第10話 みんなの宝物2

 ふぁ、ちっちゃ!え?可愛い!コリス族はただでさえ可愛いのにさらにちっちゃいって!最高かな!というかそんな持ち方して大丈夫?首座ってる?


「はい、ユーコだっこしてあげて」「キツネさんも」


 そして私とカエデはミーコちゃんたちから赤ちゃんを受け取った、受け取ってみるとその小ささがさらに際立つ、両掌から少しはみ出すくらいの大きさしかない。


https://kakuyomu.jp/users/hutabasinobu/news/16818093074761528338


「すっごい小さい…」


「でもおっきくなってるんだよ、生まれたときは親指くらいの大きさしかなかったの!」


 え?ミーコちゃんの親指って、私の小指の先ほどの大きさもないってこと?たしかにパンダとかカンガルーとかすっごく小さな赤ちゃんを産むって聞いたことあるけど、コリス族もそんな感じなのかな?


「みぅ~~~…」


 私が赤ちゃんの小ささに衝撃を受けていると手の中の赤ちゃんがか細い声で鳴いた、そして収まりがよい場所を探すようにクリクリと体をよじらせる、ハムスターとかにもよく見られるがあれほどちょこまかとした動きではなく、やや緩慢な動きではあるが落ち着く場所を見つけたのか動きを止め、「くぁ…」っと大きなあくびをした、そしてちょうど顔の近くにあった私の人差し指をぱくっと口に含んだ、といっても口の大きさ的にほとんど口内には入っておらず指先に吸い付いているような感じである、吸い付いた指を支えるように小さなモミジのような手を添えてちうちうと指を吸い始める。


「ほぎゃ~~!かわいしゅぎる~~~」


 あまりの可愛さに大声で叫びそうになるが、なけなしの理性で押し込める、いかん可愛すぎて鼻血出そう…耐えろ私の毛細血管!


 などと変な気合を入れていると、ミーコちゃんが私の手の中の赤ちゃんを覗き込み、指を一生懸命吸っている赤ちゃんのほっぺをぷにぷにと突っつく。


「えへへ、赤ちゃんかわいいね」


 オマエモナーーーーー!!天使かな?いや、すでに天使なのは知ってるけど、なに?天使合体でアークエンジェルにでもなるの?く、恐ろしい、コリス族は可愛らしさにおいて無限のポテンシャルを秘めているとでもいうの…


 はっ!こんな可愛さの直撃を受けたらカエデは!


「はぅぅ、かわいしゅぎるのじゃ…」


 か、カエデもはや顔が放送コードに引っ掛かりそうなレベルにとろけてるよ!


「カエデ…顔、顔がやばいよ」


「じゅる、おっといかんいかん、この子らを怯えさせてしまうところじゃった…しかし…ほんに可愛いのぉ」


 あ、だめだこれそう簡単には復活しないやつだ、まぁいいや、たとえ醜態をさらしても自己責任ということで…今はともかくこの子を愛でなければ!


「よちよち…あ、ほっぺすごいぷにぷに」


 吸われている手とは逆の手の指で頭やほほをなでていると頬っぺたのあまりの柔らかさが癖になりそうだ、猫の肉球に匹敵する魅了の魔力を秘めている気がする、恐るべし頬袋…。


「みんなの宝物ってこの赤ちゃんのこと?」


「うん!赤ちゃんはみんなの宝物なの!みんなでいっしょに育てるの!」


「一緒に?」


「そうじゃ、コリス族は一度に5、6人の子を産む、それにこの子らは成長しても子供のような心を持っておる、それゆえ一人では世話は難しいからそういった文化が生まれたのじゃ」


「あ、カエデ正気に戻ったんだ」


「ん、んんっ!べ、別に正気を失ってはおらん」


 ああ、うんそうだね、正気は失ってないね、失ったのは世間体のほうだね、と生暖かい目でカエデをみつめる。


「ぐ、な、なんじゃその目は!」


「しー、赤ちゃんがびっくりしちゃう」


「ぐぬっ…後で話がある、あるからな」


 はいはい、わかりましたよっと。


「くぁあ…」


 その後赤ちゃんはひとしきり指ちゅぱして満足したのか、大きなあくびをし、ころりと寝返りをうっておなかを上にして寝息を立て始めた、いわゆるへそ天である、こんな森の中で暮らしているのにこれほど無防備でいいのだろうかこの生き物は…


 しかし、寝息とともに上下するポンポンがとても愛らしい、このままポンポンに顔をうずめてすぅってして(吸って)ぷぅってしたい(吐く)、でも猫?吸いはともかく腹ぷぅは起きてしまう公算が高い…ぐぬぬ、ここは猫吸いだけで我慢すべきか、腹ぷぅも捨てがたいが自らの欲望のためにおねんね中の赤ちゃんを起こすのは本意ではない、ここは猫吸いができるだけで十分としよう!…いざ!


