。そして、未来に「そろそろ動くか?」と訊いた。


「そうだね」と、未来も言って、次の場所へと移動した。


 そして、今度はクラゲのコーナーに来た。俺たちはクラゲを見て、楽しんだ。

 そだが、軽く見て回った後、お腹が減ってきたので、ご飯を食べることにした。

 そこはシンプルなフードコートで、色々な店があり、そこから買うというものだった。俺はとりあえず、から揚げを買いに、未来は焼きそば屋さんに買いに行った。

 そして、から揚げ自体はすぐに変えた。どうやら、ここではから揚げはそこまで人気のあるものじゃないらしく、一人しか並んでいなかったのだ。


 そして、席に戻って未来が戻ってくるのを待った。未来の方を見ると、まだ数人並んでいるようだった。多分あの感じだと、五分くらいかかるだろう。先に食べてもいいところだが、出来るなら一緒に食べたいところだ。


 そして俺はとりあえずスマホゲームをして待つことにした。


(遅いな)


 と、ふと思った。そして、焼きそば屋さんを見ると、もう未来の姿はなかった。どこに行ったんだ? と思い、から揚げを置き、少し歩く。


「なあ、姉ちゃん。頼むよ、俺たちと一緒に水族館回らね?」

「連れがいるから無理です」

「連れ? 俺たちと回ったほうが絶対楽しいぜ」

「いや、私は……」

「そんな遠慮しない方がいいぜ。絶対楽しいからさ」


(何をやっているんだ? あいつらは)


 まあ、言葉で表すのなら、絶対ナンパなんだろうけど、あんなあからさまなことあるか? 明らかに未来が嫌がってるだろ。はあ、仕方ねえ。


「ちょっといいか?」


 俺はナンパ男たちの背後に立ち、そう言った。


「なんだ? お前は。およびじゃないんだよ」

「翔太君!!」

「え?」


 男たちは目を丸くした。未来が今の瞬間、俺に抱き着いたのだ。


「おいおい、冗談きついぜ。もしかしてこいつと回ってるのか? 絶対俺たちと回ったほうがいいと思うぜ」

「余計なお世話です。私は翔太君と回るんで」

「おいおい、やめた方がいいぞ。もし俺の悪口言おうものなら、未来に論破されるぞ」

「そういう事なんで」


 そう言って俺たちは手を組みながら帰って行った。


「本当ありがとう。翔太君」

「いや、もっと早く来たらよかったな」


 そしたら嫌な気分をさせることもなかったのに。


「いや、来てくれただけでうれしい」

「おう。しっかし、何であんな人種がいるんだろうな。明らかに未来嫌がってただろ?」

「うん。めっちゃ嫌だった」

「少し考えたらわかるだろうに。とにかくお疲れ様」

「なんで?」

「ナンパ男に疲れただろうから」

「ありがとう……やっぱり翔太君は優しいね」

「おう」


 そしてご飯が終わり、次もまた進みだした。そこでも多くの魚を見た。ただ一つ、さっきと変わったことがある。未来が若干積極的になっているのだ。もしかして俺がナンパから未来を助けたからなのだろうか。

 今俺は未来と手をつなぎ、たくさんの場所を見て回った。恋人つなぎでだ。


 楽しかった。すごく楽しかった。デートと言うものをしたのは初めてだったのだが、こういうのもありだなと思った。

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