第7話 イジワル狐

「ユーコをはなせ!」「ユーコをいじめるな!」「うわーーーん!」


 駆けてきたミーコちゃんたちが私をつかんでいる狐のお姉さんに詰め寄っている声が聞こえる、ポコポコと殴っているような音も聞こえるが後ろから掴まれているから見ることができない。


「わ、我はそなたたちを助けるためにじゃな…」


「ユーコをはなせ!イジワルぎつね!」「イジワルぎつねきらいー!」「きらい!」


「い…いじわ…きら…い」


 フッと首にかかっていた力が緩められ後ろからズシャっという音が聞こえたので、振り返るとそこには膝から崩れ落ちた狐のお姉さんがいた。


 な、なんかすごくショックを受けてるな…この森を守護してるってい言ってたし、もしかしたらコリス族のことも守っていたのかもしれない…


「あ、ありがとう、皆のおかげで助かったよ」


「ユーコ、へーき?」「いたくない?」「けがしてない?」


「うん、全然大丈夫だよ」


「ぶー、イジワルぎつねがわるいの!」「イジワルぎつねわるい子!」「めーー!」


「ぐふぅ…」


 幼児の純粋な追撃で精神にさらにダメージを追っている気がする、ちょっと気の毒になってきた…


「え~っと、なんでイジワル狐ってよばれてるの?」


「イジワルぎつねはいっつもいじわるするの!」「イジワルするのはわるいことなの!」


 あ、普段からイジワルしてるのね、これはかばえないかな…


「ち、違う、我はそなたたちにひと時のよい夢を見せていただけだ」


「いい夢?」


「このようにな」


 そういって狐のお姉さんが手をかざすと、さっきまで騒いでいたミーコちゃんたちがおとなしくなった。


「ちょ、ちょっと、なにを!?」


「騒ぐな、初歩の幻惑魔法じゃ」


「ふわぁ、果物がいっぱいだぁ」「いっぱいたべるの」「おいしそう」


 皆がふわふわとした様子で虚空をつかみ、それを口へと運ぶそしてもぐもぐと口を動かすが味がしないのかコテンと首をかしげる…


「「か、かわいすぎる!!」」


 ありえないセリフが被ったことに驚き、狐のお姉さんの方を見るとばっちりと目が合った、そしてどちらからともなく手を差し出すとお互いにがっしりと強い握手を交わした、言葉を交わす必要もないこの人?狐?は同士だ。


 ひとまず皆にかかった魔法を消してもらう、そしてブドウやリンゴを生成して渡しておく、少し前に朝ごはんを食べたはずだがそんなことは忘れたかのようにミーコちゃんたちは果物に夢中になっている。


「それで、どうしてイジワルぎつねと呼ばれるほどちょっかいをかけたんですか?」


「うむ、この者らはとても弱い、我が庇護しておるゆえ理不尽に殺されたりすることはないが、あまり広いなわばりをもつことができないのじゃ、それ故食べるものはあまり味のない木の実かたまに果物を食べることができるくらいでの、それが不憫でせめて夢の中だけでも幸せな気持ちでいてほしかったのじゃ…あと可愛かったし…」


「最後に本音が漏れてるけど…まぁ、一応あの子たちのことを考えてやってくれてたってことね?」


「そうじゃ、たとえ我の力でなわばりを広げたとてあの子たちでは維持することもできんからの、せめてもの気晴らしになればとな」


「つまり善意でやってたってこと?でもあの子たちからしたらいっぱい食べてもおなかが膨らまないというのは結構きついと思うよ?」


「ぐっ…我は神獣として生まれた故そういった経験がないのじゃ…」


 ふむ、生まれた時から強かったし、きっと親も強かったはずだ、そのせいで今まで食べることに困ったことがないから本当に飢えている人の気持ちがわからなかったということか…


