第4話 ここがモフモフ天国か
さっきは果物を出した流れのまま宴のようになってしまったが陽が落ち始め皆が満腹になったころお互いの自己紹介タイムとなった。
「えー改めまして、これからしばらくここでご厄介になります、八神優子です、よろしくお願いします」
「ごやか…?」「やがみ?っていうこ?」
「あ、お世話になりますってこと、あとユーコでいいよ、そのほうが呼びやすいだろし」
「ゆーこ…ユーコ!」
私の名前を聞くと今まで満腹になって腕の中でうつらうつらしていた子がバッと振り向いて私に抱きついてきた。
「あのねあのね!ミーコ、ミーコなの!」
「ミーコちゃんっていうの?」
「うん!」
どうやらこの子の名前であってたようだが何か足りないのかまだキラキラとした瞳で見つめてくる。
「えーーっと、名前、似てるね?」
「うん!!」
ぱぁぁぁぁぁぁっとまばゆいほどの笑顔を浮かべてさらにギュッと抱きついてきた、見た目よりは少し力が強い気がするがまだまだ子供の域を出ないくらいなので苦しくはなくむしろ心地よいくらいである。
よしよしと頭をなでてあげているとほかの子たちの自己紹介が始まった。
「わしはチッタ、この村の長老で村長だよ」
「ボクはミック、木の実隊の隊長だよ」
「ボクはリック、副隊長なの」
「ボクはチック、ボクも副隊長なの」
「私はミーヤなの」「ボクは…」「私は…」
うん、ムリーー、覚えきれないよ、なんでみんな似たような名前なの?私の記憶力に対する挑戦か?とりあえず少しずつ覚えていこう…
一通りの自己紹介が終わった後、私が寝泊まりする場所をどうするかという話になった。
「この村にあるおうちだと私が入るといっぱいいっぱいになっちゃうかな…」
「ほんとだ、オデコごっつんってしちゃうかも…」
「あ、みんなでお話しするおうちは?」
「そっか、あそこならおっきいから大丈夫かも!」
「私がつれていってあげる!」「ボクも!」「私も!」
皆にわちゃわちゃともみくちゃにされながら連れて行かれた先には他の家とは違い地面に並べられた丸太の上に建てられた少し大きな小屋があった、たしかに元の世界の物置小屋くらいの大きさではあるが私一人がくらす分には問題のない大きさのようである。
「こっち、こっちから入るの!」
手を引かれながら扉代わりの大きな葉っぱを編んだ簾のようなものをくぐると中にはほとんど物はなくがらんとしている。
「たしかに、この広さなら十分暮らせそうだね」
壁などは細めの丸太を蔦で括り付けているだけなので隙間などが多少気になるが昨日夜を過ごした感じ一気に気温が下がるような心配はなさそうなのでこれでも大丈夫だろう、空いた時間に布でも作って隙間を埋めてもいいしね、床は多少がたつきはあるが板を渡してあるので丸太の凹凸が直接あたることもない、これも布をたくさんひいてしまえば問題ないかな…
「はうっ!」
うぅ、よく考えたら、今日の朝用を足してから一度も行っていないうえに果物食べまくったから一気に尿意が…
「ね、ねぇ、おトイレってどこにあるのかな?」
「おといれ?なに?」
「えーっと、お、おしっことかをする場所ってどこかなって…」
「おしっこ?おしっこしたいの?」
「しー!しーー!声が大きいよ」
「?あのね、おしっこはねおうちから少しはなれた草むらでするの!おうちの近くでしちゃうとくさいくさいってなっちゃうの」
おぉう…NOSHON…この歳で野ション…だけどしかたないトイレがないんだもの…割り切れ私!
くふぅ…人としての尊厳がごっそりと減った気がする…切り替えろ私、ここの子たちはみんなやってるんだ、それが自然なんだ、などと心を落ち着かせようとしていると、皆がわらわらと集まってきた…?どうしたんだろ?皆は私の横をすり抜けて後ろの草むらへ…
「ちょーーー!!ストップ!止まって!どこに行こうとしているの!?」
「仲間のにおいかいで覚えるの!」
「うぎゃーーー!やめて!そんなの嗅いだらばっちいから!せめて私が見てない間にして!!」
ダッシュで小屋に駆け込み、部屋の隅で文化の違いにうなだれていると匂いを嗅ぎおわ…いや、そんな出来事はなかった!いいね!
ともかく一仕事終えた風のミーコちゃんが尻尾を振り振り小屋に入ってきたので速攻で抱きしめて抱きぐるみにしてやった。
「ふっふー、つかまえた、恥ずかしい思いさせられたお返しにクンカクンカしてやる!」
「きゃー、えへへ、くすぐったいぃ」
ミーコちゃんがくすぐったそうに身をよじると目の前でふさふさの尻尾がゆらゆらと揺れる、ねこじゃらし…ううん、わたしじゃらしかな?じゃれるぞ!じゃれついちゃうぞ!ついだらしなくなりそうな表情を引き締めながらスキルを使いブラシを作った、スキルレベルのせいかプラなどは使われていない木と動物の毛で作られたブラシだけどむしろこっちのほうが高級な気がする。
「ふぁ、なに?毛づくろいしてくれるの?えへへ、気持ちいい」
尻尾の根元から先のほうへ向かってブラシをかけながら心を落ち着けているとどんどんミーコちゃんの尻尾がふわふわになってきた
「わぁ、しっぽふわふわだぁ!ユーコすごい、毛づくろいじょーず!」
自分のふわふわになった尻尾がうれしかったのか、ギュッと抱きついてきた、ありがとうございます!最高のご褒美です!
