愛され王子は追放されたい!

えながゆうき

第三王子は追放されたい!

第1話 第三王子は追放されたい!

「ああ、困ったぞ。そろそろ、ごまかしが通じなくなってくるころだ」


 思わずそうつぶやいて、俺は机の上に突っ伏した。

 どうしてこうなった。この世界に転生してもらったときにはバラ色の人生が待っていると思っていたのに。


「レオニール様、どうかなさいましたか? 先ほどから、大きなため息をついているみたいですが。まさか、恋ですか!? 不肖ながらこのニーナ、レオニール様の恋路を全力で応援させていただきますわ!」

「違うから。よけいなことしなくていいからね、ニーナ?」


 分かっているのか、いないのか、こげ茶色の目をこちらへ向けるニーナ。両手はグッと握られ、うなずいたその勢いで、茶色のポニーテールが上下に揺れた。


 はあ、とため息をついてから顔をあげると、机の上に置いてある鏡に目がとまった。

 そこには黒髪に黄金の目を持つ、七歳の少年の姿が見える。もちろんそれは俺である。そしてこの容姿も、悩みの種の一つだった。


 この髪と目のカラーリングが、国王陛下であるお父様とうり二つなのだ。王太子であるフレドリックお兄様は黒髪にサファイアブルーの目なのに。

 長い間、黄金の目を持つ人物が王位を継いでいたんだよね。一応、今はその風習がなくなっているみたいだけど。


 だが、何かの弾みでその風習が元に戻る可能性だってあると思う。例えば、兄よりも優れた弟がいた場合。ああ、ヤダヤダヤダー!


「はぁ……」

「恋の病ではないということは、もうすぐ始まる剣術の訓練が嫌なのですか? それとも、魔法の訓練の方ですか?」

「確かにその二つは、どっちも嫌だなー」


 剣術と魔法の訓練が始まれば、俺の規格外の力がみんなに知れ渡ってしまうかもしれない。

 うまく隠し通すことができればいいのだが、その数年後には王立学園へ通うことになる。そこまでくると、さすがに完璧に隠し通すことは難しいだろう。


 いや、不可能の言ってもいいかもしれない。どこかでうっかり自分の力を使ってしまうことになると思う。うっかり八兵衛はみんなのすぐ隣でサムズアップをキメているのだ。

 規格外の力を持った第三王子。しかも、大人顔負けの知識も持っている。当然だよね。転生前の記憶と一緒に、知識も引き継いでいるのだから。


 もしこのことが公になれば、絶対に目立つ。そしてよからぬことを考える貴族が必ず現れるはず。俺の思いなど関係なしに。

 そうなると、王位継承権でもめる可能性が非常に高くなる。下手すると、兄弟で戦うことになりかねない。家族と戦うだなんて、俺は絶対に嫌だぞ。


 だからと言って家出をすれば、草の根を分けてでも探し出されることになるだろう。だって、俺はダイナスト王国の王子様だからね。

 ううう……こんなことなら、転生特典なんてもらわなければよかった。喜んでもらった当時の自分を、助走をつけて殴りたい。


「レオニール様、剣術の訓練も、魔法の訓練も、どちらも大事な訓練ですからね? エルベルト第二王子殿下のように魔法の訓練から逃げていたら、怒られることになりますからね?」

「エル兄様、そんなことしてたんだ。知らなかった」

「あっ! 今のは聞かなかったことにして下さい。内緒にするようにと言われているのでした。もし私がレオニール様にそのことを話したことがバレたら、お城から追放されてしまいますわ。どうか、私に慈悲を」


 ははあ、と平伏するニーナ。

 このとき、俺に電流が走った。

 追放される?


「このままだと王位継承権で絶対に問題になる。それなら悪事を働いて、悪役王子になればいいんだ。そうすれば、成人する前に、城から追い出されることになるはず!」


 なんだ、簡単なことじゃないか。自分から出て行くことができないなら、追い出してもらえばいいのだ。そうだ、そうだよ。それならば、俺の力がバレたとしても問題ない。

 追放されたあとは、他国で冒険者にでもなればいいし。俺の人生、バラ色じゃん!


「レオニール様? レオニール様!」


 ああ、でも、今までいい子にしていたのに、急に悪役王子になったら、お母様が悲しむかもしれないな。お母様だけじゃない。セレーネお姉様も、きっと悲しむことだろう。もちろんお父様も、二人のお兄様たちも。


 ああ、やっぱりやめた方がいいのかな? 俺が頑張って隠し通せば、そんなことをしなくてもすむわけだし。でも、もし俺の真の力が広まってしまったら。

 俺は、俺は一体どうすればいいんだー!


「……様、レオニール様!」

「うわビックリした。どうしたの、ニーナ?」

「どうしたのではありません。先ほどから何度も名前を呼んでいるではないですか。それに頭を抱えていらっしゃいましたよ。またどうでもいいことをうだうだと考えていたのではないですか?」

「どうでもいいことじゃないし!」


 くそう。俺の専属メイドであるニーナとの距離が近いせいで、ニーナの物言いに遠慮がなくなってる。

 そのことを俺が国王陛下へ訴えたら、ニーナはすぐにお役御免になることに、気がついていないのだろうか? もちろんそんなことはしないけど。


「レオニール様、一人で悩んでいても、どうにもならないことはたくさんありますよ。まずはこのニーナに話してみませんか? だれにも言いませんから」

「……さっき、エル兄様の秘密をポロリと口から出していたよね?」


 サッとニーナが目をそらせた。ははは、こやつめ。ニーナに秘密を話してはいけない。ダメ、絶対。

 それから数日、俺はどうするのがベストなのかを考えた。考えすぎて夜しか眠れなかったくらいである。


 そして決意した。悪役王子になろう。俺の秘密がどこからか漏れて、血で血を洗うことになるよりかは、はるかにマシだ。念には念を。偉い人がそう言っていた。

 それに俺のそばにはいつもニーナがいるからね。ここから漏れる可能性が一番高い。

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