第3話 二層の断絶

会合があった二週間後には、親会社銀行が提携解消前に証券会社に出向していた専門部隊(契約により一定期間は当社へ受向禁止)を中心とした業務監査が実施されたが、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)さながらの厳格なものであった。


彼が事前に指摘していた為、ある程度の証拠隠滅や口裏合わせ等の準備が実施されていたようだが、D常務、E部長、F課長は連日の聴聞で油を搾られ、対照的に彼は好意的な協力者として、裏付けに必要な証跡の確認を全面的に任され、彼の主張が殆ど正しいことが証明された。


監査の実施中、D常務の秘書が一身上の都合で退職したが、それどころではなく、大した影響も無かったのだが、彼女の袖机から大量の未処理の領収書が保管されていたのが印象的であり、数か月後に以前の勤務先で横領の疑いで告訴され、逮捕されたという新聞及び雑誌に記事が掲載されると結果的には、怪我の功名で未然に犯罪が防止出来たと笑い話になったようだ。


監査結果を受けて、全面的に組織形態の刷新が必要であることが、明白となったのであるが最大の問題は果たして何処が所管するかであり、当然ながら敢えて火中の栗を拾うことは望まず、結局当社には担当する機能が存在しないという結論となり、資本関係が解消となった旧外資系親会社からG常務が本部長として招聘され、親会社銀行からH執行役が副本部長として就任する予定の投資銀行本部の傘下として再出発することになった。


内部管理体制の強化は、最大且つ緊急の課題であり、親会社銀行から室長が就任し、企業情報管理室として法務部、コンプライアンス統括部等から人員が増強されて発足し、それに伴い関連部署もホールセールを担当する部門が続々と追加されていき、彼は中心人物として大車輪の活躍をしていた。


その後、監査の専門部隊が各々の受向禁止期間終了後、企業情報部に続々と配属となるに従い、彼にとって望ましい環境が継続するものと思われた。


彼にとって、最も不幸であったのは、追い詰められたと思われたD常務が外資系投資銀行へ華麗な転身を遂げたことで、それ以上の弱体化と親会社銀行による締め付けを避けたいとの思惑から、彼に対する反撃の狼煙が立場を問わず高まったことである。


弱り目に祟り目とばかりに、配属された受向者は、一転してこれ以上の内部管理強化は望まず、クロスボーダー及びセクターカバー体制を推進することに全力を尽くすようになったのであった。


四面楚歌の状況における一条の光は、I室長であり、親会社銀行からの受向者ではあったが、証券会社には出向していない異色の経歴で実務面の経験豊富では無かったが、実直な調整型のスタイルは彼にとっても幸いであった。


配属後、I室長が一番に着手したことは、所属員全員と二時間の面談であり、彼の順番は最後だったので、大いに不満であったが、彼との面談時間は通常の二倍である四時間で期待されていることが伝わり、彼の自尊心を大いに擽ったようで、梯子を外されたと愚痴の多かった彼からの連絡が、これを境に暫く滞ったのだった。


I室長は開口一番、「私は吸収された側の所謂東京の銀行出身で総務畑の汚れ仕事に携わっていたので、何を言っているかよりも誰が言っているかによって忖度をして、明らかに黒であっても組織的に灰色判定をしていた結果、身の丈を超えたバブルが破裂するまで見えないふりをしていたことを何より後悔しています。勝者である所謂大阪の銀行主導の敗戦処理によって、それ以降は支店経験だけなので、浦島太郎みたいな者です。様々な部署を経験されている皆様(今回の異動で法務部やコンプライアンス統括部からも配属された)が仕事を進め易いように調整していきたいと思っています」と言い、企業情報管理部でなく、室扱いとなったことで、ポストに魅力がなくなり、実務経験者が尻込みして結果的に役職定年対象(五十二歳)であり、片道切符でお鉢が回ってきた裏話まで開帳して自嘲気味に自己紹介をした。(支店へ異動したのも、旧行意識による縄張り争いの側面もあるが、彼によると過去を反省したI室長が正論を曲げず妥協しなかったことも大きな要因のようだ)