「みんなに見せに行ってくる!」
言い終わるが早いかミーコちゃんはトテトテと小屋を出て行った、あぁ…癒しが…
ミーコちゃんが出て行ってからしばらくすると入口のほうから気配を感じたのでふと見てみると小さなかわいらしい耳がいくつか見え隠れしている。
チラチラと入ってもいいかとこちらをうかがっていたので手招きしてあげると嬉しそうに小屋の中に入ってきた。
「あのねあのね、ミーコのしっぽがふわふわになってたの!」
「それでね、ミーコがユーコに毛づくろいしてもらったってゆってたの!」
ふふ、それがうらやましかったのかな?よござんしょ、いくらでもふわふわにしてあげましょうとも!
「いいよ、順番に毛づくろいしてあげるね」
「「わーーーい!」」
みんなが尻尾を振り振り大きい子から順番に並びはじめる、年功序列的なものがあるのかな?まぁ、喧嘩とかにならなくてよかったよ。
「はーい、それじゃあ始めますねお客さん」
そして調子に乗ってお店のようなことを言いながら、みんなのしっぽをふわふわに仕上げていった。
「ふあぁーーーむにゅ…」
最後の一番小さい子を膝の上にのせて尻尾を毛づくろいしているとかわいらしいあくびをし始めたので、外を見てみるともう真っ暗になってしまっていた、宴が終わった段階で日が暮れ始めていたから当たり前といえば当たり前だが…
「ねぇ、皆そろそろおうちに帰らないとお父さんとお母さんが心配するんじゃない?」
「ユーコのおうちに泊まる!」「私も泊まる!」「わたしもー」
途中で戻ってきていたミーコちゃんがここに泊まると言い始めると皆が泊まると言い出した。
「うーんここは好意で貸してもらってるだけなんだけど…いいのかなぁ…とりあえずお父さんたちにここに泊まっていいかだけは聞いてきてね」
「きいてくる!」「私も!」「わたしも!」
皆が一斉にかけていく、ん~村に来たばっかりのよそ者のところに泊まる許可とかそう簡単に出るかな?いや、出そうだな~この村だと…とりあえずさっきいた5人分だけでも布団代わりの布でも作っておこうかな。
せっせと布を作っていると、トテテテと駆けてくる音が聞こえた
「だいじょうぶだって!」「私もだいじょうぶー!」「じょうぶー!」
あーやっぱりか、もう少し警戒心があったほうがいいんじゃないかな、この村。
とりあえず寝床を作るために皆で布を敷いていく。
「このひらひらなにー?」
「これは草とかを編んで作った布だよ、これを敷いて寝ると体が痛くないんだよ」
「草!おうちでも草をいっぱいあつめて寝るの!ふかふかなの!」
「ほんとだ!これもふかふかだ!」「ふかふかー!」
一人が布団代わりの布に飛び乗ると皆がそれに続く。
「こらこら、ちゃんと敷かないとお休みできないよ」
空気を入れるように布を波打たせると上に乗っていた子たちが転がっていく。
「キャーーー!あははは、たのしー!」「あははは!」
キャッキャと再び布に乗ってきたので、上から新しい布をかぶせてその上から抱きしめる。
「ほーら、お手伝いしない悪い子は捕まえちゃうぞーー!」
などとふざけ合っていたのだが一番小さな子がうつらうつらと本格的に舟をこぎだしたので、お開きとして寝る準備をする。
「んーと、この壁の光る窓みたいなのは蓋をすればいいのかな?」
普通の窓の横にある小窓のようなところが蛍光灯くらいの光を放っていて部屋の中を照らしている、そこそこの光量があるので寝るには少し眩しい。
「うん!おひさまゴケはフタをしてまっ暗になると光らなくなるの!」
どうやらこの明るさは苔の一種が発しているものらしい、地球にも光る苔はあったが、こんなに明るくはないし、周りの光を遮ったら光が消えるようなものでもないので、この世界特有の物なのだろう。
小窓の下に置いてある蓋のようなものをはめていってしばらくたつと隙間から漏れていた光も消えてゆき部屋の中は外から入り込む月明かりだけとなった。
「それじゃあ、皆でおやすみなさいしよっか」
「「「うん!」」」
そういって布団代わりの布をかぶろうとすると皆が寄ってきてしっかとしがみつかれた、そしてふわふわの尻尾も巻き付けてくるので体は全く動かせなくなったが、ここが天国かと思えるほどのモフモフパラダイスである…わが人生に一片の悔いなし!
そして私は、人生最高のモフ布団の中であっさりと意識を手放した…
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