第13話 初めての戦い
一歩二歩と近づいてくる猫の獣人にどうすればいいかと戸惑っているとミーコちゃんたちが私を守るかのように前に出た。
「ユーコをいじめるな!」「いじめちゃメーー!」「めーー!」
「邪魔をするんじゃねーよチビども、まとめてぶち殺すぞ!」
その言葉に血の気が引く、自分が言われた時にはどこか遠い世界のような感じで実感がわかなかったが、もしこの子たちまで巻き込まれでもしたら死んでも死にきれない。
「待って、この子たちは関係ないでしょ、手を出さないで!」
ミーコちゃんたちを後ろに下げながら改めて私が前に出る。
「ふん!こちとらわざわざこのチビどもに手を出す気はねーよ、あのクソ狐に目を付けられたくねーしな、お前が大人しく殺されれば何もしねぇ」
「お、大人しく殺されるのはごめんだけど、私とあなた1対1、他の子たちには一切手を出さない、それでどう?」
「は!俺に勝つつもりなのかよ?ひ弱なクソ人間のメスがたった一人でよ!」
「勝てるかどうかなんてわからないけど、この子たちには手を出させたりはしないんだから」
「ユーコ」「ユーコ…」
後ろに下げたミーコちゃんたちが足にしがみついてくる、正直に言うとこの子たちを抱っこして逃げ出したい、でも何も抱えず普通に走ったとしても獣人の速さにはかなわないだろう、それはさっき体験したところだ、だったらせめてこの子たちだけでも守ってあげないと。
「私は大丈夫、危ないからみんな下がっていてね」
私が笑顔でそう言うとミーコちゃんたちはしぶしぶと村のほうへと下がっていった。
「別れは済んだか?」
「ありがとう、待っていてくれたんだ」
「は、そうじゃねえ、俺が不意を狙ったと思われたくないだけだ」
言葉遣いとかは荒っぽいけどちゃんとプライドとかはあるみたいだ、野盗とかみたいに恥も外見もなくヒャッハーしに来られたらどうしようもなかったけどこれなら…身体能力じゃどうしようもないけどプライドのほうを何とかして刺激できれば…。
「それじゃあ、いくぞ!」
「ちょっと待って!人間の女である私が素手で獣人の男であるあなたに勝てるわけがないじゃない!せめて準備をさせて!」
「まぁ、たしかに人間には俺たちみたいな鋭い爪や牙はないからな、いいだろう、で?どれくらい待てばいい?」
「10分…いえ、5分でいい、村に装備を取りに行っても?」
「ふん!それぐらいならいいだろう、ただし逃げようなんて考えるなよ、5分を過ぎれば村にいる奴らがどうなるか…」
「わかってる、逃げたりなんて絶対にしない」
そう言って優子は村のほうへと駆けだした。
「ち、五分どうやって暇をつぶすか…おい!ミャム!尻を出せ!」
「は!?何を言ってるにゃ!こんなところでなんて絶対に嫌にゃ!」
「いつもやってるところと何が違うってんだ!」
「ぜんぜん違うにゃ!ガルムスはデリカシーがないから嫌になるにゃ!」
「なんだっていうんだ、まぁいい、じゃあニャミナ、いっちょ頼むわ」
「どうしてそんな代わりに…みたいに言われて応じると思ってるにゃ?どっかに落っことしてきたデリカシーでも探しに行ってくるといいにゃ」
なんやかんやと獣人たちがもめていると優子が戻ってきた…でっかいふさふさをもって…。
「…?なんだそのふさふさしたものは?魔法の杖か何かか?」
「私は魔法とかは使えないから魔法の杖とかじゃないよ」
そう、魔法とか一切しかけられていない、これはテレビとかでライオンとかように使われていたただの巨大猫じゃらしだから。
「ふん、そんなもので何をする気かはしらないがいくぞ!」
「見せてあげる!私が猫カフェで培ったじゃらしテクを!」
お互いの距離は20メートル前後、ネコ科のスピードなら一瞬だろう、その前にこの猫じゃらしに興味を持ってもらわないと…
まずは大きく左右に…そして時に細かく振る、たまに高さも意識した山なりに…フリフリ。
「なんだ、その動きは!俺をからかってやがるのか!」
そんなことを言いつつも視線が猫じゃらしを追ってるし尻尾が大きく左右に揺れている、よしよし、興味津々だね。
「なんなんだ!かかってこないのか!?メスだから先手を譲ってやろうかと思っていたがこっちからいくぞ!」
焦らずにふーりふーり…あ、尻尾の形が変わった!今だ!大きく振って体の横で細かく!
「シャーーーー!」
爪をむき出しにしてこちらに飛び掛かってくるが猫じゃらしに気をとられていたせいかわき腹ぎりぎりのところをかすめていった、私としては狙い通りのところへ誘導できたのですれ違う瞬間に相手の顔の前にあるものを生成する。
「『獣具生成』希釈用マタタビエキス原液!」
薄めて香水代わりに軽くシュッシュしてから猫カフェに行けばゴロゴロにゃんにゃんのフィーバータイムに突入する素敵アイテム、一度つけすぎてにゃんこたちがへにょへにょになっちゃって店員さんにこってり絞られたのはいい思い出だよ、それを原液でプレゼント!