I室長によると親会社銀行では、出身大学(場合によっては出身高校も対象)により、入行時にある程度席次が決まっており、総務部、人事部、企画部の本社花形部署と本店や旗艦店の法人営業部に配属される一部のエリート層とそれ以外の支店に配属される非エリート層に分断されているのが実情であり、吸収合併の繰り返しによって、更に先鋭化しており、冗談交じりにカースト制度よりも複雑だと自嘲気味に話した。


その弊害は極端な銀行員、特にエリートの無謬性が拠り所となっている為、時代錯誤で現状には対処出来ないとの問題意識を持っており、彼の内部通報が引き金となった業務監査の結果と今後推進される予定である内部管理体制の構築が金融機関にとって重要な意味を持っていると最大限の賛辞を送ると共に、今後金融機関の二つのタイプの不祥事が露呈すると断言した。


一つはエリート層による組織防衛を意図した隠蔽であり、もう一方は非エリート層による処遇への不満がモラルハザードを引き起こすという考えであり、彼はその考えに共鳴しつつも冷静に後者に関しては現場対応で低減出来るが、前者に関しては悪意を持つ上席者の暴走を止めることは出来ないと持論を開陳したようであるが、そのような遣り取りも含めて興奮気味に私に語ってくれた。


企業情報部はプライベートサイド(法人関係部門)なので、会話の録音こそしないが、外部送信メールの確認、個人別・案件別フォルダの閲覧権により、情報管理を体系化すると共に業務用PCや携帯端末の使用状況により労務管理も包括し、印刷物の置き忘れや会議室の音漏れ等の物理的な解決が可能である措置は、彼の提言の通り順次採用され、目に見えて前進していった。


銀行協働に関しては、I室長と所謂大阪の銀行の総務畑出身でコンプライアンス統括部に受向しているZ副部長の二人が専門的に引き受けてくれていたので、煩瑣な人間模様に翻弄されることなく、内部管理体制の強化に邁進出来る背景であったが、戦略的に推進していくに伴って、「後からトスアップ」と「案件化による情報遮断」の二つの問題が噴出し、現場では対応出来ない水準となりつつあった。


「後からトスアップ」とは、独自に推進していた案件を途中で銀行の担当者の耳に入ってきて、銀行紹介案件にしてくれと捻じ込んでくることで、ヤクザノケツモチ若しくは典型的な名刺ジャンケンになってしまい、時間と労力の浪費と虚脱感だけが残る不毛な議論であり、「案件化による情報遮断」とは、銀行トスアップ案件のパーティーリスト(関与者一覧)には銀行担当者が記載されるが、途中から債権者である親会社銀行と利益相反が発生する可能性があるので、情報遮断を実施することであり、その状況を案件化とする定義の問題である。


現場からの悲鳴と親会社銀行からの突き上げとの板挟みで身動きが取れないので、コンプライアンス統括部と対応策を協議することになったが、どのような観点から論点整理すべきかが把握出来ていない為、I室長は彼に同席を求めた。


アジェンダ(協議事項)に沿って会議を取り仕切っているZ副部長は、「後からトスアップ」の論点は実態の把握が重要で、どの時点でクライアントのニーズを聴取していたかが判断基準とすべきとしていたが、彼は最終的にはクライアントの意向であり、強引に働きかけることは現状の混乱を鑑みて、避けるべきという判断が妥当と考え、問題の本質もコンプライアンスの範疇でなく、評価制度に属する事象であり、付加価値を生じない分配の問題に守備範囲を拡大する余裕がないと主張し、仮に企業情報管理室で判断するのであれば、判断基準及び証跡として経緯を記録する必要があると指摘した。


Z副部長は、「銀行の現行制度では不備があるということですか」と高圧的に反論し、それ以降の不規則発言を封じた。


反対に「案件化による情報遮断」は、証券で積極的に関与せずに有耶無耶にしたい意向を持ち、債権者として関与することは妥当との立場であった。


この問題は過去に大手証券会社との提携解消となった要因であり、親会社銀行にとっては株式保有比率が過半数未満だから、情報遮断されていると隔靴掻痒たる苦い思いを持っていたからであり、全株保有の現状では問題ないと言質を取りたいとだけ考えていた。