 でもこの子たちに嫌われるってきついだろうなぁ、面と向かって嫌いって言われたらしばらく寝込む自信があるね、しかたない、ここは同好の士として私が一肌脱ぐか。


「うーん、コリス族にちゃんと謝ってこれからは幻惑魔法などをかけたりしないと約束できますか?約束できるなら私が間に入って仲直りできるように取り計らいますけど」


「むむむ、神獣としてあまり弱みを見せるわけにはいかないのじゃが、あの子らに嫌いと言われるのはつらすぎる…すまんが頼めるか?」


「うん、それじゃあ改めて、私は八神優子、まぁ、こっちで苗字に意味はないから優子って呼んで」


「うむ、我はカエデじゃ、よろしく頼む」


 私たちは改めて握手を交わした。


「カエデってこの辺りに楓が生えているの?」


「うむ、少し北に行ったところに群生しておる、葉の形が多尾の狐の尾の形に似ているのでカエデやモミジの名を使う一族のものもおる」


「今度その場所に連れて行ってくれませんか!」


「む?それは構わんがわざわざ見に行くほどの物ではないぞ?」


「楓の種類にもよるけど私が住んでいた国(世界かな?)だと楓の樹液を煮詰めて甘いシロップにしたりするんですよ、私スキルで食べ物を作ることができるんだけど、本来動物向けの食べ物で薄めの味付けの物しか出せなくて…シロップが作れそうならいろいろ使えるかなって」


「まぁ、大規模に伐採したりするわけでもなければ構わんかの、そのうち連れて行ってやろう」


「ありがとう、うまくできたらごちそうするよ」


「ふふ、それは楽しみじゃの、さてそれはそれとしてそろそろコリス族との仲立ちを頼みたいのじゃが」


「あ、そうだね、とりあえずミーコちゃん…あの子たちで試してみる?」


「うむ、ユウコが上手くやってくれるか見極めなければならんしな」


 う、そういわれるとプレッシャーが…でもコリス族のみんなならちゃんと謝れば許してくれるよね。


「みんな、こっちに来てくれるかな、狐さんが今までイジワルしてごめんなさいしたいんだって」


「我はイジワルはしておらんのだが…」


「そこはカエデさんに折れてもらわないと、ちゃんと説明しても難しいことは伝わらないと思いますよ」


「むぅ、致しかたないか、あの者たちは20年ほどしか生きられん、あまり知恵のある種族ではないからの」


「え?20年!?たったそれだけしか生きられないの?」


「ふむ、わしが見た個体の中では一番長生きしたもので24年ほどだったか」


 あまりにも短い寿命に愕然としているとまたしても口の周りを果汁で染め上げたミーコちゃんたちがやってきた。


「なーに?」「「なにー?」」


「もう、またお口の周り汚れてるよ」


 かわいらしい姿に少し気持ちが持ち直したのでウェットティッシュでお口の周りを拭いてあげる。


「はい、きれいになったよ、あのね狐さんが今までごめんなさいって、これからは仲良くしてくださいって言ってるんだ」


「今まですまなかった、そなたたちのためと思いやっていたが、まさか迷惑になっているとは思いもしなかった」


「「「?」」」


 いまいち伝わらなかったのかミーコちゃんたちは首をかしげている。


「もっと簡単に伝えないと」(コソッ)


「え~っと…今までごめんなさい、これから仲良くしてほしいのじゃ」


「もうイジワルしない?」


「もちろんイジワルなどはしないと約束する」


「ん~、じゃあいいよ、おともだち!」「なかま!」


 うん、さすが警戒心ゼロのコリス族、仲介するまでもなかったね。


「えへへ、キツネさんもあそぼ!」「あのね、これ持って走るとキラキラが出るの!」


「本当じゃキラキラがいっぱい出ておるな」


 うん、なんというか話し方のせいで孫と戯れてるおばあちゃん風だよね、見た目は若いけど…


「我もキラキラを出すことができるぞ、見ておれ」


 そういうとカエデさんはまた手を薙いだ。


「ちょ、ちょっと幻惑魔法は!」


「案ずるなこれは幻術、簡単な幻を作り出すだけの術じゃ」


 そういうとあたりにたくさんのシャボン玉が現れた、ミーコちゃんたちのほうを見るとさっき幻惑魔法にかかった時のようなふわふわとした違和感はなく、元気いっぱいに駆けまわっている。


「わー、キラキラがいっぱい!いっぱい!」「すごい、すごいの!」


「この術は見た目だけの術じゃからこのキラキラを生み出す道具と同じようなものじゃ」


 そういってカエデさんは走り回るコリス族のみんなを慈しむような目で見ていた、あ、今のうちにお洗濯やっちゃわないと…

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