第五話:新たな1ページ
それ以降、冬になるとアウレールは、よく空や木を見上げるようになった。シマエナガをずっと探しているのだ。時にシマエナガの集団が枝の上で押し
だからといって、シュネーが見つかる訳も無い。しかしそれでも良かったのだ。探している行為自体が、シュネーと隠れん坊をして一緒に遊んでいるようであったから。
───あれから二十一度目の冬。三四歳になったアウレールは職に就き御者となり、手綱をとって雪道で馬車を揺らしていた。乗っていた客を降ろすと御者台に座ったまま、やっとこさと一息深く白煙を吐く。冬であっても、街人が少しでも不便にならぬよう精を出していたのだ。
休憩する暇もない──故に、隠れん坊をする時間も減ってしまった。立場上仕方のない事とは分かってはいても、冬の唯一の楽しみであった為か、口惜しい。──立て続けにまた客が来た。振り向かずに仕事を再開する。
「どちらへ?」
「あの…──三丁目のカッツェンナーゼ通りの突き当たりまで行ってくださる?」
「かしこまりました。お買い物ですか?」
「いいえ、息子が見てみたいというものですから。」
「ママー!早く早く!!」
そんな他愛の無い会話をしながら、目的地へと馬を走らせる。
「チーチーッ、チュチュンッ。」
あぁ、折角あの声がするのに、今は仕事中だ。
「チュチュチュチュン!!!」
──アウレールの肩にシマエナガが二匹とまり、耳元で騒がしく鳴き始めた。思わず馬車を止めて肩口のシマエナガ達を見遣ると、二匹は後方へと飛んで行き、窓から客室へと入り込んでしまった。慌ててアウレールは馬車を止め、客室を開けに行く。
「すみませんね──鳥が入って来てしまったよう…………で……────」
謝罪を言いかけたところで客と目が合い、アウレールは言葉を失った。そこに座っていたのは、シュネーに似た大人の女性だったのだ。──間違いない。見間違える筈がない…。アウレールが口を開閉させていると、女性に抱かれていた小さな息子がアウレールを指差して。
「ママー!この人間ちゃまがママの王子ちゃま?」
「ふふ、そうよ?これからこの人のお家に行くのよ〜…。」
「!!──…シュネー……!!!」
──そこで確信した。長年探し続けていた彼女が、会いに来てくれたのだ。シュネーが客室から降りては、息子をアウレールに見せるように抱き直しながら奥ゆかしく笑い。
「ふふふ…驚かせようとしたのに、気付かれてしまったわね?──やっと会えたわ…──アウレール。あの日の事、息子に聞かせていたら気に入ってしまって。同じ事をしたい!って言って聞かないのよ。」
「いいな、いいな!!ぼくも遊ぶ!!あーーそーーぶーー!!!」
びぇぇと駄々を捏ねながら泣き始める息子の瞳と髪色は、シュネーとそっくりだ。後ろ髪だけ長く靡いている。
アウレールは、幸い明日から休日だ。うんと二人を色々な場所に連れて行ってやろうと、寒さも忘れて腕捲りをしては快活に笑い上げながら。
「はは!そうだな、遊ぼう遊ぼう!ママが書いた日記も一緒に読もっか!沢山思い出、作ろうね。───さて!〝ぼく〟のお名前は、なにかなぁ?」
この男の子の…雪の思い出は、どんなものになるだろうか。きっと忘れられない物になるだろう。シュネーとの日々のように。──
シマエナガの飛ぶ先に。 猫月ロア @Nekozuki-Roa
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