彼は重苦しい空気を意に介さずに論点は株式の保有割合ではなく、利益相反の問題であると主張し、債権者の立場としてクライアントの資金計画に介入することが問題であり、銀行内でも情報遮断は不可欠と判断すべきであり、別会社である場合は証跡として経緯を記録する必要があると指摘した。


Z副部長は、「守備範囲を拡大する余裕がないと言いながら、証跡を残すという業務負担を増加させる主張は、矛盾するのではないですか」と忌々しげに反論し、「ご意見として承りますが、銀行と同様の基準なので、原案を叩き台にして微調整する方向でよろしいでしょうか」と議論を打ち切ろうとした。


彼が口を開こうとすると同時にI室長が挙手し、Z副部長が発言を許可した「とても重要な論点でもあり、このようなご時勢ですから、当局若しくは法律事務所の判断を仰いでは如何でしょうか」と言うと、Z副部長は「この程度のことで当局に確認していたら笑われるので、私の方から法律事務所に確認して次回報告させて頂きます」と再度会議招集することで散会した。


会議後、I室長から「検討項目とあるが、実質上決定項目であり、押し切られると諦めていたが、一緒に来て貰って良かった」と正直に吐露すると共に「事前説明もなしのまま参加させて、申し訳なかった」と頭を下げ、「後は法律事務所に手を回して判断を仰ぐことにするので、後は私に一任してくれ」と言われたことに、彼は納得出来ずに「せめて次回の会議には参加させて下さい」と伝えると「今回も議論には勝ったが、Z副部長の不興を買ったことは間違いないので、これ以上危ない橋を渡らせることは出来ない」と譲らなかった。


「後からトスアップ」は、企業情報管理室に丸投げして、否決された案件も横車を押して取り上げることで上席に対して、恩義を売ることで権限を拡大したいだけであり、法律事務所から証跡が必要との報告を受けて、協働を推進するという大義の元、営業管理職によるビジネスジャッジで決着し、「案件化による情報遮断」も法律事務所から証跡が必要との報告を受けて、掌を返すように親会社銀行内でも必要であると自ら運用方法を提言して、地位を盤石にする方策として活用したことは敵ながら天晴と言わざるを得ない。


D常務の後任は、親会社銀行出身のJ常務が就任し、G常務と共同本部長となったが、彼と同窓で大学スポーツの花形選手で叩き上げのJ常務と旧外資系親会社の過去の栄光に縋るG常務よりも所謂大阪の銀行で企画畑エリートであるH執行役が牛耳る歪なトロイカ体制としてスタートした。


J常務は就任挨拶の中で、親会社銀行グループとしての体面上、リーグテーブルを意識する必要があるが、日本経済の活性化を支える為、中小企業の事業承継にハッピーリタイア(早期勇退)を追加し、有望な技術を花咲かせる投資であるシーズインベストメント(青田買い)を強化する重要性を力説し、時価総額至上主義で多くの離反を招いた旧外資系親会社の轍を踏まぬようにクロスボーダー及びセクターカバー体制一辺倒に釘を刺し、スモールキャップ強化による基盤の拡大も宣言したのであり、企業情報管理室会議の席では、投資銀行業務は重要情報を取り扱うプライベート・サイドに属するのでインサイダー情報等の経済面及び水平的観点が重視され、M&A業務に該当する重要情報は、特に売り手の場合には生殺与奪の鍵を握っていることを意識して、倫理面及び垂直的観点も併せ持って業務を推進するように激励した。


定例の投資銀行本部会終了後、彼の元にH執行役が本部会資料として現在進行中のTOBに関する情報を追加して欲しいと依頼してきたので、所管部署であるF部長(産業別カバー制度の実施に合わせて企業情報業務部に昇格)に相談して頂くように促すと、「案件システムで検索すれば済む問題なので、大袈裟にすべきでない」と言ったので、売り言葉に買い言葉で「作業量の問題でなく、インサイダー情報に関わる資料なので、一存では作成出来ません」と返答したところ、烈火の如く怒り「上席からの命令への返答が侮辱とは思わなかった」と罵声を浴びせると踵を返して、G常務を伴って来て、一方的な説明だけして、彼は姿を消した。


