第9話 みんなの宝物1

「カエデ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「なんじゃ?」


「カエデは私のことを警戒していたし、コリス族のみんなも『悪い人間』って言ってた、もしかしてこの国の人間ってあんまり評判がよくない?」


「?ユウコはここに来るまでにこの国の町を通らなかったのか?」


「私は転移?みたいなものに巻き込まれていきなりこの森に来ちゃったから…」


「トラップか何かかの?まぁ、それならば知らぬのも無理はないか、この国の民自体はそれほど悪い人間ではない、ただ王やその周辺は獣人を奴隷として売買して利益を得ておるのじゃ」


「え!?獣人を奴隷って、もしかしてコリス族も!?」


「うむ、あの子らは弱い上に警戒心が弱い、そして弱い分繁殖力が強くさらにかわいらしい、商品としては仕入れやすいうえに需要もあるから目玉商品のようなものじゃ」


「え?繁殖力が強いなら他の土地でも増えそうだけど…というかあの子たちを商品扱いするなんて許せない!」


「それは子を作る力を奪う呪いを使っておるらしいが詳しいことはわからん、花街のために作られた呪いらしいがな、そして許せぬのは同感じゃ、それゆえ我も手の届く範囲で防いではおるがなにぶん人族の数が多く、さらに森の広さも相まって防ぎきれんのが現状じゃ」


 ラノベとかだと獣人とか結構強そうだからカエデに頼らず防いだりできないのかな?


「他の獣人は人間とは戦ったりしないの?」


「もちろんほかの獣人も戦ってはおるが数が足りん、獣人の個々の力は人間より上じゃが、強い獣人はあまり大きな群れを作る習性がないのでな…」


「縄張り意識が強いとか?」


「それもあるが森の恵みだけでは大規模な群れは維持できんのじゃ」


 あぁ、たしかに畑作ができないとなかなか人増やせないよね、あれ?でも私のスキルがあれば食事の面だけは担保して、ある程度大人数の獣人の集落を作ることができるのではなかろうか、そして獣人が集まれば自衛力が高まってコリス族も狙われにくくなるかもしれない。


「ねぇ、私スキルでかなりの量の食べ物を作れるんだけど、それをもとに獣人を集めて集落みたいなものを作れないかな?こっちも数を集めれば人間もうかつに獣人狩りなんかできないんじゃないかな?」


「ふむ、確かに食べ物があればある程度集まるかもしれんが、群れるのを嫌うものもいるからの…それに分散しておる今の状況も一概に悪いわけではない、少なくとも包囲されて族滅ということはないしの」


 そっか、一か所に固まっていることを知られたらそこに全員を配置できるもんね、そう簡単にはいかないか。


「しかしある程度の数を一か所に集めるというのはいいかもしれんな、我も守りやすくなる、そしていろいろなかわいい種族が戯れ…ゴホン、一度声をかけてみるのもいいかもしれんの」


 今何か素敵な言葉が聞こえた気がする、可愛い種族がキャッキャウフフだと?なにそれ最高じゃない!実現するためには全力でスキルを使いまくるよ!たとえ私が干からびたとしても!


「カエデがんばってね!私なんでもてつだうから!」


 モフモフの村へのありったけの思いを込めてカエデの手…前足をギュッと握る、ふぁ、肉球が柔らかいぃ、ずっと触ってたいよぉ、いやいや違う違う今はモフモフの村への真剣な思いを伝えないと!


 肉球のあまりにフニフニな手触りに、とろけそうな表情をキッと引き締める、届け、この真摯な思い!


「う、うむ何かよくわからぬ表情じゃが全力を尽くすぞ」


 あれ?全力で引き締めた顔がよくわからない表情と言われたんだけど…解せぬ。


 まぁいいや、ひとまず洗うのを再開しよう、ゴシゴシ…ゴシゴシっと


「よしっと!カエデ、体についてる泡を川でおとしてきてくれないかな?そのあとで仕上げのお薬を使うからね」


「む?これで終わりではないのか?」


「うん、このお薬を使うか使わないかで仕上がりが全然違うからね」


「ほう、ならばおぬしの指示に従うとするかの」


 そして川で泡を流したカエデの体に水で薄めたコンディショナーを振りかけてっと、揉みこみ揉みこみ…ふぅ、やっぱり重労働だね、ちゃんと指示を聞いてくれるカエデでこれだから世の中の大型犬を飼ってる人はもっと大変なんだろうな。


「それじゃあカエデ、薬がなじむまでちょっと待っててね、ついでに私も体洗っちゃうから」


 そしてカエデの髪?体毛にコンディショナーがなじむのを待つ間に自分の髪と体も洗ったのだが…森の中で全裸で水浴びとか…これが金髪美女とかなら絵になるんだろうけどなぁ…いかんいかん、深く考えたらへこむ、無心で体を洗おう…