バシャッ
「う!ペッペッ!な、なんだこれは!」
「私の生まれた国で作られた猫まっしぐらな香水の原液だよ、猫の獣人にどこまで効くかはわからないけどまったく効かないってことはないでしょ」
さっき村へ行ったときに作れるかどうか試しておいたんだよ、最初は『餌生成』で作れるかと思ってたけど、餌ではなく嗜好品扱いなのか『獣具生成』でしか作ることができなかった。
「お、俺たち猫人族をただの猫といっしょにするんじゃにぇ~…!?」
「早速効いてきたみたいだね、早く洗い落とした方がいいよ、普通の猫だと量によっては呼吸困難を起こして死んじゃう子もいるらしいし」
死ぬかもしれないと聞いて慌てて小川のほうへ行くが、足がもつれ顔から川に突っ込んだ。
「ぶは!ちくひょう、なんらっれんら…(ちくしょう、なんだってんだ…)」
もはや呂律も回らないらしい、ちょっとやりすぎたかな…命を狙われているとはいえ猫ちゃんを殺したいわけじゃないんだよね。
「ねぇ、そんな状態だとまともに動けないよ、ここまでにしない?」
「ふらけんら!ほんなもんらんれもれえ!(ふざけんな!こんなもんなんでもねぇ!)」
ふらふらと立ち上がり爪を振り上げこちらに向かってきたが途中で再度足がもつれずっこけた、ふぅ、しかたないな、もう一段プライドをへし折るか。
四つん這い状態になっている獣人に近づいたがマタタビが効いているのか攻撃をされることはなかった、もう結構ギリギリなんだろうなと思いながら、傍によって腰をとんとんしてあげる。
「てめぇ、ふぁにひやがる!(てめぇ!何しやがる!)」
トントントントントン…ゴロゴロゴロ
そう、にゃんこが大好きな尻尾の付け根トントンである、まぁたまに嫌がる子もいるけど。
トントントン…
「ひゃ、ひゃめやがれ!(や、やめやがれ!)」
ゴロゴロゴロゴロ…
「口では嫌がってるけどゴロゴロが止まらないようだね」
「あ!こいつおっ勃ててるにゃ!」
「ほんとだにゃ!人間相手に変態にゃ!」
背中の方から見下ろす形になっている私からは見えないけど、後ろにいる彼女たちからは何かが見えているらしい、うん、特に見たくもないけどね。
にゃんこの尻尾の付け根はいろんな神経が集まっていて、女の子は発情しちゃう子もいるらしいけど、異世界だと男の子にも影響しちゃうのかな?
「ひ、ひがう!おれはへんらいひゃへぇ!(ち、違う!俺は変態じゃねぇ!)」
う~ん、まだ折れないかぁ…まぁ、こっちとしては思う存分トントンナデナデできるからいいんだけどね。
「ひゃめろ~~~~~~……」
そこから一時間近く頭をなでながら尻尾をトントンしてあげた。
「く、くそ!今回は俺の負けにしておいてやるが今度会ったらただじゃおかねぇからな!」
あ、一応負けは認めるんだ、しかしテンプレ台詞はこの世界でもあるんだね、ちょっとびっくりだ。
「お前ら、さっさと戻るぞ!」
「は?人間のメスに負けるような奴についていくわけないにゃ!」
「しかも人間のメスに興奮して股間を膨らませるなんて変態丸出しにゃ、一人で帰ればいいにゃ」
「こ、興奮なんかしてねえ!!お前ら、人間につくっていうのか!」
「人間につくとは言ってないにゃ!」
「ガルムスにはつかないと言ってるだけにゃ!」
「ちくしょう!お前ら後で後悔しても遅いからな!」
見事な負け犬の…負け猫?まぁ、負け犬でいいや猫は遠吠えしないしね、負け犬の遠吠えを残して川の向こうへと消えていった。
「行っちゃったけどいいの?」
「いいにゃ、男どもは守ってもらうためと子供を産むために一緒にいるけど、弱い男に興味はないにゃ」
「はぁ、あんな弱い男の子供が腹にいると思うと気が重いにゃ」
え?お腹にって、妊娠してるってこと?
「お腹に子供がいるなら余計に一緒にいた方がよかったんじゃないの?」
「はっ!男どもは子育てには協力しないにゃ」
「家を守ったり獲物を狩ってきたりするけどそれだけにゃ」
「それって結構大事なことなんじゃあ…」
「だ・か・ら人間とチビどもの家にお世話になるにゃ」
「チビたちの村にいれば他の獣人たちは手を出したりはしないしにゃ」
うーん、そのあたりはコリス族の皆に聞いてみないとだけど、あの子たちなら普通に受け入れそうだよね。
「それはみんなに聞いてみてからだけど、まずチビじゃなくてコリス族ね」
「こりすぞく…にゃ?」
「そう、一緒に暮らすなら相手のことをチビとか言っちゃダメ、それから私は人間じゃなくて優子って呼んでね」
「ユーコにゃ?ウチはミャムにゃ」「アタシはニャミナにゃ」
「ミャムにニャミナね、よろしくね」
「「よろしくにゃ」」
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