第8話 仲直り
よし、あとは干すだけかな、さすがに川辺に干して動物とかにもっていかれたら、明日から半裸馬マントとして生活しないといけない…うん、無理だよね、ちゃんと小屋の軒下にでも干しておこう。
「そういえばカエデさんの服って、私の生まれた国の服に似てるんですがこの辺りで売ってるんですか?」
「いや、この姿は変化の術で作り出しているにすぎないのじゃ、本来の姿はキツネゆえにな、この服は一族が昔から好んで変化しておったもので、その昔遥か東の大陸で着られておったらしいが今はもうその大陸との交流がない故どうなっておるかはわからんのじゃ、あと我のことはカエデでよい、仲立ちをしてもらった礼じゃ」
「わかったよ、えーっとカエデ、それじゃあその服は買うことはできないのかな?」
「うむ、我はあまり服を扱っている店には行ったことはないが街で見たことはないな」
「街!?この辺りに人間か獣人の街があるの?」
「いや、ここは森の奥地じゃからな、まぁ、我の足で4日程といったところか」
「神獣の足で4日…すっごく遠そうなのはわかった」
「人の足では数か月はかかるかもしれんな」
うん、森の中を数か月もさまようとか、いくら食料を出せるといっても地獄だよね。
「えっと、もし今度街に行くことがあったら服とかを買ってきてほしいんだけど…」
「それは構わんが、いつ行くかはわからんぞ」
「それで大丈夫だよ、ずっと着替えがないのはさすがにきついから」
トレーナーとワイシャツを交互に着るとしても洗濯の回数が増えれば生地も痛むだろうし、何よりズボンが一着しかない…しばらくはこの馬マントをスカート代わりにしてしのぐしかないかな。
「えっと、そろそろ私、村に戻ろうと思うんだけど、カエデはどうする?このまま村のみんなに謝罪してもいいし、日を置いてもいいし」
「当然村についていくぞ、我がイジワルぎつねなどという誤解は早々に解いておかねばならんからな」
そういうとカエデはフンスと気合を入れた、普通に話していると凛とした雰囲気があるがコリス族のこととなると少し幼く感じる時があってちょっとかわいい。
「それじゃあ行こっか、といってもすぐそこだけどね、とりあえず村に入ったらみんなに声をかけて集まってもらうから、ちゃんと謝ってね」
「うむ、わかりやすくじゃな、わかっておる」
ミーコちゃんたちに声をかけて一足先に村のみんなを集めてもらうように頼む、今日はみんなを集めるお仕事ばっかり頼んじゃってる気がするな、後でありがとうって言っておかないと。
「ユーコ、よんだー?」「あ、イジワルぎつねだ!」「ほんとだ、イジワルぎつねだ!」
「ぐふぅ…」
あ、またカエデが精神ダメージを…。
「イジワルぎつねがいる!」「またイジワルするきだな!」
いったいどれだけイジワルしてきたんだろう?村のみんなにイジワルぎつね呼ばわりされてる…あ、体育座りになって地面をいじいじし始めた、みんなやめてあげて!カエデのライフはもうゼロよ!
「えーっと、みんなちょっといいかな、カエデ…キツネさんは今までごめんねって謝りたいから来たんだって、話を聞いてあげてくれるかな」
体育座りでいじけているカエデを背に隠しつつ後ろ手で復活を促す。
「はっ、いじけておる場合ではない!誤解を解かねば」
なんとか自力で再起動できたようだ、初対面の人を励ますとか無理ゲーだから何とか自力復活してくれてよかったよ、あ、でも同好の士だったらさっき仲直りしたミーコちゃんたちによしよししてもらえば復活するかも…うん、私なら復活する。
「今まですまなかったのじゃ、喜んでもらえると思ってやっておった、申し訳ない」
カエデはパパっと居住まいをただすと頭を下げる、この世界にも正座とかあるのかな?正座のような体制で頭を下げたからまるで土下座みたいになっている。
コリス族のほうは…新しい遊びと思ったのかカエデをまねして土下座みたいなことをしてる子がいる、頭をあげてまだカエデが頭を下げているのを見るとまた頭を下げる、ぴょこぴょこ頭が上下するのが可愛い、どっちが長く頭を下げるゲームじゃないよ。
「キツネさんは本当に悪かったと思ってるし、これからはイジワルはしないって言ってたよ」
「じゃあ、いいよ、仲直りしよ」
コリス族の長老があっさりとそう言うとずっと頭を下げていたカエデがバッと頭をあげる。
「よいのか?」
「うん、もうイジワルしないんでしょ?それを約束してくれるならワシはいいと思うよ」
「ボクもそれでいいよ」「わたしも!」
長文をはなすとやはり長老でも言葉は子供っぽいことがわかるね、ワシって言ってるのは長老としての威厳を出すためなのかな?