詰問される彼を目にしたI室長が、G常務を執り成して、場を収めると彼の聴取を実施して、会議を招集し、全員に対し事情を説明して一人一人に意見を確認すると大勢は彼の主張は正論であるが、諸般の事情を鑑みると作成は止むを得ないとの判断であった。


I室長自身は個人的には反対の立場であっても決定に応じるものの、作業量と正確性を考慮して企業情報業務部からの情報に基づいて、企業情報管理室で作成して本部会に提出するという決定をG常務に報告した。


翌週、彼にJ常務から執務室に来るように連絡があり、訪問するとI室長も同席しており、H執行役との一件は、「執拗に求められていたが固辞していた、間隙を縫って既成事実にされてしまった」と苦渋の表情で語り、更に彼を処分するように圧力を掛けてきており、全面的に支持しているので更々そのつもりはないが、目先を変える為、大阪企業情報部の内部管理責任者として赴任して欲しいとの打診であった。


本来であれば、親会社銀行出身者が赴任すべき地位であるが、所謂大阪の銀行、特に大本営(大阪本店営業部)を筆頭に御三家と呼ばれる法人営業部(以降、法営)の威光が巨大で法人業務推進部(以降、法業推)による一元管理の最大の障壁であり、敢えて火中の栗を拾う物好きは皆無である為、長い者にも巻かれない彼に対して白羽の矢が立ったようである。


一週間後には正式に発令され、二週間後には大阪に赴任したが、歓送迎会は東京では形式的な冷淡なものであったが、大阪はJ常務からは出席こそしないものの過分な差し入れを頂き、I室長は部室訪問も兼ねて出席して頂き、盛大な歓迎に奮い立たされた。


翌日、親会社銀行受向者であるKが、折り入って相談したいと個室へ案内し、部長は超が付くエリートであるが、所謂東京の銀行出身で一年後には役職定年を迎えるので、当然士気が低く、L副部長は所謂大阪の銀行出身であるものの管理職というよりも自分が最前線に痛いタイプで相性が悪いので、このままでは、守り続けている予算達成が覚束ないので、各法営との調整を依頼したいと打診された。


大阪でも親会社銀行訪問で多忙なI室長に相談するとビジネスジャッジは回避し、コンプライアンス面であれば調整可能とのことであったので、Kと共に大本営の次長と面談することとなった。


大本営の次長は見るからに押しの強そうなタイプであり、用件も斡旋手数料(ソーラーパネル設置及び自動販売機設置等)を親会社銀行では受け入れることが出来ないので、不動産手数料を超過する部分をコンサルタント等の名目で迂回して計上し、証券から還流することが出来ないかとの内容であり、断固拒否すると「可能性も検討せずに黒やったら、ガキの使いと同じやろ、何とか灰色にする知恵を出せ」と激高し、Kもある意味断る理由探しと考えていたようで、「コンプライアンスの判断ですから」と促すと、「今すぐI(室長)呼べ」と無理筋を押し通し続け、彼がI室長に連絡すると「今すぐ戻ります」と返答があり、当の次長はケロッとして「こうなったら、お前(彼)を道連れや」とI室長の帰りを待った。


約一時間後、I室長の到着の音がすると、談笑していた次長が机を叩いて「なめとんのか」怒声と共にI室長が恐縮しながら入室する際、次長がこっちを向いてペロッと不健康そうな舌を出したのが見えた。


勝負は始めから決着していた、場の雰囲気に飲まれていたI室長は、移動中にJ常務の指示を仰ぎ、三点の項目(1)顧客の了承(2)アドバイザリー若しくはコンサルティング業務契約の締結(3)最終成果物の提出若しくは企業情報業務部による同行訪問の順守を最低条件として、認め安易な適用を認めず彼ではなく、I室長を窓口(親会社銀行の汚れ仕事に巻き込まない配慮)として管理するホットライン案件(通称、領収書発行業務としてKよりも副部長が利用)として一元管理することで収束し、I室長が最後に搾り出すように「エレベーターホールから声がまる聞こえだったので、大阪拠点の防音化は必須という問題が発見出来ました」と指摘した時は苦笑せざるを得なかった。


