第4話

   

 帰宅後。

 おそらく真夜中くらいだろうか。

 眠っている私の夢の中に、あの黒猫が現れた。


「こんばんは、お嬢さん」

 夢だから現実にはありえない現象も起きる。

 黒猫は猫の姿のまま、人間の言葉で話しかけてきた。

「お嬢さんの言う通り、私は月から来た者です。月の女王と共に月で暮らし、月の女王に付き従う一族……。『つきびと』と呼ばれる種族です」

「月の女王……? 月には女王様がいるの?」

 夢の中の私は、自分が夢を見ていることを認識。「どうせ夢だから」という気持ちで、驚き慌てることもなく、普通に猫と会話する。

「はい。ただし成人するまで、つまり『姫』の間は月でなく、修行として地球で生活する決まりになっています」

「月のお姫様が地球で暮らしているの? それって、もしかして『竹取物語』みたいな感じ?」

「そうですね。ちょうど『かぐや姫』の伝承に相当しますし、それでいうならば……」

 ここで黒猫は、声のトーンが暗くなった。

「……かぐや姫を迎えに来た『月からの使者』が私になります」

「へえ。月の使者って、人間じゃないならウサギのイメージだったけど……。実際には黒猫だったんだね!」

「いえいえ、私も本来ならばヒトの姿をしています。お嬢さんと同じく、人間ですよ。今こうして猫なのは、任務失敗の罰。一種の呪いみたいなものです」


 月の姫を迎えに来たのに、彼女が月への帰還を拒んだために、任務失敗となった。そのためヒトの姿を失ってしまったが、今からでも姫を説得して、月へ帰らせることが出来れば「呪い」は解けるはずだという。

「でも猫の姿では行動も不自由で、姫様のお宅を訪ねることすら大変。ましてや、説得なんて不可能に近いでしょう。だから協力してくださる地球人が必要なのです。お願いします、お嬢さん!」

「えっ、私?」

「お嬢さんは私の『望郷の念』を感じ取り、私が月から来たことも見抜いてくださった。いわば心が少し繋がったわけで、だからこうして夢の中にお邪魔することも出来ました。まさに奇跡の邂逅です」

「『奇跡の邂逅』だなんて、そんな大袈裟な……」

「大袈裟ではありません! 現時点で私が意思疎通できる地球人は、お嬢さんしかいないのですから! だからお願いします、お嬢さん! あなただけが頼りなのです!」

   

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