「よし、もういいかな、カエデもう一度川で薬を洗い落として、洗い残しがないように私も手伝うよ」


「うむ、よろしく頼む」


 ふぅ、尻尾は特に毛量が多いから大変だな、でもいくらこのコンディショナーがペット用の物とは言えアレルギーを起こさないとも限らないから念入りにやらないとね。


 これだけすすげば大丈夫かな、あ、でもこのまま上がると川辺の土で泥だらけになっちゃうな、ここにも合羽を出してブルーシート代わりに使おうか。


「カエデ、洗い終わったからこの布の上に乗ってもらえる?土の上だと汚れちゃうから」


「すまぬな…ん!」


 合羽の上に上がったカエデはすぐにブルリと身を振るった、それと同時に大量の水と土にはねた水が巻き込んだ泥が私に襲い掛かる…あー、洗い直しだなぁ…


「もう!水を掃うなら一言言ってよ!」


「む、すまんすまんいつもの癖での」


 泥にまみれた体を今一度川の水ですすぎ、人の姿に変化し髪を乾かしたカエデと一緒に村に戻り私が借りている小屋に入ると昨日一緒に寝たミーコちゃんたちがお昼寝していたのでカエデと私でコリス族の子たちをはさむように寝転がる。


「ふふ、ほんに可愛らしいのう」


 カエデは慈しむようにひたすらみんなの頭を撫でている、すると一番小さな子、ミーナちゃんだったかな?…が甘えるようにカエデにしがみついた。


『ふぉぉぉぉーー、か、かわ、かわ…』


 あ、何とか大声を出すのは耐えたか、わかるわかるよその気持ち、可愛すぎるよね。


『わが生涯に一片の悔いなし!』


 はいはい、それも私が通った道だよ、お願いだからそのまま逝かないでね、ふぁ~、おっとなんか平和な光景に眠気が……。



「………ぐぇ!」


「あ、ユーコおきた!あそぼ!」


 目を覚ますとおなかの上に笑顔のミーコちゃんがまたがっていた、そこはやめて、お昼ご飯の残りが出ちゃうから!もう少し上か下にまたがってくれたら安定するから!って誰の胸が平たくて安定するんだよ!じゃなくておなかの上でお馬さんごっこばりにはねないで!


「遊ぶ、遊ぶからちょっと降りて~」


 ふぅ、危なかった、危うく乙女の尊厳をぶちまけるところだったよ、コリス族の子は素直だから助かるね、親戚の子なんてさらに悪乗りしてくるから…。


「それじゃあ、何をしてあそぼっか?」


「う~んとね、え~っとね、あ、そうだ!ユーコにわたしたちの宝物を見せてあげる!」


「え?宝物を見せてくれるの?わぁ、なにかな、楽しみだなぁ!」


 うんうん、子供のころよくお友達と宝物のみせっことかしたよね、異世界でも同じなんだね。


「キツネさんも見せてあげるね!」


「本当か?それはうれしいのう!」


 カエデは私よりも先に起きていたようでミーナちゃんを抱っこしてデレデレである、樹上で見たキリっとした表情は幻術だったのかもしれない…。


「どこにいこっか?チーねーちゃ?ルリねーちゃ?」


「ん~、チーねぇねのほうがおっきいよ」


「じゃあ、チーねーちゃのおうちいこっか」「「うん!」」


「じゃあ、ユーコこっちこっち!」「キツネさんも!」


 ミーコちゃんたちに手を引かれチー姉ちゃん?のおうちへと向かうようだ。


「ねぇ、宝物って何かな?何を見せてくれるの?」


「えへへ、ないしょなの!みんなの宝物なんだよ!」「ないしょ!」「しーなの!」


 手を引かれて着いたのは村の中ほどにあるちょっと低い場所、私の胸くらいの高さかな?に建てられた小屋、やはり屋根の高さ的に私やカエデにはちょっときついので私たちを小屋の外に残してミーコちゃんたちは中に入っていく。


「チーね~ちゃ~、あそぼー!」「「あそぼ~!」」


「はいは~い、い~よ」


 中で何かお話してるみたいだけど、ほとんど聞こえないな…。


「カエデ、宝物って何だろうね?」


「なんじゃろうの?ふふ、楽しみじゃ」


 いまだニッコニコのデッレデレである、それでいいのか神獣?


「ユーコもキツネさんも目を閉じて」「おめめギューってするの!」


 小屋から出てきたミーコちゃんたちが入り口のところで目をギュッとつぶるんだよっていうジェスチャーをしている、うん、まぁデレデレになるのも仕方ないかな、可愛いし!


 とりあえず言われたとおりに目をギュッとつむる。


「閉じた?」「ギュッてした?」


「うん、真っ暗で何にも見えないよ」


「うむ、我もじゃ」


 そう答えるとトテトテと小屋の中に戻っていく足音が聞こえた、そして少し待つと。


「もう目をあけていーよ」「「いーよー」」


 ん?戻ってくるときの足音が聞こえなかったな、あ、宝物を持ってるから慎重に戻ってきたのかな?などと考えながら目をあけるとそこにはミーコちゃんたちに脇の下を抱えられたとても小さなコリス族の姿があった。

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