第2話 イタズラ大作戦

 悪役王子になることを決意してからの俺の動きは速かった。まずは俺の信頼を地の底まで落とす必要があるな。

 そのためにはまずイタズラだ。イタズラ小僧に俺はなる。


 とは言ったものの、七歳児がするイタズラってどんなものがあるのだろうか。スカートめくりとか? でも、みんな長いスカートをはいているんだよね。あのスカートをめくるのは、ちょっと大変なような気がする。


「うーん」

「どうしたのですか、レオニール様?」

「ニーナ、イタズラがしたいんだけど、何か手頃なイタズラはない?」

「ちょっと何言ってるか分からないですね」


 ニーナからけげんな顔をされてしまった。そうだよね、ニーナに聞いてもどうしようもないよね。

 ここは先人の知恵を借りるべきだろう。そうだ、俺の三つ年上の兄である、エル兄様から話を聞こう。魔法の訓練から逃げ出すくらいだから、きっとエル兄様は色んなイタズラをしているはずである。


 そんなわけで、エル兄様を探した。そして中庭でその姿を見つけた。何やら木剣を振っているな。確か、危険だから訓練場でしか素振りをしてはいけないはずなのに。


 さすがはイタズラ小僧に定評のあるエル兄様である。さっそくいいヒントをもらえたぞ。惜しむべきは、まだ剣術の訓練が始まっていないので、俺の手元に木剣がないことだ。そのため、まねすることは難しい。

 だが、これはさい先がいいと言うべきだろう。


「エル兄様、ここで素振りをしてはダメだったのではなかったですか?」

「おお、レオじゃないか。いいんだよ。バレなきゃ怒られないんだよ」


 そう言ってニカッと笑うエル兄様。さすがである。この発想。日頃からやり慣れてないとできない考え方だね。

 ……もしかすると、何度注意してもダメなので、もう見て見ぬ振りをされているのかもしれないけどさ。


「それなら私もやってみたいです!」

「お、レオもやるか?」

「ダメです。剣術の訓練で基礎を習っていない人が、安易に剣を握ってはいけません!」

「うわニーナ、急にどうしたの?」


 いつになく声を荒らげるニーナにちょっとビックリする。普段は元気爆発で俺を甘やかせてくれるタイプの子なのに。てっきりニーナなら、やらせてくれると思っていた。


「確かにニーナの言う通りだな。先生からも、ちゃんと剣の振り方を学んでからじゃないと、ダメだって言われてたっけ」

「それならエル兄様はいいのですか?」

「俺はいいんだよ。ちゃんと先生から合格点をもらっているからな」


 どうやらエル兄様は剣術の才能があるみたいだな。遠目に見えた、素振りをするエル兄様の姿も様になっていたからね。

 まあ今の俺なら、エル兄様の素振りを見ているので同じ動きができると思うけど。


 でも、それをここで披露するわけにはいかないな。つまり、ニーナの言う通り、ここで素振りはできないということである。

 残念無念。禁止エリアで木剣を振るという悪いことはできなかったようである。


 だが俺はあきらめない。目の前にはイタズラの申し子がいるのだ。エル兄様に話を聞けば、きっと俺にでもできるイタズラを教えてもらえるはずだ。


「それじゃエル兄様、何かすごいイタズラを教えて下さい!」

「レオニール様……」

「……ニーナ、レオは何か悪いものでも食べたのか?」

「いえ、拾い食いをした様子はなかったと記憶しておりますが」


 困ったようにニーナが眉を下げている。

 拾い食いか。いいね、それ。調理場に行ってつまみ食いをするとか、よくない?


「おっと、レオが悪そうな顔をして笑っているぞ。こりゃ何か悪いものを食べたな。ニーナの手作り料理とか食べさせてないよな?」

「な、な、な……! エルベルト第二王子殿下、庭で素振りをしていたことを国王陛下にお話してもいいのですよ?」

「うわ待ったニーナ、冗談、冗談だからさ!」


 ニーナの脅しに秒で折れたエル兄様。さすがニーナ、強い。ニーナの手料理はゲロマズだからね。まるで毒を作っているかのようである。本人にはそのつもりはないみたいだったけど。

 もちろんお父様からも止められているぞ。王命としてね。どんだけだよ。


「それで、エル兄様、何かないのですか? 色々、イタズラしてきたんでしょう?」

「弟からの謎の信頼が高くて困る。そうだなぁ、あんまり危なくないのがいいよな」


 おっと、さっそく雲行きが怪しくなってきたぞ。危ないイタズラはさすがにまずいのではないだろうか。もしもケガでもしたら、大変なことになるぞ。


「危ないイタズラとかあるのですか?」

「うん。お城の屋根の上に登ったりとか、勝手に馬に乗ってみたりとか、窓からロープで下りてみたりとか、池を泳いでみたりとか」

「穏便なイタズラでお願いします」


 エル兄様、何やってんの!? どんだけ肝が太いんだよ。危ないっていうレベルじゃないぞ。さすがにそんな危険なことはできないし、ニーナがさせてくれないだろう。

 ニーナは見た目よりも力が強いからね。ガッチリホールドされて、俺がニーナの腕を必死にタップする姿が目に浮かぶ。単に俺がモヤシっ子なだけかもしれないけど。


「それじゃあ、お城の廊下を全力疾走してみるとか、調理場で夕食を盗み食いするとか、あとは花壇の花を引っこ抜くとかかなぁ?」


 うーん、と考えながらエル兄様がひねり出してくれた。

 盗み食いはちょっと考えていたことだけど、廊下を走ったり、花壇の花を引っこ抜いたりは考えたことがなかったな。


 どれも見つかったら、お母様に怒られること間違いなしだな。でも、ちょっとショボいような気がする。もっとガツンとくるようなイタズラがいいんだよね。どうせやるならさ。

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