「そなたはさっきから何を百面相をしておるのじゃ」


「うぐっ…邪魔しないでカエデ私には崇高な使命があるの!」


「まったく、人には静かにするように言っておきながら…」


「む…」


 カエデの指摘に慌てて口を噤む、幸いなことに掌にいる赤ちゃんは変わらずすやすやと

可愛らしい寝息を立てている、むぅ、これ以上騒ぐのもあれだしカエデにも猫吸いの魅力を知ってもらってこっち側に引き込むか。


「カエデ、今から言うことを真似してみて」


「ぬ、なんじゃ唐突に」


「いいから、やってみたらきっと気に入るから」


「ミーコもする!」


 う~んカエデはもともとこっち側だからきっと気に入ると思うんだけどミーコちゃんはどうなんだろ?まぁ、害があるわけでもないし試すだけでもいいか。


「それじゃあミーコちゃんは私と一緒にしよっか」


 ミーコちゃんだとおなかを吸う体勢で持てないだろうし、私が赤ちゃんを持っていてあげた方がやりやすいと思う。


「まずは赤ちゃんのおなかに軽く鼻をつけます」


 私の言葉に従い二人は赤ちゃんのぷっくりとしたポンポンに鼻を近づける。


「そして吸います!」


「「すぅ…」」


 カエデよりも先にミーコちゃんが顔をあげる。


「赤ちゃんのにおい!」


 あ、うん、そうだね、ミーコちゃんにとってはいつも嗅いでる匂いだもんね。


「すぅぅぅぅぅ……」


「ちょっ、カエデ息吐いて!息!」


「はっ!ふぅぅぅ…なんじゃ、うっすらとミルクのような香りとコリス族の匂いがするだけなのじゃが、なぜか癖になる…」


「わかる、わかるよ、たいした匂いなんてしないのになぜか癖になる、それが猫吸いの魔力なんだよ」


「ねこすい?なぜ猫なんじゃ?」


「ん~、私のいた国では身近な動物といえば犬か猫だったからね、多分だけど猫のほうがきれい好きだしおなかを吸ったときに大人しくしててくれる子が多いから、猫吸いと言われるようになったんじゃないかな?犬はテンションが上がっちゃう子が多いから」


「むぅ、しかし猫吸いか…すぅ…はぁぁぁ、不思議と幸せな気分になるものじゃな」


 うんうん、そうでしょうとも、モフモフ好き、可愛いもの好きが猫吸いを覚えたらもうたまらないよね、ふぅ、また一人沼に落としてしまったか…。


「それじゃあ私も失礼して…すぅぅ…はぁ…」


 ふぁぁぁぁ、赤ちゃんのおなかの毛が柔らかすぎるぅ、そこらのファーなんて目じゃないほど柔らかい、幸せぇ。


「ユウコよ、我は決めたぞ、この森の獣人を集めて獣人の街…いや、獣人の国を作るのじゃ!」


「え!?急にどうしたの?たしかに川でそんな話はしたけど、村とかをすっ飛ばして国!?」


「うむ、我が女王として国を守りそして毎日獣人の子らを猫吸いするのじゃ!」


 うわ、国を作る前からハーレム宣言しちゃってるよ、いや、まぁ野生動物とかはハーレムとか作る種は多いしそれが普通なのかもしれないけど、猫吸いするためというのはどうなのよ、そりゃ少しはおこぼれにあずかりたいなとか思ったりするけど…いやいや、そんな目標のために国づくりはだめでしょ。


「カエデ、最初から国なんて大きなものを目標にしないで村や町位から始めないと絶対に失敗するよ」


「むぅ、しかし猫吸いが…」


「王様とかじゃなくても皆をちゃんと守ってあげて誠実に向き合えばコリス族のみんなみたいに赤ちゃんを抱っこさせてくれたりもするよ」


「ぐぬぬ、しかたない無理矢理に命令して嫌われでもしたら元も子もないからの」


「そうそう、何事も積み重ねが大事だよ、それで?どうやって獣人を集めるの?」


「我がこの森をめぐり顔見知りの獣人どもに声をかけてくるつもりじゃ」


「え?そんなことで集まるのかな?というか喧嘩になったりしない?」


「ふん、獣人は基本弱肉強食の世界に生きておる、この森で最も強い我に歯向かうものなどおらんのじゃ」


 な、なんという脳筋な…ん~、でもそれでコリス族や他の獣人を守れるのならいいのかな?


「あ、でも弱肉強食で生きてるなら、コリス族のいるところに集めて大丈夫かな?いじめられたりしない?」


「この森でコリス族に手を出す獣人などおらぬ、何百年もかけて我がコリス族にちょっかいをかけたものに恐怖を刷り込んできたからの」


 え?ずっとコリス族を守ってきたの?過保護すぎない?もしかしてコリス族の警戒心がものすごく弱いのってカエデのせいなんじゃあ…。


「よし、早速明日にでも声をかけに行ってみるかの」


「そ、そんなにはやく…善は急げ的な?」


「む、その言葉は知らぬが、そうじゃなよいことは早く済ませた方がよいのが道理じゃ、一晩この村で英気を養ってから森をめぐってくるのじゃ」


 う~ん、すごくやる気みたいだし、本音を言えば私もいろんな獣人とあってモフモフしたいし、食料のこととかいろいろ考えてみるか。

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