利に敏い大阪のことであり、御三家を中心に広まったようだが、彼には偶に次長から「ホットライン案件やから大至急よろしく」と連絡がある位であり、それ以外には反社会的勢力リストは証券が厳密だったようで、銀行と平仄を合わせ、「後からトスアップ」のゴリ押し、「案件化による情報遮断」の形骸化等の所謂大阪のエゲツナサの洗礼をある程度受けたのであった。


大阪での業務に慣れて、予定通りL副部長が横滑りで部長に就任すると八方美人で軽率な部長に代わりに重苦しい判断をせざるを得ない場合も事前にI室長と調整して上手くこなしていた彼に寝耳に水の事態が発生し、大人の事情に巻き込まれることになった。


H執行役がインサイダー取引の疑いで取り調べを受けることとなり、E部長及びF部長からは埒外である大阪にいるので、H執行役との件、その後の経緯に関しても一切口外しないように執拗に求められ、定例の電話会議への参加も制限され、第三者機関による調査も大阪拠点は関係無しで蚊帳の外に置かれることになった。


大本営の次長面談後、急速に親密になったKから受向解除希望を提出したことを打ち明けられ、その理由としてH執行役を筆頭に証券受向役員は、傾向として旧態依然な護送船団方式を維持したい勢力ばかりで見通しが暗いと考え、白と黒についての判断も親会社銀行よりも「お客様より上司様、上司様より銀行様」と、善悪の意識に乏しい阿諛追従の徒ばかりで、将来の社長候補である軍曹の綽名を持つバブル戦犯でもある副社長が軍配を振るうことで悪夢が繰り返されることが粗確実であると考えたからであった。


更に追い打ちを掛けたのが、自店監査会議の為、来阪したI室長との面談であり、今期限りで受向解除となり、銀行本体の監査部に異動となること(これ自体は役職定年の延長で喜ばしいことであり、I室長も彼に感謝して、大変喜んでいた)とインサイダー取引事案を幕引きしたい勢力(因縁のZ副部長はその筆頭格)から疎まれていることを警告されて、後任の部長(今回、晴れて企業情報管理部に昇格したこともI室長外しの理由であった)はクロスボーダー推進の急先鋒であり、ホットライン案件の存続は絶望的であり、継続中の案件対応及び新規案件の停止は双肩に掛かっている(日帰り出張の予定が東日本大震災発生により、I室長が急遽ビジネスホテルに宿泊することになり、近隣の居酒屋で四方山話として聞き、饒舌になった時に聞き出した非公式情報であるが、その後の経緯による裏付けあり)と後事を託された。


新体制は、従前にI室長が予見したよりも過酷なものであり、彼は針の蓆に座らされているも同然で、新部長はインサイダー取引疑惑の原因が旧企業情報管理室の体制にある(実際に反対したのは、彼とI室長及びJ常務であり、それ以外の者は止むを得ないとの判断をした)と指摘し、ホットライン案件に代表される所謂大阪的な体質からの脱却を前面に掲げ、機能を東京一極の集団指導への移行を宣言した。


大阪は梯子を外された結果、大本営を初めとする法営から突き上げられ、過去の軋轢から法業推にも疎まれていたので、大阪のL部長は双方からの要求に悲鳴を上げ、頭を悩ましている上、日々の不摂生による肥満体質に加え、男寡世帯の負担により、脳梗塞で緊急搬送(無事、退院して受向解除後、取引先企業に転籍)されてしまった。


J常務から彼も箔をつける為、銀行出向とバンカーへの異動について打診を受けたが、「臭い物には蓋」と穿った見方をして、古巣である公益法人本部への異動を希望したのだが、下衆の勘繰りであり、純粋に高邁な理想を掲げて、部内の融和を率先して推進していたが、一番の誤算は、D元常務からのお零れに群がる以外に能力の無い飼い殺し状態であったプロパー社員達が、レインメーカー(案件探し)としても失格であり、「お客様より上司様、上司様より銀行様」と法営及び法業推の使い走りさえも不適格であり、親会社銀行側の侮りを受けたこと、人数及び政治力で上回るクロスボーダー及びセクターカバー体制を目指す勢力との恒常的な駆け引きやインサイダー取引疑惑等敗戦処理に忙殺され、彼の希望通りに公益法人本部への異動を適えてくれた数年後に早すぎる生涯を閉じるのであった。(合掌)

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