「もちろん約束するのじゃ、コリス族へイジワルはしない」
「「「じゃあ、お友達!」」」「キツネさんはこの村に住むの?」
「い、いや我は森の見回りもあるしあまり長くは滞在できん、なるべくこの村には来るようにするつもりじゃが…」
カエデが戸惑ってる、わかるわかるよその気持ち、一言で片が付くなんて普通は思わないよね、昨日ここに来たばかりの私が言うのもなんだけど、もう少し警戒心ってものをもってほしい…
「よし!じゃあ仲直り記念でご飯会にしよっか、ちょうどお昼ご飯にいい時間だしね」
お昼ご飯と聞いてコリス族のみんなの顔がパッと輝いた
「ごはん!」「くだものある?」「モモ!モモが食べたい!」
「うんうん、果物もいっぱい出してあげるよもちろん桃もね」
「「「わーーーい!!」」」
わちゃわちゃとカエデに群がっていたコリス族は「ごはん、ごはん」と小躍りしている。
「カエデももちろん食べていくでしょ?」
「うむ、仲直りの記念ということならご相伴にあずかろう」
そうして仲直りの記念という名目でお昼ご飯を一緒に食べることになったのだけど…
「キツネさん、モモ!モモおいしーの、たべて」
「おお、本当じゃ美味いのこのモモは」
「キツネさんのしっぽおーきーね、ふわふわだ!」
「ふふふ、自慢のしっぽじゃからの」
なんというか完全におばあちゃんと孫の会話だよねこれ…あとその尻尾、私もモフモフしたい、顔をうずめたい!あれ?これセクハラ?いやいや違うよ、ただのスキンシップ!スキンシップの範疇だよね!
そしてみんなが食べ終わり毎度のごとく果汁で口の周りをベタベタになっているのでウェットティッシュで拭いてゆく、今回違うのはカエデも手伝ってくれているということ、そしてベッタベタのまま抱き着かれたカエデの尻尾もベッタベタになってるということだ、後でシャンプーしてあげよう…
「良しっとみんなきれいになったね」
「うむ、みな可愛い顔に戻ったな」
「えへへー」「きれーになったー」「ふわ~~あ…むにゅ」
コリス族の皆はおなかがいっぱいになったからか少し眠そうにしているね。
「皆、おなかいっぱいだからちょっとお昼寝しよっか」
「おひるね!おひるねするー!」「ユーコもおひるねしよ」「キツネさんもいっしょ」
「おうおう、一緒に寝るかの」
「ごめんね、ちょっとカエデと用事があるからみんなで先にお昼寝してて」
「ぬ、我はこの子らとお昼寝を…」
「カエデ、尻尾がベタベタになってるから、そのまま寝るとみんなまたベタベタになっちゃうよ」
「そういえば尻尾に違和感が…コリス族に気を取られて気が付かなんだわ」
「尻尾洗ってあげるから川に行こ」
「うむ、すまんな」
さっきの小川、視線を遮るものとかなかったけど女同士だしコリス族はちっちゃい子供みたいなものだから覗きに来たりはしないよね。
「シャンプーとコンディショナーを作ってと…カエデちょっと着物脱いでもらえる?濡れると大変だから」
生成したシャンプーなどを置いて顔をあげるとそこにはゴールデンレトリバーのような大型犬よりもさらに一回りは大きな白銀の狐がいた。
「人の姿よりもこちらの方が洗いやすいじゃろう」
「カエデ…なの?」
「うむ、そうじゃ、これが我の本来の姿じゃな」
「きゃーーーーー!!モフモフ!!」
「ギャーーーーーーー!!」
はっ!いけない!あまりにもきれいなモフモフについ飛びついてしまった!狐って寄生虫がやばいから触っちゃいけないんだっけ?
「つかぬことをお聞きしますが…エキノコックスとかいる?」
狐モードのカエデの首のあたりに抱き着いたまま元の世界にいたやばい寄生虫のことを聞いてみる、まぁ、寄生虫がいようがこんなきれいなモフモフから離れようとは思えないけど…
「えきの…なんじゃ?」
「エキノコックス、寄生虫なんだけど狐とかにいて、人間が触ると結構やばかったような…」
「神獣の我に寄生虫など付くわけがなかろうが!!そもそもこの汚れとて清浄化の魔法を使えばきれいになるが、ユウコが洗ってくれるというからわざわざ!」
「わわ、ごめん、誠心誠意洗わせていただきます!」
そうだせっかく狐モードになってくれてるんだから、全身コンディショナーでさらにキラキラふわふわにしちゃおうかな。
「ねぇ、カエデついでだから全身このお薬で洗ってみない?」
「む、なんじゃその薬は?」
「これはシャンプーとコンディショナーといって、毛をふわふわのさらさらにしてくれるお薬なんだよ、興味ない?」
「ふわふわのさらさら…そ、そうじゃなついでじゃしそれで洗ってもらおうかの」
「ではさっそく~っと、んしょ、んしょっと…よいっしょ」
ふぅ、さすが大型犬よりもでかいと洗うの大変だぁ、まぁ暴れたりしないからその分はましなんだけど、馬のマントはぬれてもいいんだけど下着が濡れるとなぁ…あ、そういえば馬が合羽を着てるのテレビで見たことあるな、あれならいけるか…ってなんかお馬さんにお世話になりっぱなしだね。
「カエデちょっと待っててね『獣具生成』」
「ほう、そのように大きなものまで作ることができるのか、便利なスキルじゃな」
「カエデは便利なスキルとか持っていないの?」
「我の場合は姿を変える変化の術が種族的なスキルになるの」
「へぇ、種族ごとのスキルとかもあるんだ、人間が種族として使えるスキルはないの?」
「人間は固有のスキルなどは持たぬが、スキルの幅が広いとは聞いたことがあるの、まぁ、スキルは偶発的に習得するものが多い、数が多い人間がたまたま習得することが多いということじゃろうな」
ふむふむ神獣のカエデでさえステータスボードのことは知らないのか、女神さまは広めてもいいと言っていたけど、これは慎重に考えないと、この世界のバランスが崩れちゃうかも…あ、そうだついでにこの世界の人間について聞いておこうかな。
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