第3話 王城七不思議

「どれも面白そうだと思いますが、もっとすごいイタズラがしたいです」


 あ、ニーナの目が細くなっている。これは幻滅されたかもしれないな。だが、悪役王子になるということは、いつか越えなければならない壁だと思う。

 追放されるのは俺だけでよくて、ニーナまでついてくる必要はないのだから。


「それじゃ……王城七不思議に挑んでみるとかどうだ? どこも立ち入り禁止区域だし、そこに入るだけでも、イタズラになると思うけど」

「いいですね、それ。エル兄様、それにします。王城七不思議を教えて下さい!」

「よしよし、それじゃ、とっておきを……」

「レオニール様……」


 ニーナがあきれた顔をして俺を見ているが気づかない振りだ。これも王家の未来のためなのだ。許せ、ニーナ。俺が追放されたら、ニーナの仕事がなくなっちゃうかもしれないけどさ。


 ……ニーナが無職になるのは、それはそれで困るな。もしそんなことになりそうなら、エル兄様の監視役としてニーナをつけるようにお父様に提案しておこう。これならお父様の心も、少しは安らぐはずだ。


「これは俺が前にお城で働いている兵士たちに聞いた話なんだが、どうやらお城の地下深くに、厳重に閉ざされた扉があるらしい」

「初めて聞きました。その扉の向こうには何があるのですか?」

「どうやら、その昔、このお城にとても強いお化けが現れたそうなんだ」


 お化け? なんだかあやふやな表現だな。ゴーストとかレイスみたいな、魔物の名前だったら分かりやすかったのに。

 正体不明のお化けということは、その姿をだれも見たことがないのかもしれない。


「そのお化けがその扉の向こうにいるのですか?」

「まあ、落ち着くんだ、レオ。その扉の向こうには、さらに別の部屋へとつながっているらしい。そしてその先の部屋には、そのお化けを封印するための魔法陣が施されているという話だ」


 声のトーンを落とし、いつになく真面目な顔をしてエル兄様がそう言った。エル兄様って、そんな引き締まった顔もできるんだ。いつもは緩んだ顔をしているもんね。ちょっとビックリだ。


「ずいぶんと手が込んでいますね。魔法陣にお化けを封印することなんて、できるんですか? というか、そもそも魔法陣なんて見たことがないんですけど」

「俺もだよ、レオ」


 エル兄様の顔がフニャリと崩れた。

 ダメじゃん、それ! 怖い話をするのであれば、最後まで貫かないと。今ので台無しになったぞ。せっかくお城の地下に、何かすごいお化けが封印されていそうだったのに。

 これじゃ、何もないのは確定だね。


 でも、火のないところに煙は立たないと言うし、お化けじゃなくても、何かしらの隠したいものがそこにあるのかもしれない。

 隠したいもの……宝物庫か! そういえば、生まれてこの方、宝物庫を見たことがないぞ。


 ここはダイナスト王国のお城。宝物庫がないなんてことがあるだろうか。いや、ない。

 ある、絶対にある。宝物庫を見つけて、そこから貴重なアイテムを勝手に持ち出したとしたら。これはいいイタズラになりそうだ。

 追放されたときに備えて、部屋のどこかに隠しておくのもいいかもしれない。


「……ニーナ、レオがまた悪い顔をしているぞ。これはきっと行くつもりだな」

「その原因を作ったのはエルベルト第二王子殿下ではないですか。レオニール様が悪い子になったら、どのように責任を取るおつもりですか」

「そこはほら、若さ故の過ちというやつだよ」


 しれっとそう言ったエル兄様。エル兄様だって、まだ十歳の子供だよね? どうしてそんな悟ったかのような表情で、そんなこと言ってるの。それでニーナが納得するわけないじゃないか。


「なるほど、若さ故の過ちですか。それでは国王陛下へこのこともまとめて報告して、若さ故の過ちを認めてもらわなくてはなりませんね」

「待ったニーナ! 俺はレオに頼まれたから話しただけだぞ。俺のことを話せば、レオも一緒に怒られることになるんだからねっ!」


 相当慌てているのか、語尾がツンデレお嬢様みたいになっているエル兄様。でもエル兄様は男の子なので、あんまりグッとはこないぞ。

 だがしかし、ニーナにはグッときたようである。主に俺が怒られるという点で。


「ぐぬぬ……レオニール様が言われのないことで怒られるのは許容できません」

「そうだろう、そうだろう」


 そうなの? どこからどう見ても、俺がエル兄様にイタズラを聞いたわけだし、言われしかないような気がするんだけど。

 ときどき思うんだけど、ニーナの頭のネジって、何本か抜け落ちてない? いや、最初からネジ穴がないのか?


「まあ、まあ、ニーナ、落ち着いて。エル兄様は悪くないよ。だからみんなには内緒だよ?」

「レオニール様がそう言うのであれば……」


 しぶしぶといった様子でニーナがうなずいた。これでよし。下準備はオッケーだな。これでだれにも止められることなく、お城の地下探索ができるぞ。


 仮に、そこに何もなかったとしても、俺の行動範囲を広げることはできるのだ。行動範囲が広がれば、新しい出会いもあることだろう。実に楽しみだ。隠し通路とかないかな? 国王陛下を驚かせるのに使うことができるかもしれない。

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